医学界新聞

書評

2023.05.15 週刊医学界新聞(レジデント号):第3517号より

《評者》 東京ベイ浦安市川医療センター救急集中治療科(救急外来部門)
地域医療振興協会シミュレーションセンター副センター長

 今年も新年度がやってきました。初期研修医の皆さんが見せる,医師としてのはじめの一歩を踏み出すことができる喜びと期待に満ちた輝く笑顔が,本当にうれしく映ります。そんな初期研修医の皆さんが避けては通れない宿命が,救急外来での研修ではないでしょうか。現場に立って,初めて(当たり前ながら生身の人間として)実在する患者さんの症状症候に対応する時の不安と緊張は,何年経っても忘れられない記憶です。

 学生時代の机上の学習では,症状や所見が常に「言語化」され,記載されているのは必要な情報だけに絞られ,時系列に沿って並べられ,あとは公式に当てはめるだけで診断や治療法を導き出すことができます。一方で,実臨床では,患者さんの訴えや所見を自ら言語化し,情報を引き出し取捨選択し,時系列に沿って並べ替え,どの公式を当てはめるべきか思案し,診断や必要な治療を考えなくてはなりません。これは,医師となれば毎日幾度となく繰り返している作業ですが,実は膨大な労力と知識量が問われます。医師になってからの繰り返しの訓練と学習で,その作業は徐々に楽になってくるのですが,当初は困難です。その労力と知識量を補ってくれるのが,本書です。「救急搬送までの5分でCheck! アタマの中」を見ながら情報収拾項目と当てはめるべき公式を,文字通り,頭の中に準備できます。これだけで,正しい診断や治療にグッと近づけるとともに,不安や緊張を少し和らげることができ,その分,患者さんとのコミュニケーションや共感に心を割くことができるでしょう。この度,第2版になってこの「救急搬送までの5分でCheck! アタマの中」の図が,さらに洗練され,図解もよりカラフルで明快になったと拝見しました。ぜひご活用いただきたいと思います。

 また,お勧めしたいのは,この本の通読です。通読して,それ以降は辞書のように,必要な時に必要なページを検索できるようになることをお勧めします。「特殊分野編」や「使える! ERの覚え書き」の章も含めると,救急外来で出合う疾患がくまなく網羅されているため,教科書を超え辞書のように使えると思います。「あ,あのスコアリングが使えそう」「あのページに便利なフローチャートがあったな」「写真で載っていたあの皮疹に似ているのではないかな」といった形で活用してみると,この小さな本に隠された大きなキャパシティに気付くと思います。繰り返しているうちに,自然とその知識が頭の中に定着し,2年後にはこの本を卒業できるかも? いえいえ,このキャパシティを侮るなかれ。後期研修医になって専門研修に進んでも,折に触れて,この本の膨大な知識量が,皆さんの診療を支えてくれることでしょう。と言いますのは,私自身が高校時代に海外留学した時,ポケット版の辞書を常に持ち歩き,周りが擦り切れボロボロになったことを思い出したのですが,使い込んだ本ほど使いやすく心強い相棒はいません。スマホにはない温かさを感じます。皆さんのポケットにも相棒として本書を忍ばせてみてはいかがでしょうか。

《評者》 久留米大教授・医学教育研究センター

 本書は腹痛診断の画期的な手引きです。以下に本書の特徴を述べて推薦の辞とします。

①初期診断で見逃し回避

 本書は,急性腹症の初期診断の解説書です。著者が示す初期診断は,安易な仮診断(便秘/胃腸炎/イレウス)ではなく,速やかに外科医に相談する病気や見逃すと命取りになる病気の診断です。問診と診察で決める具体的な手順(レシピ)が論理的に解説されています。

 初期診断で考えるのは9疾患です。腹痛の場所を3つに分け,上腹部は胃十二指腸穿孔/急性膵炎/胆石疾患/急性虫垂炎,下腹部は急性虫垂炎/大腸穿孔,腹部全般は絞扼性腸閉塞/急性腸管虚血/破裂性腹部大動脈瘤です。初期診断の目的は重症疾患の見逃し回避です。

 本書は意思決定の本です(英語の書籍名は『The way of decision making in an acute abdomen』)。意思決定に重要なのは問診と診察です。初診で生理学的徴候(ショック/敗血症/汎発性腹膜炎)を評価して緊急性を判断します。血液検査とCT検査は補助的手段です。

②CT検査の正しい使い方

 CT検査は正しく使わないといけません。CTを眺め何か異常がないか探すことをしない。特定する疾患を決めてCTを見る。想定した疾患の所見をCTで確認する。CTの結果を見てベッドサイドに行き病歴と身体所見をとりなおす。臓器別の系統的読影は後回しにする。

 診断をCTに頼るのは,急性膵炎だけです。CTで診断できる急性虫垂炎は問診と診察で診断でき,超音波か単純X線で遊離ガスを同定できる穿孔性十二指腸潰瘍はCTが不要で,骨盤炎症疾患と卵巣茎捻転はCTで診断できません。「とりあえずCT」は,やめましょう。

 CTは利用するものであって信頼するものではないと力説し,若手医師の画像偏重主義や診察の形骸化に警鐘を鳴らします。コラ...

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