医学界新聞

寄稿 梅村定司

2023.09.18 週刊医学界新聞(通常号):第3533号より

 がん治療の4番目の柱として登場した免疫療法。現在では数種類の免疫チェックポイント阻害薬(ICI)が登場し多数のがん種で承認され,治療のさまざまな場面(術前,術後,再発時)で使用されるようになった。一部の患者には非常に効果も高く重要な治療法である一方,全身にさまざまな重篤な副作用(免疫関連有害事象:irAE)が起こる可能性があることがわかってきた。irAEは個人差が大きく,いつ,どこに,どんな症状が現れるか予測がつかず,一旦発現すると急速に重篤化し早期発見しないと命にかかわることも明らかになっている。さらに,治療中だけでなく,治療終了から数週間~数か月後に起こるirAEもあり,コントロールが難しいとされる。安心安全ながん免疫療法を提供するにはirAEに対応可能な各臓器の専門医による治療が不可欠であるものの,ICIの利用拡大に対しirAE対策が立ち遅れている感は否めないのが現状である。

 こうした問題における地域差は特に大きい。都会の大学病院やがんセンターのように1施設に全ての診療科,専門医が揃う施設は地方に少なく,単施設でirAE対策を講じることには限界がある。そこで私は,専門性や特徴の異なる中小の病院が,施設の垣根を超えて連携体制を構築し,情報共有を進めることで総合病院並みの診療体制が築けるのではと考え,近隣の橋本市民病院,和歌山県立医科大学附属病院紀北分院に呼び掛け,伊都橋本医療圏免疫療法サポートチーム(通称,アイアイサポートチーム)を2023年6月1日に発足させた。複数の病院がirAE対策を目的に連携することは全国的にも珍しい画期的なシステムと言えるだろう。

 サポートチームの最大の特徴は,3病院共通で診療対応表を作成し,ICIホットラインを構築したことである。通常,緊急の有害事象が発生した場合,その有害事象に対応している病院を探し,受け入れ交渉をするところから始めなければならず,治療の遅れが生じかねなかった。しかし診療対応表を作成したことで,まるで同じ施設内での他科紹介かのようにスムーズかつ迅速にそれぞれの有害事象に対応する専門医への紹介が実現できるようになった。

 また,irAEを重症化させないためのポイントは,早期発見・治療である。各診療科の専門医,看護師,薬剤師らが連携して,ICIの使用履歴を可視化する「ICIシール」や,簡便にirAE出現の有無をチェックするための「ICI副作用確認シート」を3病院共通で作成した。これらは,ICIが注射薬のため投与歴がわかりづらいこと,病院や調剤薬局スタッフだけではなく救急隊や患者にかかわる全ての人がirAEの初期症状に気づくことを目的に試行している。

 伊都橋本医療圏免疫療法サポートチームは,がん免疫療法を受ける患者さんやご家族が安心して受けられるよう,また医療者も安全な治療を提供できるように発足させたものである。今後は,地域の医師会(かかりつけ医),薬剤師会等にも協力いただきながら,がん患者を地域全体で支えていく仕組みとして,理想的な地域医療を展開していきたいと考えている。本取り組みが,日本全国の同様の問題を抱える地域のモデルケースになればと願うばかりだ。

取り組みに関する詳細はこちらをご参照ください。


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医療法人南労会紀和病院紀和ブレスト(乳腺)センター長

1991年和歌山医大卒。同大病院紀北分院外科学助手,助教,講師を経て,2009年より現職。診療科や職種を超えた地域連携型の免疫関連副作用対策チーム(伊都橋本医療圏免疫療法サポートチーム)の体制整備の必要性を訴え,各病院に呼びかけた。

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