医学界新聞

書評

2023.10.16 週刊医学界新聞(通常号):第3537号より

《評者》 岡山大学前学長
香川県病院事業管理者

 2023年6月に13年ぶりの大改訂により『専門医のための腎臓病学 第3版』が医学書院より出版された。本書は臨床の第一線の場で,腎臓病患者を診療する臨床医はもちろん,これから腎臓専門医をめざそうという研修医・若手医師を対象として,現時点における腎臓病学に関する最新の知見を披歴することを目的として2002年に初版が刊行されたものであり,20年以上版を重ねるロングセラーである。

 今回の編集者は日本腎臓学会前理事長の柏原直樹特任教授,現理事長の南学正臣教授,腎臓領域の研究をリードされている柳田素子教授,小児腎臓病領域の第一人者の金子一成教授の4人である。各項の執筆者はその領域に精通し第一線で活躍しておられる専門家が選ばれており,内科のみならず小児腎臓専門医においても本書を活用していただきたい。

 本書は「Ⅰ.症候編」「Ⅱ.疾患総論(疾患概念)」と「Ⅲ.疾患各論」の3部構成であるが,この13年間の腎臓分野における進歩を反映して疾患総論(疾患概念)の部では「急性腎障害(AKI)」と「サルコペニア・フレイルと腎」が,疾患各論の部では「IgG4関連腎臓病」と「悪性腫瘍と腎障害」が追加されている。

 “人は血管とともに老いる”という言葉がある。超高齢社会を迎えたわが国において慢性腎臓病患者はサルコペニア・フレイルを保存期から高率に合併しており,慢性腎臓病患者に対して良質な医療を施す上で考慮すべき重要な項目となっている。超高齢者という項目を加えて老年医学の観点からさらなる深掘りがあれば,日常診療に役立つと思われる。

 また,IgG4関連腎臓病は新しい疾患概念で,評者が日本腎臓学会の理事長を務めていた2009年にIgG4関連腎臓病ワーキンググループを立ち上げ,「IgG4関連腎臓病診療指針」を発刊し,その啓発に努めたのを懐かしく思い出した。

 各項に関係する文献を,二次元バーコード(QRコード)あるいはURL参照とすることで見やすくなっているが,それでもなお総ページ数が第2版より40ページも増えている。腎臓病学の発展が著しいことの証しである。今後さらに内容が充実するようであれば,本書を持ち歩くのが重くて大変になるので,分冊化の検討が必要かもしれない。電子版も同時に発行されており,こちらでの活用も検討していただきたい。

 先日,日本腎臓学会学術総会に久しぶりに出席し,現役で活躍している先生方から最近の腎臓病の進展についてお教えいただいた。日常診療に当たっては最新の知識を患者さんの診療に生かすことが必要であり,学会に出席することも重要である。しかし,そこで学べなかったことやさらに幅広く系統的に学びたいときに役立つのが本書である。

 ぜひ手元に置いて総合的に腎臓病学を学んでほしい。


《評者》 日本病院薬剤師会会長

 多くの医療従事者が,投薬の際に授乳の有無を確認し,また薬剤服用可否の質問を受けた経験をもつと思う。薬を使用しないで済むのなら,それはそれに越したことはない。しかし,体調維持に薬が不可欠なものとなっている場合,投薬の対象は,治験の被検者となる層だけではなく,授乳中の母親も対象となる。臨床試験がない,添付文書に記載がないというだけで,「わからないから授乳はやめましょう」「薬をやめましょう」と何気なく答えてはいないだろうか。間違ってはいないが正しくもない,そんなジレンマを感じていないだろうか。

 本書は,医薬品集に頻用される授乳婦に対するカテゴリー分類の基となる,Hale博士の原書を翻訳したものである。世界共通で使用されている原書は第20版を迎え,新しい薬剤が追加されるだけでなく,既掲載の薬物のデータが改訂の都度更新されているのも特徴である。これまでの文献報告や学会での提言,わかってきたことなどが簡潔にまとめられ,判断に至った理由がとてもわかりやすく説明されている。また薬剤だけでなく,コロナウイルスに対する見解など,最新の話題があることも臨床に適したツールの一つとなる理由である。

 新しい薬剤についての情報はまだまだ十分でないものも多いが,その際は,古くからある使用歴やデータが蓄積され,安全性がある程度確立されている薬を選ぶのが基本である。本書には,その際の参考となる代替薬が提示されているため,患者の治療に欠かせない薬剤を考える参考になると思われる。

 さらには,薬品ごとに薬物動態が簡潔にまとめられているのがありがたい。特に薬の情報を扱うことが多い薬剤師にとっては,半減期や蛋白結合率,バイオアベイラビリティなど,薬剤師ならではの観点で薬剤を評価する際の一助となるであろう。また,母乳への移行度の指標となる分子量や薬剤の母乳中/血漿中濃度比の考え方は,薬剤師にとっても通常業務で使用するものではなく,この分野を学ぶきっかけにもなるだろう。

 ただし,授乳時の薬剤については,吸収,分布,代謝,排泄の検討が母親を対象とするだけでなく,乳児においても考える必要がある。乳児の体内動態はわからないことも多いが,一般には臨床的に問題となることはない。しかし本書には,乳児において考えられる副作用やモニタリングすべきことも掲載されており,医療従事者の安心につながるだけでなく,母親の安心につながる情報源となるだろう。

 添付文書「9.6授乳婦」に「治療上の有益性及び母乳栄養の有益性を考慮し,授乳の継続又は中止を検討すること」「動物実験で母乳中へ移行することが報告されている」と記載されている場合,薬剤あるいは授乳はやめる! という二択しかないのだろうか。授乳中の薬剤を考えるとき,ぜひ本書を最初に開く本にしてほしい。

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