医学界新聞

寄稿 佐藤輝幸,太田伸男

2023.04.17 週刊医学界新聞(通常号):第3514号より

 アレルゲン免疫療法は,Ⅰ型アレルギー疾患に対する免疫システムを利用した根治療法で,数年間治療すると治療終了後も長期間効果が持続し,薬剤使用量を減少させることが期待される1)。アレルゲン免疫療法は皮下免疫療法(SCIT)と舌下免疫療法(SLIT)のどちらかで行われている。今年はSLITが小児へ適応拡大して5年と節目の年と言える。本稿ではSLITの現状を整理し,今後の展望について考える。

 日本では,12歳以上65歳未満に限りスギ花粉症に対するSLITの液剤(シダトレン®)が2014年より保険適用になり,続いて2015年にダニに対するSLITの錠剤(ミティキュア®,アシテア®)も保険適用になった。また,2018年にはスギ抗原量を増量したスギSLITの錠剤(シダキュア®)が発売になり,適応が5歳以上65歳未満に拡大された。シダトレン®は2021年3月で販売中止となり,シダキュア®に置き換わっているため,現在はスギSLITもダニSLITも錠剤で施行される。

 海外では,イネ科アレルギーに対応した錠剤も販売されている。また,適応年齢は欧州では12歳から,全米では18歳からであり2),12歳未満の小児に適応があるのは世界中で日本だけである。

 2009年に世界アレルギー機構のposition paperにおいてSLITの効果発現は口腔粘膜免疫系の機序に起因することが示唆された3)。口腔粘膜にはマスト細胞,好酸球,好塩基球などの炎症性細胞が少なく全身性反応が起こりにくいため,抗原の大量投与が可能であり,舌下投与は安全かつ有効性を持つアレルゲン免疫療法のルートとして選択された4)

 SLITの機序は十分に解明されたとは言えないが,SLITの実施によって多くのアレルゲンが体内に入ると,アレルゲン特異的Th2型免疫応答の緩和,Th1型免疫応答への誘導,制御性T細胞の誘導,IL-10を産生する制御性B細胞の誘導,IgE抗体の遮断抗体であるアレルゲン特異的IgG4抗体の産生などの反応が起こると考えられている5)

 SLITによる治療対象は,特異的IgE抗体が病態に関与する,軽症から最重症までのダニによるアレルギー性鼻炎あるいはスギ花粉症患者である。喘息管理についての国際文書であるGlobal Initiative for Asthmaにおいては,ダニに感作された鼻炎合併喘息で,1秒率(FEV1%)が70%以上の症例ではダニSLITを考慮することとされるが,日本では喘息単独の保険適用は現段階ではない1)

 禁忌としては,当該アレルゲンSLIT製剤の投与によりショックを起こしたことのある患者と,重症の気管支喘息患者〔SLIT製剤投与により喘息増悪(発作)を誘発する恐れがある〕とされる。慎重投与としては,当該アレルゲンのSLIT製剤またはアレルゲン診断・治療によりアレルギー症状を発現した患者,全身性アレルギー反応が生じた場合に重症化する恐れがある気管支喘息患者,悪性腫瘍または免疫系に影響を及ぼす全身性疾患を伴う患者(自己免疫疾患,免疫複合体疾患,免疫不全症など)とされる。

 小児に対するSLITの基本的注意の要点は,適切に舌下投与ができる場合にのみ処方すること。5歳未満の幼児に対する安全性は確立されていないため小児のアナフィラキシーやショック治療に精通した医師によって行われるべきであることだ。

 妊娠中の安全性は確立されておらず,アレルギー反応に伴って遊離されるヒスタミンは子宮筋収縮作用を有することが知られているため,治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与する。授乳中の投与に関する安全性は確立されていないため,やむを得ず投与する場合は授乳の中止を検討する必要がある。

 われわれは,2014~18年にシダトレン®によるスギSLIT治療を開始し,治療を継続中のスギ花粉患者延べ1017例に花粉飛散シーズン終了後にアンケートを実施。小児と成人におけるシダトレン®の有効性について比較検討した6)。その結果,「とても効いた」「効いた」「やや効いた」の3つを合わせると1シーズン目では80%以上,2,3シーズン目では小児と成人ともに90%以上となった。効果に関連する可能性のある性別,罹病期間,服薬アドヒアランスを調整項目として多重ロジスティック回帰分析をすると,3シーズン全てにおいて小児と成人の間には有意差を認めないことがわかった。副反応に関しては小児と成人において有意差は認められなかったが,性差を検討したところ,1シーズン目においては男性に比べ女性に有意に副反応が多かった(6)。理由としては,今回のアンケートの回答者は容姿を気にする青年女性が多く7),副反応である皮膚の軽度腫脹の外見への影響を訴えた人数が多かったのではないかと推測している。

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 1シーズン目における副反応(文献6より一部改変して転載)
性別においては統計学的有意差を認める(p=0.002:χ2検定)が,小児と成人では有意差を認めない(p>0.05:χ2検定)

 また,シダキュア®とミティキュア®については,小児と成人で共に良好な効果が出ているという調査結果がある8, 9)。シダキュア®は治療1年目からシダトレン®の治療2,3年目に劣らない効果があり,副反応は,ダニSLITでは小児と成人での差はなく,スギSLITでは成人に有意に副反応が多いと報告された8, 9)。シダキュア®はシダトレン®に比べアレルゲン量が2.5倍あるため,効果が大きかったと考えられる。

 そしてスギSLITとダニSLITを併用するDual SLITの検証も行われており,Dual SLITの副作用発現率は単独SLITと同等で,安全に2剤を併用できることが確かめられた2)。Dual SLITの短期的な相乗効果は報告されているが2),長期的な相乗効果については不明であるため議論の余地がある。現在までの報告をまとめると,SLITは単独でも有効であるものの,Dual SLITによって長期的にも単独SLITより症状寛解の可能性を秘めていると考える。今後の報告に期待したい。

 国内では,SLITの適応はスギとダニのアレルギー性鼻炎に限られる。適応拡大に向けて,ヒノキSLITが2021年よりAMEDで研究(主任研究員=国際医療福祉大・岡野光博氏)が始まった。またダニのアレルギー性喘息に対するSLITのPhaseⅡ/Ⅲ試験が終了しており,今後の開発方針については検討中とのことだ10)。しかし,欧州アレルギー学会の免疫療法に関する指針では,アレルギー性鼻炎に対するSLITに喘息発症と新規のアレルゲン感作を予防する短期的な根拠や長期的な報告はないと記載されたため11),今後については注視する必要がある。

 治療予測因子としてのバイオマーカーは,補体C3aや特異的IgEなどさまざま報告されているが,確立されたものはない。しかし,2022年7月,SLITで効果があった被験者の検体解析により,マスキュリンというTh2細胞機能を抑制する因子が発現するため症状の改善が起こると判明した12)。症状抑制効果を認めた被験者群のみマスキュリンが発現・上昇していることから,今後バイオマーカーとしての活用,さらにはSLITの改良や治療継続判断への活用も期待される。SLITの適応拡大や作用機序解明は今もなお現在進行形であり,日本から世界に向けて発信する新しい治療になることを期待する。


1)「アレルゲン免疫療法の手引き」作成委員会.アレルゲン免疫療法の手引き.日本アレルギー学会.2022.
2)湯田厚司.スギ花粉とダニの舌下免疫療法の最近の動向.日耳鼻頭頸部外会報.2022;125(7):1071-7.
3)Allergy. 2009[PMID:20041860]
4)神前英明.アレルゲン免疫療法の進歩.日耳鼻頭頸部外会報.2022;125(5):853-60.
5)J Allergy Clin Immunol. 2017[PMID:29221580]
6)佐藤輝幸,他.スギ花粉症に対する舌下免疫療法の小児と成人における比較調査.日耳鼻頭頸部外会報.2022;125(5):876-83.
7)大村美菜子,他.容姿へのこだわりと賞賛獲得欲求・拒否回避欲求との関連.日本パーソナリティ心理学会発表論文集.2009;18:198-9.
8)湯田厚司,他.小児通年性アレルギー性鼻炎に対するダニ舌下免疫療法における成人と比較した治療1年後の効果と安全性.アレルギー.2021;70(3):186-94.
9)湯田厚司,他.実地診療での小児スギ花粉症に対する舌下免疫療法の治療1シーズン目の効果と安全性の検討.アレルギー.2020;69(9):909-17.
10)鳥居薬品株式会社.2022年12月期 第3四半期決算短信〔日本基準〕(非連結).2022.
11)European Academy of Allergy and Clinical Immunology. Allergen Immunotherapy Guidelines Part 1:Systematic reviews. 2017.
12)J Allergy Clin Immunol. 2022[PMID:35863510]

東北医科薬科大学医学部耳鼻咽喉科学 病院准教授

2000年秋田大医学部卒。博士(医学)。08年米ミネソタ大,米カルフォルニア大サンディエゴ校留学。17年秋田大学耳鼻咽喉科講師。22年より現職。同年日本耳鼻咽喉科免疫アレルギー感染症学会総会・学術講演会優秀賞受賞。

東北医科薬科大学医学部耳鼻咽喉科学 教授

1988年山形大医学部卒。96年米国立衛生研究所へ留学。山形大医学部講師,同大准教授を経て,2015年山形市立病院済生館耳鼻咽喉科科長。16年より現職。

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