医学界新聞

書評

2023.04.10 週刊医学界新聞(レジデント号):第3513号より

《評者》 山口大病院准教授・総合診療部

 研修医と一緒にERで診察をしていると,症状から鑑別診断を考え,初期対応として何を行うべきかがわからずに立ち尽くしている状況を時々見ます。研修医の成長段階を質的研究すると,それは「立ち尽くすフェーズ」と言われ,そういえば若いころの私たちもERで何をしたら良いかわからず,立ち尽くしていた時期があったことを思い出します。私たち指導医は,研修医がなぜ立ち尽くしているのだろうと,彼らの立ち尽くす原因を鑑別診断するのですが「vitalが変化している患者さんにまずは何をしたら良いかわからない」「主要な症状からどのような疾患を鑑別したら良いかわからない」「疾患は想起できているが,診断を確定するための検査方針がわからない」など研修医が立ち尽くす原因はさまざまです。中には何がわからないのかもわからないといった答えさえも聞かれますが,そういった「立ち尽くすフェーズ」を上手に乗り越えさせてくれるのが,この『京都ERポケットブック 第2版』です。救急初期対応の最初のステップは普段通りの落ち着いた思考でいること。青地に黄色の文字でERと書かれている表紙は「ええ(E)からリラックス(R)してや」と,優しく関西弁で語りかけてくれています。

 本書の内容はMBAホルダーの荒隆紀先生が執筆しただけあってさまざまなフレームワークを活用し,臨床現場でカオスになりがちな種々雑多な行動をわかりやすくまとめてあります。患者のファーストタッチから緊急性を察知し呼吸と循環を安定させるprimary survey(初期評価),状態を安定させた上で鑑別診断を挙げツボを押さえた問診と身体診察を行うsecondary survey(二次評価)は本書を通した一貫した行動目標となっており,私たちも常日ごろから研修医への指導や初期対応のセミナーで伝えているメッセージです。実は私たち指導医の行動も,このような型に基づいたシンプルな構成になっていることを研修医の皆さんに知ってもらえるとうれしいです。「なんだ,いつも同じ原則で動いているだけじゃないか」と気付くことができると,立ち尽くすフェーズから次のフェーズに移行することができます。

 第2版になりバージョンアップした点は,各症候のQ&Aが充実した点です。救急外来という限られた時間軸の中で診断・初期治療を行うことは,どうしても不確実性の要素が含まれてきます。だからこそ,研修医の疑問を指導医との議論で補うことで理解を深めていくわけですが,本書は診察中の研修医がよく質問してくれる内容を,文献を添えた説明やフレームワークを活用しながら解説しています。指導医にとっても指導方法の参考になるので,研修医から質問をされる前にチラッと目を通しておくと安心です。

 第2版京都ERは「立ち尽くすフェーズ」から脱却する研修医だけではなく,彼らの指導をサポートする指導医にもお薦めの一冊です。みんな,ええ(E)本やからレジデント(R)にお薦めしてや。

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