MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内
書評
2023.07.03 週刊医学界新聞(通常号):第3524号より
《評者》 池田 龍二 宮崎大病院教授・薬剤部長
がん薬物療法にかかわる薬剤師にお薦めの一冊
2040年の医療提供体制への展望の中でわが国は,「より質が高く安全で効率的な医療を,国民がどこに住んでいても最適な形で享受できる社会を構築する」ことを掲げた。そのビジョンを実現するため,医師・医療従事者のタスク・シフティング(シェアリング)などの働き方改革や医療DXを活用するとともに,患者参加型のチーム医療や地域医療連携を推進する潮流は一層大きなものになっている。
2023(令和5)年3月28日には,がん対策推進基本計画(第4期)が閣議決定され,「誰一人取り残さないがん対策を推進し,全ての国民とがんの克服を目指す」ことが,わが国の目標となった。患者への適切な医療提供体制を拡充し,「がん生存率の向上」「がん死亡率の減少」「全てのがん患者及びその家族等の療養生活の質の向上」をめざすことが示されたのである。その際,がん治療(手術療法・放射線療法・化学療法)の柱の一つであるがん化学療法に精通した人材の育成が重要なことは論をまたない。また,薬剤師に引き付けて言えば,多様化・複雑化するがん治療において,薬剤師の責務は治療中のレジメンや患者の副作用を適切にマネジメントすることで,有効で安全な薬物療法を実践していくことである。
本書『がん化学療法レジメン管理マニュアル』は2012年の初版刊行以降,多くの読者の支持を得て改訂を重ねてきた書籍である。2023年刊行の第4版では,これまでの代表的なレジメンに加え,免疫チェックポイント阻害薬と低分子化合物やがん分子標的薬の併用レジメンも拡充した。章立ては,乳がん,肺がん,大腸がん,胃がん,肝胆膵がん,婦人科がん,泌尿器がん,頭頸部がん,造血器腫瘍,その他のがんで,刊行時点の最新のエビデンスや診療ガイドラインに基づいて,臨床で必要な111種のレジメンを解説している。
各レジメンの見出しは,レジメンと副作用対策,抗がん薬の処方監査,抗がん薬の調剤,抗がん薬の投与,副作用マネジメント,薬学的ケアから構成されており,いずれも丁寧な解説がうれしい。特に「副作用マネジメント」の項目では,エビデンスとともに,評価と観察のポイント,副作用対策のポイントが具体的に記載されており,これを実践すればがん患者への早期対応,QOL向上や治療の有効性・安全性の確保に寄与できるであろう。また「薬学的ケア」の項目では,症例提示とその解説が充実している。これは臨床能力を高めたい薬剤師には貴重な情報源となり,読者の知識がさらに深まることは間違いない。がん薬物療法の専門や認定資格の取得をめざす若手薬剤師のみならず,彼らを指導する立場で知識をアップデートしておきたい中堅以上の薬剤師にもお薦めの一冊である。
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即戦力が身につく肝胆膵の画像診断
- 吉満 研吾,石神 康生 編
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B5・頁556
定価:8,580円(本体7,800円+税10%) MEDSi
https://www.medsi.co.jp
《評者》 南 学 筑波大名誉教授・放射線医学
問題を交えながら, 最終診断へ至る過程を丁寧に解説
本書はMEDSi社が企画してきた「即戦力が身につく画像診断」シリーズの第3弾として出版された。先行の「脳(青本)」「頭頸部(紫本)」同様,症例の簡単な病歴に続き,CT・MR画像を中心に時に超音波・ERCP画像が1ページに収められ,その後その画像所見,診断が述べられている。さらにその疾患の理解を深めるための問題(専門医試験に出そうな素晴らしい問題が多い)が提示され,画像診断のポイント,その疾患の解説・類似疾患との鑑別点,問題の解答,その疾患に関する重要な文献が示されているが,全症例でその形式がほぼ完全に踏襲され,統一感をもたらしている。編集には本邦の肝胆膵画像診断を牽引している福岡大の吉満研吾教授と九州大の石神康生教授が当たられ,本邦の腹部画像診断を支える放射線科医が多数執筆に加わっており内容に信頼は置けるが,その最終校正はさぞ大変であったろうことが容易に推察できる。
本書(赤本)では計139症例(一部の疾患では複数症例が提示され所見の多様性が学習できる)が3段階の難易度順で掲載されているが,各段階での症例の並びはランダムで,疲れることなく読み進められる。入門編(52症例)には,優秀な医学生・初期研修医から肝胆膵領域を含む専門医試験前の受験生に適切なレベルの問題が並んでいる。放射線科専門医試験前の専攻医にとって必ずマスターすべき症例と考える(と言いながらも私も2症例で間違い)。実力編(55症例)ではやや診断困難な症例が含まれるが,数症例,入門編と交換したほうがよいと思われる症例や(特に外傷関連),逆に挑戦編の症例ともいえる珍しい症例も含まれる(しっかり間違ってしまいました:正解率76%)が,その辺は個人の主観にもよるだろう。放射線診断専門医試験の受験生だけでなく,肝胆膵領域の専門医にも非常に有用な記載が多い。挑戦編(32症例)は正直,かなり難しい症例が多く,私自身の正解率も56%と恥ずかしい限りである。肝胆...
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