医学界新聞


第61回日本癌治療学会学術集会の話題より

取材記事

2023.11.13 週刊医学界新聞(レジデント号):第3541号より

 第61回日本癌治療学会学術集会(大会長=慶大・大家基嗣氏)が,「がん診療,一気通貫――力を合わせて,相乗効果」をテーマにパシフィコ横浜(横浜市)にて開催された。本紙では,特別企画シンポジウム「外来化学療法に由来する医療事故――どうすれば防げる」(座長=慶大・浜本康夫氏,藤田医大・河田健司氏)の模様を報告する。

 病院機能評価を通じて医療の質・安全の向上を支援する日本医療機能評価機構を代表して登壇したのは栗原博之氏だ。2023年4月より運用が開始された「機能種別版評価項目<3rdG:Ver.3.0>」の概要を説明した後,特定機能病院等の高度医療を提供する医療施設(一般病院3)においては,外来化学療法室への部署訪問によって外来化学療法の実施体制と業務フローを評価していることを紹介した。

 同調査の特徴として氏が挙げたのは,患者トレースである。病院側が選択した治療中の患者1人のカルテを参照しながら,①患者が安心して化学療法を受けられるか,②投与中の患者の状態確認がなされているか,③医療者が曝露しない体制が整備されているか,④適応外使用のレジメンをどのように差別化しているかなどがチェックされている。「標準化に向けた手順の検討と,実施マニュアルの整備・周知徹底を求めたい」と院内での実施体制の検討・見直しを呼び掛けた。

◆患者も含めたチームによる協働で外来化学療法に関連した医療事故を防ぐ

 発表冒頭,WHOの2023年のテーマである「患者安全のための患者の参加」(Engaging Patients for Patient Safety)を紹介し,医療者―患者間のコミュニケーションの齟齬を防ぐ意義を強調した辰巳陽一氏(近畿大)は,外来化学療法における心理的安全性とレジリエンスの果たす役割について発表を行った。ハイリスク行為である外来化学療法を成功に導くには,患者も含めたチームでの情報共有や意思疎通が欠かせないとした一方で,現状はそうしたコミュニケーションに不十分な部分が存在すると指摘。病態や治療に関する説明が効果的でないことから,患者側の理解度が不足し,意思決定を適切に行えていないケースがあるのではないかと問題提起をした。「意見や懸念を自由に表明できる環境を構築した上で,治療に関する情報を適切に理解し医療チームへの帰属意識を患者側に持たせる必要がある。そのためには心理的安全性・レジリエンスの醸成が不可欠だ」と参加者に訴えた。

 続いて,北里大病院医療安全推進室で副室長を務める荒井有美氏は,インシデント報告の必要性を説いた。「エラーの発生原因を個々の医療者にのみ求めるべきではなく,根源的なリスクが組織全体に内在すると考え,発生した経験を生かし患者の安全を守ることがインシデント報告の実施における大前提」とし,「報告されたインシデント事例を集積・分析し,事故の未然防止につなげる予防策の検討が重要」と氏は強調する。医療の高度化・深化を踏まえ,もはや個人の知識や経験だけでは全てのリスクを把握することは難しく,多職種の視点や他院のインシデント報告の内容にも目を通すことでリスクファクターの特定につなげる必要があるとの考えを示した。

 医療者教育学を専門とする医療安全管理者の立場から,より安全な外来化学療法を行うための方策を提示したのは清水郁夫氏(千葉大)である。病院職員のように人格や社会的役割の確立した成人学習者は,その学習特性として自身の職責に敏感であることから,根拠なく自身の職責を変更される学習には消極的になるという教育学的見地について話題提供し,まずは「必要性や重要性が見えていないものを気付かせること」が求められるとした。氏は,処方(意思決定と処方箋の作成)が担当医師1人によってなされること,処方~調剤までの時間的余裕が少ないこと,投与がルーチン化しやすく都度の投与可否判断が影響されることを具体例として挙げ,外来というセッティングの特性や診療プロセスの盲点等,エラーが起こりやすい環境を踏まえた情報共有の必要性を述べた。

 その他,法律家の立場から化学療法の提供体制の変遷に伴う法制度について,悪性リンパ腫を患った際に受けた抗がん薬治療の体験を交えた患者側の期待について,それぞれ児玉安司氏(一橋大),天野慎介氏(全国がん患者団体連合会)が発表を行った。


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