医学界新聞

書評

2023.11.27 週刊医学界新聞(看護号):第3543号より

《評者》 藤田医大病院副院長・統括看護部長

 看護技術が看て,覚え,経験に基づき実践されていた時代から,エビデンスに基づき実践する時代へと移り変わってきています。

 『フィジカルアセスメントに活かす 看護のためのはじめてのエコー』,この書籍を手に取ったとき,肝切除術後の効果的な離床について,超音波機器(エコー)を用いて肝血流量を視ながら検討をする看護研究に取り組んでいた時のことを思い出しました。当時,看護のための超音波機器に関する書籍は皆無に等しく,医師と共に大きな超音波機器をその都度,病室に運んで行った記憶がよみがえってきました。今はポケットエコーも登場し,本書を読みながら時代の変遷を感じるとともに,社会のニーズに応じた看護の役割拡大の「時」,チャンスが来ていることを実感しました。本書はイラストや写真,そしてわかりやすい言葉で説明され,初心者でも超音波を身近に感じることができる内容です。

 第1章では,基礎教育課程からフィジカルアセスメントがカリキュラムに組み込まれる中,超音波機器の活用もフィジカルイグザミネーションのスキルの一つととらえる時代になったことや,看護師が超音波機器を使用することに法的な問題はなく,「特定行為に係る看護師の研修制度」の施行にあわせ業務の幅は広がり,今後は在宅医療においても看護師が超音波機器を使用する場面が広がっていくことが説明されています。第2章では,超音波検査の安全性と使い方が具体的に示されています。第3章は解剖の解説です。解剖を知らずしてプローブを当てることはできません。体表と臓器の関係について,最も基本的な臓器の位置関係がイラストで示されています。第4章の実践編では,排尿困難な患者への残尿の観察,腹部膨満感を訴える患者への便秘の観察,褥瘡の観察,むせこむ患者への嚥下状態の観察など,看護師がベッドサイドで判断に迷う状況に遭遇したときに,エコー画像を活用してアセスメントをする手技が具体的に示され,幅広い看護場面で活用できることが説明されています。本書の目的でもある,医師は診断・治療のために超音波機器を使い,看護師は日常生活援助のために超音波機器を使うことを再認識させる章となります。最終章では,患者さんの訴えや症状から病態を予測して超音波機器を使用する事例を用いた応用編でまとめられています。また,付録のWeb動画ではプローブを当てる場所や画像の見方が実際の動画で確認できます。本書に添った無料セミナーは,CLoCMiP®レベルⅢ認証申請の選択研修としても開催されました(2023年10月18日実施)。

 身体の中を看て看護判断することで,フィジカルアセスメント力は向上します。超音波機器を使用することにちゅうちょせず,まずは本書を読んでプローブを手に取り体表に当ててみることから始めてみましょう。看護師の誰もが超音波機器による観察や,画像を読み解く力を身につける時代がすぐそこに来ています。


《評者》 キオクシア(株)四日市工場総務部 安全健康担当参事・保健師

 本書は,産業医として活動している精神科医を中心に,適切な精神医学知識と最新知見をベースとしてQ&A形式の平易な表現で執筆された,職場のメンタルヘルスケアにかかわる全ての人に向けた新しい入門書となっている。その特長は「まさに今,現場で起こっている本当に知りたい問題」に対して,「実践的でわかりやすい解説書」となっているところにあり,日々現場で対応に困っている事例から事業場での予防活動へのスムーズな展開に向けてなど,かなり広範囲かつ体系的に問題が取り上げられている。

 それもそのはず,産業医・精神科医として職域のメンタルヘルス問題に長年対応されてきている宮岡等先生を編集代表として,産業医経験を持ちつつ産業精神医学が専門の田中克俊先生,精神科をベースにして産業医として活動している鎌田直樹先生の3人がタッグを組んで企画検討する中で,現場で最前線に立つ産業医・産業保健スタッフにあらかじめアンケート調査を実施したという。目次にそのような工夫が凝らされていることもあり,現場担当者にとって知りたい内容が即座に検索しやすい構成となっている。

 さらに,この3人の先生方ならではの「職域の現場では,産業保健スタッフの協力が不可欠である」「場合によっては,メディカルな知識よりもリーガルな考え方のほうが重要になる」といった観点から,職域のメンタルヘルスを専門とする看護師・保健師である三木明子先生,職域の法的問題に造詣の深い弁護士である淀川亮先生の2人が編集に加わることにより,職場の悩み解決につながる,多面的な視点での対応例が豊富に示されていることも本書の魅力であろう。

 本書の序文でも指摘されていたように,メンタルヘルス問題は,ネット上に多くの情報があふれる中で,ともすると一般常識だけで理解・対応できるような気になり,最新知見と適切な精神医学知識をアップデートしないままでは,不適切な対応につながる可能性がある。それによりメンタルヘルス問題を抱える従業員本人だけでなく,上司や同僚,人事労務担当者にとって,望ましくない結果を引き起こすこともあるのが現実でもある。

 現場の最前線で実務にかかわるものとして,より良い活動の実践に向けた知識のアップデートには一苦労するが,まずは自分の知りたい情報に目次から触れてみるのも,知識の体系化や問題解決のヒントにつながるのではないだろうか。メンタルヘルス問題に苦手意識をもつ産業医・産業保健スタッフはもちろんのこと,メンタルヘルスにかかわる全ての人にお薦めしたい良書であり,ぜひ手に取って読んでほしい一冊である。

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