医学界新聞

書評

2023.09.25 週刊医学界新聞(看護号):第3534号より

《評者》 青山学院大経営学部教授

 経験から学ぶために欠かせないのが「経験の振り返り」であり,指導者は何らかの問いかけ(発問)によって学習者の振り返りを促す。しかし,発問だけの指導だと,学習者は自分の振り返り内容が正しかったのかどうか迷ってしまう。そこで必要なのが,適切な「応答」である。「発問」と「応答」をうまく組み合わせることが,優れた指導だといえる。しかし,教育の現場では,発問ばかりで応答が少ない「考えさせすぎ型」や,発問が少なく応答ばかりの「教えすぎ型」の指導者が多いのではないだろうか。そうした教員に対し,有益なアドバイスを与えてくれるのが本書である。以下では,「解説編」と「実践編」という二本立てで構成されている本書のエッセンスを紹介したい。

 「発問」とは,「教育的な意図を持った問いの投げかけ」であり,見るべき視点と考える枠組みを与えることで学習をガイドする働きをしている。ここで注意すべきことは,「導入」→「展開」(発散,収束,深化)→「まとめ」という授業の流れの中で,発問の仕方を変える必要があるという点である。実践編において紹介されている有効なテクニックとして「答えやすい問いでリズムをつくる」「答えやすい問いから始めて,段階的に掘り下げる」「席を外して学生に考えさせる」「学生同士で話し合うピア・ラーニングで考えさせる」「ロールプレイで考えさせて,答えを待つ」「相談スタイルの問いで一緒に悩む」といった発問を挙げることができる。

 一方,「応答」とは,「学習者からの発言や意見,考えを受け止め,それに対して指導者が反応を返すこと」であり,学習者の自己肯定感や学びへのモチベーションを高め,思考を深める役割がある。応答の基本パターンは「待つ」「聴く」「確かめる」「返す」であり,学習者の心理的安全性を高めることを意識しなければならない。実践的テクニックとして参考になったのは,「授業開始時に,教員の自己開示で興味を持たせる」「ポジティブなショートメッセージで課題にフィードバックする」「印象的なレポートを紹介する」「相手の話に興味を持ち,共感しながら聞く」「どんな返答も否定せず,いったんすべて受け止める」「自分が明確な指示を出しているかを確認する」「自分の怒りをコントロールする」といった手法である。

 「考えさせすぎ型」や「教えすぎ型」の指導から脱却したいと考える教師にとって,本書は有益なガイドとなるだろう。

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