医学界新聞

取材記事

2023.10.09 週刊医学界新聞(レジデント号):第3536号より

 日本睡眠学会第45回定期学術集会(会長=筑波大・柳沢正史氏)が,「Sleepless in Somnology and Chronobiology――睡眠と生物時計が面白くて眠れない」をテーマにパシフィコ横浜(横浜市)にて開催された。本紙では,ワークショップ「ウェアブルデバイスの将来性と問題点」(座長=広島大・林光緒氏,広島国際大・田中秀樹氏)の模様を報告する。

◆低負担・低コストでビッグデータを集める

 初めに登壇したのは,ゆみのハートクリニックの川名ふさ江氏。氏はウェアブルデバイスの臨床での受け止められ方について,順大循環器内科医師と虎の門病院睡眠呼吸器科・循環器内科医師からのヒアリング内容を交えて紹介。循環器領域では,ウェアブルデバイスにより発作性心房細動が確認でき,治療介入に至ったポジティブなケースもあったものの,体調に問題がない患者がデバイスからの忠告により不必要に不安をあおられたネガティブなケースもあるとした。また,睡眠においてはデバイスの判定精度が不完全なため現在何らかの治療につなげるのは困難であると言う。氏は,反復睡眠潜時検査(MSLT:Multiple Sleep Latency Test)という過眠の客観的評価を目的とする検査診断には睡眠日誌の情報が必須であるものの患者からの協力が得にくい問題に触れ,睡眠日誌をウェアブルデバイスで代用可能なのではないかという私見を述べた。

 東大の南陽一氏は,加速度計を用いて行う睡眠・覚醒判定法と,それを活用した子ども向け睡眠健診の可能性について解説した。東大の研究チームは,ウェアブルデバイスを用いて得られた加速度データから睡眠・覚醒を精度・感度・特異度高く判定する簡便な方法であるACCEL法を開発。実社会のデータを用いた実験も行い,睡眠のパターンをグループ分けすることに成功した。現在は子どもを対象とした大規模睡眠解析に取り組んでおり,幅広い年齢層の子どもの睡眠データを計測することで,子どもの睡眠の全体像を客観的に正確に把握したいと語る。氏は大人向けの睡眠健診については仕組みが充実しつつあるものの,子どもについては十分でないとし,得られた結果を活用して今後子ども向けの睡眠健診を実現したいと話した。

 シート型体振動計による睡眠モニタについて説明したのは,パラマウントベッド株式会社の木暮貴政氏。シート型体振動計はマットレスの胸の下あたりに敷き込んで使用し,得られる振動から呼吸数・心拍数,呼吸イベント指数,周期性体動指数などを測定するもの。1分毎に睡眠・覚醒を判定でき,リアルタイムかつオンラインで睡眠状態がわかるため,現在は介護施設の見守り支援システムとして普及している。睡眠を妨げないように覚醒時に訪室することができるため,本人のQOL向上と介護者の負担軽減が見込まれるという。氏は「普及している見守り支援システムの睡眠データを利用した,今後のさらなる研究が期待される」と語った。

 筑波大の鈴木陽子氏は,活動量計と睡眠モニタを比較しながら腕時計型睡眠計測装置のメリット・デメリットについて発表した。活動量計は医療機器として承認されており,概日リズム睡眠・覚醒障害や不眠症などの診療に用いられてきたものの,じっとしている時間を睡眠としてカウントするため,実際の睡眠時間とデータの乖離が見られる。一方,近年市販されている睡眠モニタは睡眠・覚醒判定精度が向上し,さらに睡眠段階判定ができる。しかし研究の結果,睡眠段階判定の精度にはまだ課題が残るという。睡眠の問題を過大評価すると余計な不安を生み,過少評価すると治療の遅れを生むとし,できることと限界点を理解して機器を利用することが大切と強調した。氏は,将来的にビッグデータや機械学習の活用で睡眠段階判定精度が向上し,個別化医療へ活用できると未来への可能性を示して発表を終えた。

 最後に,睡眠評価研究機構の白川修一郎氏が登壇し,睡眠ポリグラフ検査(PSG)による睡眠評価(脳波的睡眠評価)とウェアブル/ニアブルデバイスによる睡眠評価(行動的睡眠評価)は異なるものであることを理解して活用するのが望ましいと強調。ウェアブル/ニアブルデバイスは睡眠中の多種類の生理指標を低負担・低費用で長期にわたって同時測定できるため,ビックデータの蓄積が容易であり,また睡眠をPSGとは異なる視点から解析できる可能性があると述べた。ウェアブル/ニアブルデバイスの活用を進めるためには,現在メーカーによって異なる結果が出てしまう睡眠の測定結果を統一する必要があり,またデバイス・アプリ間の睡眠に関する用語の統一や測定データの使用可能範囲,AIのアルゴリズムの明確化などが必要だと指摘した。


開く

医学書院IDの登録設定により、
更新通知をメールで受け取れます。

医学界新聞公式SNS

  • Facebook