超音波検査を介して多職種連携が促進される
第51回日本救急医学会総会・学術集会の話題より
取材記事
2023.12.18 週刊医学界新聞(通常号):第3546号より
第51回日本救急医学会総会・学術集会(会長=国立国際医療研究センター・木村昭夫氏:右写真)が11月28日~30日,「日本の救急医学を世界的視野から俯瞰する」をテーマに東京ドームシティ(東京都文京区)にて開催された。本紙では,パネルディスカッション「多職種と構築する超音波における共通言語」(司会=東京ベイ・浦安市川医療センター・舩越拓氏,兵庫県立こども病院・竹井寛和氏)の模様を報告する。
◆超音波検査はチーム医療のハブになり得るか
最初に登壇したのは隠岐島前病院の白石吉彦氏。都心部に比べ医療機関が限られるへき地や離島の総合診療医は内科系や運動器系など幅広いcommon diseaseに対応しなければならず,その際に職種を問わず超音波検査を施行可能で,多職種と協働する際の共通言語となっていると氏は述べた。超音波検査が多職種連携を促す具体例として,外来患者に対して理学療法士がエコーによる評価を行ってからハイドロリリースのオーダーが入るフローや,看護師が施行した超音波検査の画像を基に入院患者の治療方針を検討していることを紹介した。「地域医療にこそエコーを積極的に活用していきたい」と決意を語った。
感覚的に検査が施行されていることを問題視した日大の小川眞広氏は,超音波検査の弱点を位置情報が欠如した任意断面の画像が多いことから客観性に乏しく,所見を第三者に共有しづらい点だと指摘した。慢性期医療と比較して救急医療でも経過観察が可能な画像保存方法の有用性は高いとした上で,臨床現場で頻用される超音波検査では,評価の基準となる描出断面統一の必要性を強調。「学会が推奨する基準断面を描出(設定)することで,超音波検査の客観性は高まる」と検査後に再評価できる画像保存方法の重要性を説いた。
続いて辻󠄀本真由美氏(横市大附属市民総合医療センターEICU)は,EICUの看護師を対象に,2022年8月より行うPOCUS(Point Of Care Ultrasound)教育プログラムの概要を会場に共有した。同プログラムで行われた肺・直腸・血管・膀胱に対するPOCUSの各OSCEおよびアンケート結果を示し,ほぼ全ての受講者がPOCUSの活用に有用性を感じている一方で,描出結果の評価や解釈に自信が持てない者もみられたと述べた。教育の対策として,臨床現場で看護師がPOCUSを行った際に疑問な点をタイムリーに相談・質問できる環境づくりや症例の共有を挙げ,超音波を活用して多職種と連携するには,看護領域におけるPOCUSの経験蓄積が求められると主張した。
最後に登壇した岡山大病院の上田浩平氏は,外傷の初期診療における迅速簡易超音波検査(Focused Assessment with Sonography for Trauma:FAST)を救急救命士が行う可能性について言及した。氏は岡山市の救急救命士を対象に,独自に作成したFASTに関する教育コンテンツとハンズオンによる勉強会を開催。また,救急車に見立てたドクターカー内で病院救急救命士がウェアラブルカメラを装着しFASTを実施する検証を行ったところ,電波環境の影響や操作に対する指示に時間を要した場面がみられたものの,画像伝送は診断に有用であり,医師の指示下での救急救命士によるFASTの可能性が示された。「救急救命士によるFASTを普及させていくには,対象患者,教育と評価,医師との指示系統など課題は多い」とさらなる検討の必要性を語り,発表を締めくくった。
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