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書評
2023.10.09 週刊医学界新聞(レジデント号):第3536号より
《評者》 薬師寺 泰匡 薬師寺慈恵病院院長
バイブルの評価などできない!!
救急外来では,迅速かつ正確に患者の病態を把握して,緊急性が高い場合には即時介入し,生命予後を左右するような疾患の除外をし,さらにはその場で行わねばならない処置を的確に行う必要があります。毎日がこれの繰り返し。しかし,患者さんは千差万別。同じ疾患でも,全く異なる症状でやってくることも多々あるので,毎日やみくもに働いているだけでは救急対応の能力は磨かれません。緊急性の判断や,除外診断を適切に行うには,膨大な時間と経験が必要になります。もちろん,不適切な修行は時間の無駄ですし,何をしてよいか悩んでいる時間すらリスクになるのが救急外来です。われわれには道しるべが必要なのです。
初期臨床研修は,研修医一人当たりかなりの数の救急車対応をする病院で学ばせてもらいました。が,当然最初は進むべき道がわかりません。途方に暮れる研修医に道を照らしてくれたのが,この『問題解決型救急初期診療』でした。まず行うべきことは当然網羅されており,症候から入る構成になっているので,実際の診療時と同じ思考過程をたどることができます。26の症状に始まり,外傷や熱傷,中毒,ショック,蘇生など救急医が専門とする分野,そして精神科救急までまとめられていますから,大部分の救急患者はこの一冊があれば対応可能で,少なくとも何をしていいのかわからないという状況には決してならないことが約束されています。確かな救急外来の道しるべ。これは救急外来のバイブルです。
というわけで,書評を書いてくださいと言われ面食らいました。研修医のころから愛用し,後輩にもオススメしてきた,おそらく救急医であれば一度は目にしたであろう書籍の評価をしろというわけです。誰がバイブルの評価をできるというのでしょうか。まだ日本で救急科を掲げることすらなかった2003年に初版が出版され,20年にもわたり増刷改訂を続けて,現場の救急医に愛されてきたのです。その事実が書籍の価値を十分物語っております。
救急医として10年以上働いてきた上で,その価値を再確認しています。改めて読み直すと,最前線の救急医として考えるべきことが,きれいにトレースされたかのように記載されています。例えば,「30歳代女性,今朝からの腹痛」と搬入依頼が来たとしましょう。救急医は,「急性胃腸炎だろうか?」などと考えません。「外傷じゃないよね? そうじゃなければ産科,婦人科疾患から考えようか……」となります。これがそのままフローチャートになって載っています。いや,これはむしろ,この本で勉強しこの本で型を身につけたからであって,すでにこの書籍は救急医の一部として道を照らし続けているだけということなのかもしれません。
改訂に当たり,COVID-19など,最新の情報も追加されています。参考文献もきちんと示されています。研修医から救急ローテ中にどの書籍を買うべきか尋ねられたら,自分のではなくこちらをオススメしています。
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