第122回日本皮膚科学会総会開催
取材記事
2023.07.03 週刊医学界新聞(通常号):第3524号より
第122回日本皮膚科学会総会(会頭=東大・佐藤伸一氏)が6月1~4日,「広がる皮膚科学」をテーマにパシフィコ横浜(横浜市)にて開催された。新たな治療法や検査法等,進展を続ける皮膚科学の最前線に関する70もの教育講演のほか,皮膚科学や医学の枠を超えた7つの会頭特別企画等が開かれた。本紙では,教育講演「皮膚バリア・アップデート」(座長=旭川医大・山本明美氏,北大・夏賀健氏)の模様を報告する。
◆皮膚バリアを理解して治療につなげる
最初に登壇した井川哲子氏(旭川医大)は,発表冒頭に皮膚バリアは外界からの保護(out-inバリア)と,体内水分の保持(in-outバリア)の二つの方向性があることを提示した。さらに,皮膚バリアは重層扁平上皮による物理的バリアと,免疫細胞による免疫学的バリアとの協調によって成り立っていることを強調。重層扁平上皮の構成には適切な角化プロセスが重要であり,その角化プロセスは顆粒層のケラトヒアリン顆粒や,角質細胞間接着分子のコルネオデスモソームが機能的細胞死(コルネオトーシス)によって適切に分解されることで成り立っていることを解説した。最後に氏は,臨床における皮膚バリア機能の評価法を各種紹介した上で,比較的容易に計測できる経表皮水分蒸散量,角層水分量による評価法でさえ専用機材や環境順化が必要なことを指摘。今後さらに臨床応用が容易な皮膚バリア機能測定法が開発されることへ期待を寄せた。
次に武市拓也氏(名大)は皮膚バリアにおける角質層細胞間脂質の機能について,原因遺伝子とそのバリアントによる先天性魚鱗癬の病型の違いを概説した。皮膚バリア機能において,角質層細胞間脂質のアシルセラミドと角質をつなぐエンベロープ形成は重要であり,エンベロープの形成不全による機能障害は先天性魚鱗癬の原因となることを解説。氏は,アシルセラミドを構成する①長鎖塩基,②極長鎖(C-30-36)脂肪酸,③リノール酸の三本の疎水鎖に関する遺伝子変異について,原因遺伝子の違いだけでなく,同じ原因遺伝子であってもバリアントの違いによって合併する皮膚以外の臓器症状や,重症度が異なる点を会場に例示した。KLK11遺伝子変異によるコルネオデスモソーム分解阻害が常染色体顕性角化異常の原因となる最新の知見も紹介し,今後も治療につながる研究の進展を求めた。
国立成育医療研究センターの吉田和恵氏は,アレルギー素因を持つ児がアレルギー性疾患を連続的に発症する様子をたとえた「アレルギーマーチ」と,その起点が乳児期アトピー性皮膚炎(atopic dermatitis:AD)であることを言及した。乳児期の皮膚は成人と比べて角層が薄く,皮質や水分量も少ないことからバリア機能が低いことを指摘した。その上で,ADでは皮膚バリア機能障害があるため保湿剤による皮膚バリア機能の補完がAD発症予防に効果があるとする研究報告を紹介。次に氏が取り上げたのはADとの合併が多い食物アレルギーだ。皮膚バリアを保つことで食物アレルゲンによる経皮感作を防ぎ,乳児期早期に微量かつ加熱した鶏卵を経口摂取することで食物(鶏卵)アレルギーを予防することを示す研究を会場に共有した。最後に,アレルギーマーチの予防には①保湿剤塗布やAD発症後の早期ステロイド寛解導入による経皮感作の予防,②食物アレルゲンの早期経口摂取の組み合わせが有効であると述べ,発表を締めた。
最後に登壇した乃村俊史氏(筑波大)は,原因遺伝子が同定されているが,疾患メカニズムが明らかにされていない長島型掌蹠角化症と尋常性魚鱗癬について,自らが行う研究成果を発表した。長島型掌蹠角化症はSERPINB7遺伝子の機能喪失変異によって発症することがこれまでの研究より知られている。氏は自らの臨床所見を基に,「SERPINB7遺伝子の発現による生成蛋白は非分泌型と一般に言われているが,実は分泌型ではないか」という仮説から研究を着想。分子生物学的アプローチによってSERPINB7遺伝子の発現による生成蛋白の分泌,糖鎖修飾の有無を調べた実験結果を紹介した。さらに,尋常性魚鱗癬の原因遺伝子FLGに焦点を当てた分子生物学的アプローチによる実験結果を報告し,疾患メカニズムの解明に向けた皮膚バリア研究の新たな展開を発表した。
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