医学界新聞

取材記事

2023.11.27 週刊医学界新聞(看護号):第3543号より

 第82回日本公衆衛生学会総会(学会長=筑波大・田宮菜奈子氏)が10月31日~11月2日,「実践と研究のシナジーが織りなす保健医療介護サービスの進化と調和」をテーマにつくば国際会議場(つくば市)にて開催された。本紙では,厚労科研「地域保健における保健所に求められる役割の明確化に向けた研究(尾島班)」において2022年10月~23年1月に全国の保健所を対象としたアンケート調査結果を基に企画されたシンポジウム「健康危機管理の拠点として求められる保健所の機能」(座長=枚方市保健所・白井千香氏,浜松医大・尾島俊之氏)の模様を報告する。

ソフトとハードの両面から保健所の機能を探る

 山下十喜氏(広島県健康福祉局)は,同調査の回答が得られたおよそ6割の保健所のうち,地域保健専門職の人員定数を満たすのは5割であり,育成面では多くの保健所が各種研修会や人材育成マニュアル策定等で対応していることを会場へ共有した。そうした中で広島県では,地域保健専門職の人材確保と育成のため,新型コロナウイルス感染症による施設クラスター対応能力向上を目的とした定期的な対策会議の開催や,県内の市町と人材派遣に関する応援協定を締結したこと等を報告。専門職の確保と育成に向けて業務の余裕,予算の確保等が同調査結果からも求められていることを指摘し,専門人材の確保と育成は一朝一夕ではいかず,計画的に進めてほしいと述べた。

 コロナ禍で医療・介護提供体制を自ら構築した保健所が3割以下であったこと,そしてその主な理由が「保健所の業務でないため」「都道府県・市町村の役割であるため」であったことを問題提起したのは兵庫県中部5市1町を管轄する加東保健所の逢坂悟郎氏。同保健所では,管内コロナ病床会議で「住民の命を守るという目的意識」を共有し,入院の短期化と自宅療養という方針を示すだけでなく,往診医・訪問看護ステーションへのセミナーを実施することで,自宅療養者への医療・介護体制を構築してきたことを報告した。平時はもとより,保健所は都道府県・市町村と協力しつつ,管内の医療・介護とその連携の体制構築に努力すべきであると呼びかけた。

 ①国・自治体・保健所の連携,②保健所体制整備の視点で同調査結果を検証した永井仁美氏(茨木保健所)は,本年4月に施行された改正感染症法では,都道府県,保健所設置市・特別区,その他関係者の平時からの意思疎通・情報共有・連携推進について記されたことに言及。自らが所属する大阪府では府保健所9か所と,政令指定都市・中核都市保健所9か所が患者情報を一元化した実例を紹介した。また,保健所の多くは人事面・予算面で裁量権をもっていないソフト面の課題と,執務室や当直室の拡大や整備といった保健所施設のハード面の課題を調査結果から示し,総務系部局や施設管理担当部局も含めた保健所体制整備の検討を求めた。

 摂南大建築学科の小林健治氏は,建築学の立場から健康危機管理の拠点となる保健所を考察した。氏は独自に行った保健所執務経験者へのヒアリング調査と,建物管理資料から,築年数が経過した保健所を中心にソフト面(組織・実務体制)とハード面(建物・施設)の間に乖離が生じていることを指摘。平時と災害時をシームレスにつなぐこれからの保健所建築として,建物の内と外,敷地内と敷地外,保健所と他関係施設など,それぞれを分けてとらえないことが必要であると述べた。最後に氏は,建築にはお金と時間がかかるが,保健所自体の建て替え時期が迫っている今こそ一度,保健所建築について考えてほしいと期待を寄せた。


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