MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内
書評
2023.07.31 週刊医学界新聞(看護号):第3527号より
《評者》 矢ヶ崎 香 慶大教授・看護医療学
看護師を含む多職種の医療者に薦めたい
本書は安心・安全ながん化学療法をサポートすることを目的に,使用頻度の高いレジメンについて臨床上のポイントをまとめたマニュアルである。初版の刊行以来すでに10年以上の歴史を持ち,今回の第4版では111本のレジメンを取り上げている。
本書の構成はとてもよく練られている。各レジメンの冒頭には,当該レジメンを適用する上で重要な「Point」が掲載され,限られた時間で読むにはとても親切な分量である。次の「抗がん薬の処方監査」の項には禁忌事項や投与量の制限など監査すべきことが解説され,ここに本書のオリジナリティーがよく出ている。支持療法を含む投与スケジュールと副作用対策や発現時期が1つの表にまとめられているので,看護師を含む多職種は自らが行うべきことを一目瞭然に理解できる。特に看護師や薬剤師には,患者に情報を説明・指導する際にこの表を活用することをぜひお勧めしたい。
「抗がん薬の投与」の項では,投与基準と減量や中止基準,有害事象といった重要な情報とそれらの「副作用マネジメント」の情報も丁寧でわかりやすい。各章の最後には「薬学的ケア」として,薬学的な実践により副作用を予防・改善できた症例,もしくは治療が完遂できた症例が解説され,ケアすべきポイントが明解である。
本書の監修,編集そして執筆者リストには,がん化学療法をエキスパートとする薬剤師の名前が連なっている。しかしだからといって,本書を薬剤師限定のマニュアルと思い込んで,看護師が手に取らないのはもったいない。本書には,がん化学療法にかかわる看護師を含む多職種が留意すべきこと,副作用や合併症の予防や対策の重要な要素が根拠に基づいて解説されている。一読すれば,本書ががん患者の日常診療やケアに役立つことを実感するだろう。
この10年でがん化学療法とそれを取り巻く医療・社会環境は大きく変化し,発展した。がん患者や家族による多様で複雑なニーズに個別的に対応するには,多職種による最善の治療やケアが不可欠である。本書はこれらの変化を先駆的に柔軟に取り入れているので,今まさに必要な内容が凝縮されている。「安心,安全で効果的な治療をサポートする心強い相棒!」として本書をがん化学療法にかかわる全ての医療者にお薦めしたい。
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ベイツ診察法ポケットガイド 第4版
- 有岡 宏子,井部 俊子,山内 豊明 日本語版監修
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B6変型・頁640
定価:4,950円(本体4,500円+税10%) MEDSi
https://www.medsi.co.jp
《評者》 福添 恵寿 川西市立総合医療センター診療看護師
看護の“ミル”の底上げでヘルスケアが変わる
2017年より私は診療看護師(NP)として総合診療科を中心に活動をしていますが,その中でもHi-Phy-Vi(ハイ・ファイ・バイ):病歴聴取(history),身体診察(physical),バイタルサイン(vital signs)の重要性と奥深さを実感してきました。
私たち看護師は,患者と多くの時間を共にします。検温をしているときだけでなく,さまざまなケア介入をする中で観察(見る・聞く・触れる)をします。患者のバイタルサイン(Vi)を測る際,血圧計やSpO2モニターを用い数値化することで,誰でも把握することが可能です。そこに数値で現れないHi-Phyを加えることで患者さんのとらえ方が大きく変わります。
誤嚥性肺炎を例に説明すると,「SpO2:95%」と「誤嚥をきっかけに一昨日から微熱と咳嗽を伴うSpO2:95%」とではとらえ方は大きく変わります。数値化されたバイタルサインだけではなく,症状や背景を含めた病歴を観察することが重要です。志水太郎先生(獨協医大病院)より「病歴は発病までの状況を映像化ができるぐらいまで情報を集める」と学びました。私たちは医学診断をしませんが,起きている事象(Vi・症状)をmicroな視点だけでなく,macroな視点(Hi-Phy)を組み合わせて観察することで,彼らの生活や社会的背景まで把握することが可能になります。先程の事例では口腔内環境や,嘔吐・便秘といった消化器症状と原因,体幹保持力と耐久性などphysicalの部分と,疾患や経過,社会的サポート状態を含めたhistoryの部分を把握することで,より患者理解が深まり,適切な治療やケアを適時に展開することができます。
私がHi-Phy-Viの教科書として出会った本が『ベイツ診察法』(原著第9版)です。この本と出会い10年近くが経過しましたが,本の内容も改版の度にブラッシュアップされていて,先日はそのエッセンス版である『ベイツ診察法ポケットガイド 第4版』が発刊されました。内容だけでなく,ページ構成も見やすいものになっているので,皆さんにドンドン看護現場で活用していただきたい! と思う一方で,「どうせ医師が読む本でしょ……?」「表紙には苦手な英語があるし,診察の本は難しそう……」と思われる方もいるのではないかと想像しています。
試し読みでいいので,まずは冒頭のパート(健康アセスメントの基礎)を読んでみてください。ここには私たち看護師にも身近なラポール形成・患者理解・対人関係スキルなどについて記載されています。最初の数ページを読むだけでも自分自身の医療者としての所作を振り返ることができます。部位別の診察では,何を見て・聞いて・触れるのか,そこから何を考えるのか,が簡潔明瞭に記載されています。この繰り返しでHi-Phy-Viの力が伸びていくことは間違いありません。
看護の“ミル”の底上げはヘルスケアに変化をもたらします。『ベイツ診察法ポケットガイド』から一緒に一歩を踏み出しましょう!
*Hi-Phy-Viの表記は坂本壮先生(国保旭中央病院)より学びました。
《評者》 西村 礼子 東京医療保健大准教授・看護学
看護教育のコアをオンライン活用により再考する
本書には,オンライン活用により学びを実践につなげるためのデザインや具体的な方法・戦略が詰まっている。本書では4つの教育のコアを挙げ,看護教育において,「何をめざすか?」「到達のための方法や工夫や戦略は?」「到達を保証するための学習成果の測定は?」「学習成果のフィードバックは?」を改めて考える機会になる。
看護教育において,明確に定めた学習目標・評価・方略は,学力とめざすべきコンピテンシーに直結する。学習者が到達するための授業設計,人(教職員・学習者・組織)・物・金・技術・時間・情報・自己管理の観点からの教育デザイン検討は必須である。本書は教育デザインを多角的にとらえ,臨床看護の人材育成・看護実践から継続・基礎教育を改善するための道しるべとなる。
序章では,「オンラインの活用」に向けた伸びしろについて書かれている。さまざまなオンラインの方法や教材が登場したが,めざすべき到達点は変わらない。他の媒体・教材同様「何をめざすためのものか?」をとらえた上で,オンラインが持つ魅力と限界を知ることが活用の第一歩である。
1章「知識を届ける」では,授業の構成,長期記憶化・学習効果を高める・学習者のレディネスや理解度を確かめるための方法,実際の授業事例や無料で使用できるツールがまとめられている。2章「思考・コミュニケーションを鍛える」では,読者が最も教育現場で苦戦しているであろう「学習者の状況がわからない」という課題を解決する方法について述べられる。心理的安全性や集団効力感,エンゲージメント,主体的で深い学び,見える化を高めるための方法が詰まっている。特に,これまでは対面で行われたであろうアクティブラーニングが,オンラインでより効果的に実現できることが示されている。3章「実践につなげる」でも,実技トレーニング,シミュレーションの対面とオンラインの融合,多人数からグループ単位を活用し,本書の特徴でもある「理論に基づいた」説明が豊富である。4章「学びの効果(成果)を測る」では,教育評価とパフォーマンス評価,ピア評価やリフレクションシートなどの活用,評価基準・規準まで具体的に示されている。
本書の魅力はテキスト部分だけではない。付録Web動画では,執筆者による実際の教材の説明や授業方法,基本的なPC操作,Word・Excel・PowerPoint・Web会議システム・Googleフォームなどの説明が視聴できるため,今からオンライン活用を始める方も必見である。
教育のパラダイムシフトにより技術革新や価値創造,情報の批判的吟味やコンピテンシー獲得が求められているが,看護教育の成果は学修成果・看護実践から生み出されるという本質は変わらない。看護教育者は,看護学が生み出す知を科学技術活用により,言語・構造・共通認識化して「教育」「学習」に落とし込み,促進・保障することを今後もめざす。
本書は,「オンライン」という現代社会の特徴を踏まえた看護教育のコアを再考する機会を提供してくれるだろう。
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