医学界新聞

書評

2023.12.11 週刊医学界新聞(看護号):第3545号より

《評者》 東海大学特任講師・看護学

 Quality of Life(QOL)の評価に関心を持ったときに,ぶちあたる壁があるとすれば,主に,「そもそも『QOLを測る』ってどういうこと?」「どんな調査項目で何を測れるのか?」「QOL測定の計量心理学的な評価って何?」ではないでしょうか。本書は,「臨床・研究で活用できる!」ことに主眼を置いて,この3つの観点がカバーされています。目次に記載されている尺度を数えると,その数46! に上り,「QOL評価を臨床や研究で取り入れたい」と思ったときに,最初に手に取る一冊として最適です。

 本書の特長の1つは,上記「どんな調査項目で何を測れるのか?」への答えとして,実際の調査票のサンプルを見ることができる点です。編者の「序」でも述べられていますが,これだけの尺度を取り上げるに当たり,著作権の問題などをクリアしていく作業は非常に大変だったであろうことが,容易に想像できます。本来であれば,活用したい人が(まだ実際に活用するかはわからないけれど)自ら取り寄せるなど,さまざまな作業を要します。また,実際に尺度を使うときには,「尺度が開発された論文の原典を調べる」「スコアリングの方法を確認する」「使用許諾について確認する」といった作業も必要ですが,本書では尺度の使い方とともに,充実した引用文献が提示されています。私たちは本書を通して,本来自分たちでやるべき労力が大幅にカットされる! という恩恵にあずかることができます。

 ところで,「QOLを評価する」と聞いたとき,どのように感じるでしょうか? 「QOLは患者自身の主観的なもので,数値で評価すること自体が相反するのでは?(半信半疑)」という人もいれば,「主観的なものを数値で測るって,なんだろう!?(興味津々)」という人もいるのではないでしょうか。私の場合は,後者でした。

 私がQOL評価を初めて知ったのは,約20年前の大学時代にさかのぼります。授業やゼミでは,こんな議論がありました。「臨床研究のアウトカムとして,死亡率や合併症の発症率といった客観的なアウトカムだけではなく,患者自身の主観的評価が求められている」ことを背景に,「治療による効果よりも,副作用による日常生活への支障や心理的な負担が大きいとしたら,その治療は患者にとって最善なのだろうか?」と。そのような問題意識のもと,「QOLを測る」ことへの挑戦があると知り,とても印象に残りました。

 また,当時から私が関心を持っているのは,QOL評価の中でも,なぜ「健康関連QOL」に焦点を当てるのか?ということです。もちろん患者にとっては,医療は生活の一部分であり,健康に関連するQOLだけが“切り取られる”わけではありません。また,患者のあらゆることを医療のみでカバーできるわけでもありません。医療者には,医療の枠だけにとどまらない全人的な視点が求められていることは大前提ですが,それでも「医療を評価しよう」とするときには,医療によって変えることができる部分と,変えることが難しい部分を見極める必要も生じます。このような「そもそも『QOLを測る』ってどういうこと?」については,本書の「総論 QOLとは」の章が,緻密に重ねられてきた議論を理解する助けとなります。本書は,明日からQOL評価に取り組みたい! という方に最適なのはもちろん,いますぐ活用することは考えていなくても,まずはその意義や意味をしっかり考えてみたいという方にもお薦めです。

 QOL評価が,より良い医療の一助となることを願って――。

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