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  • 医学生・研修医のための医学書選びのマイルール(佐藤健太,坂本壮,小島伊織,中山祐次郎,國松淳和,書店イン)

医学界新聞

寄稿 佐藤健太,坂本壮,小島伊織,中山祐次郎,國松淳和,書店イン

2023.04.10 週刊医学界新聞(レジデント号):第3513号より

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 新しいことを学びたい。苦手分野を克服したい。医学生・研修医の皆さんはさまざまな思いで医学書を選んでいることでしょう。では,その本はどのような基準で選んでいますか。先輩や同僚の薦める本を買ってみたり,インターネットで見てピンときた本を衝動買いしてみたりと試行錯誤をし,時には「思っていた内容と違った」と後悔したこともあるのではないでしょうか。あまたの医学書の中から自分にぴったりの本を探すのは簡単なことではないのです。

 そこで,医師としてはもちろん,読書家としても著名な先生方に「医学書選びのマイルール」を披露していただきました。先輩方を参考にして“自分にとっての良書”に出合ってください!

こんなことを聞いてみました
①医学書の選び方
②医学生・研修医へのひと言メッセージ

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札幌医科大学総合診療 医学講座・南檜山地域 医療教育学講座 特任助教

①原著論文を調べる目的はForeground question(症例ベースで具体的な疑問)を解決することなので,正確さや効率が重要です。一方で,医学書を読む目的はbackground question(一般論としての基礎的な知識)の穴埋めだと考えています。そのため私は,科学的根拠に基づいた客観的で冷静な記述より,臨床医個人の生々しい経験と知恵に基づく暑苦しい主張がにじむ本を好んで選んでいます。

◆本との出合いのきっかけ

 自分にとって既知のキーワードを入力するWeb書店検索では,未知のテーマや切り口に出合える確率は低いと感じています。自分と重なる部分もあるが異なるキャリア・立ち位置の知人が,SNSなどでお薦めしている本を素直に買うか,リアル書店でピンときた本をジャケ買いしてしまうほうが結果として良い本に巡り合えると思います。私が本を選ぶ際は,それまで関心を持てなかったジャンルの本もあえて手に取ることにしています。そうして出合った本が,総合診療医としての診療能力の拡張や弱点領域の穴埋めに役立つことも多いと感じます。

◆書籍選びは著者との相性を見る

 私の場合は「医学書選び」というよりは「著者との出会い」といったほうが,ニュアンスが近いかもしれません。

 本を手に取ったら,まずは「まえがき」や「あとがき」「著者略歴」などをじっくり読みます。著者の経歴に基づく思想・立ち位置,そこから溢れ出た主張や考えを読み取ることができ,そこに共感なり違和感なり衝撃なりを感じ取ることができたら,「これはアタリだ!」と判定しています。

 論理構成がある程度しっかりしていないと,読み終えても自分の知識として身につきにくいですから,次に「目次」のチェックも重要です。書籍の全体像や主張をどういう切り口で分割し,どんな視点で見出しに名前をつけ,章ごとのつながりや統一感にどの程度配慮してその本を組み立てているのかが読み取れます。

 幸運にして自分との相性ばっちりの本を書くお気に入りの著者に巡り合えたら,他の著書やWeb活動も執拗にフォローします。そうして,著作活動全体から感じ取れるその人の考え方や在り方を吸収できれば,「読書の目的は完遂できた!」と言えるでしょう。

◆書籍から学びを得るコツ

 面倒でも,読書直後にまとめや振り返りをすることをお勧めします。長々と書こうとすると挫折するので,140字制限のあるTwitterなどは程よい長さでうってつけです。私が好きなのは,紙の本の場合は表紙裏の空きスペース。書き込むのにちょうど良い広さです。

②他人やAmazonのお薦めなど気にせず,「自分目線で面白そう」と感じた本との出合いを自由に楽しんでほしいなと思います。

 どんな本でも,自分自身の何らかの成長や変化にはつながるし,自分が成長すればきっと医療の質も底上げされるでしょう。

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総合病院国保旭中央病院 救急救命科 医長

①②私はミュージカルが好きだ。何だいきなり,今回は医学書選びに関してだぞ,お前の趣味の話など聞きたくない,ごもっともだが少々お待ちを。ミュージカルのチケットは決して安くはない。そして最近上昇傾向にある。好きだからと何でもかんでも買っていてはいくら稼いでも足りない。ミュージカルのストーリー,出演者,楽曲,さらには開催場所や日程などを総合的に判断し,チケットを購入している。

 医学書選びも同じだ。興味のある内容だからという理由だけでなく,誰が,どのような表現で,そしていつ書いたものなのかを総合的に判断し購入している。なんだ当たり前だと思うだろうがまぁそんなもんである。最近はTwitterなどのSNSで新刊の発売を知ることも増えたが,その場でそのリンクから購入ボタンを押すことはない(というか止めた)。何となく買った本は何となく積まれ,そして何となく読まずに終わる。

 医学書を書いている先生の話を聞いたことがあれば,その話を聞いた印象のみで購入を判断することはよくある。内容が想定されることだけでなく,その書籍を読んだ際に,その先生の声で語りかけられ,内容がスーッと入ってくる印象があるからだ。これは以前に市原真先生,倉原優先生,山本健人先生と座談会をした際に話題に出て,私も激しく共感したことである。

 どこで本を買うか,本屋かネットか。どちらでも良いだろう。スマホ1つで何でもできる時代に絶対に書店に行くべきとまでは言わない。ただし,中身を確認せずに購入することは可能な限り避けている。時々本のレビューなどで,「タイトルに惹かれ購入したが思った本と違った」「こんなに薄い本だとは思わなかった」などの記載を目にする。それは購入者が悪い。見りゃわかるのだから。もちろん離島など近くに書店がなく手に取ることが困難な場合もあるだろうが,そのような方はおそらく慎重な本選びをするのでそんなレビューは記載しないだろう(たぶんね)。私は毎日のようにネットで医学書の動向を探っている(新刊を毎日探しているのではなく,自身の本の売行きをチェックをしているという何とも小さな男である)ため,最近の医学書の表紙は目に焼き付いている。それらの中から,定期的に大型の医学書店を訪れブラブラした際に,手に取り,惹かれた本を購入することが多い。

 電子版か否か,これもどちらでも良いと思っている。2020年以降,医学書における電子化もドンドン進み,正確な数値は知らないがおそらく電子版で医学書を購入する医師は増えているだろう。何といってもボタンを押したらその数分後には手元のタブレットで読めてしまうのだから。医学書を書いている立場からすると,本を本屋で購入し,家でじっくり,または病院でざっくり読みながらドンドン汚してほしいとは思っているけどね。電子版は購入しなくとも中身を立ち読みできるサイトもある。電子書籍を購入できるサイトで中身を確認し,本を購入するのも良いだろう。本→電子でなく,電子→本という選択もありありだ。

 偉そうに述べたが,私の部屋の机周囲にはたくさんの医学書が積み重なっている。なんとなく買ったわけではないはずと自分には言い聞かせてはいるが真意はいかに……。

 それにしても,ミュージカル「キング・アーサー」は素晴らしかったなぁ。

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大同病院病理診断科 部長

①医学生・研修医の皆さんが書店で医学書と対峙するとき,何を思うでしょうか。医学部1年生のときからお気付きのことでしょう。……高い。そう,医学書は高いのです。専門的な内容が書かれ,市場も限られた業界なので仕方がありません。だからこそ,せっかく買うなら,その一冊から最大限学び尽くしたいものですね。私からは,そんなコスパ重視の医学書の選び方をお伝えしたいと思います。

◆レベルにあった本

 自分がどこまで理解していて,何を理解していないのかを認識することは本選びの第一歩です。講義や実習・研修での感触,また同級生・同期との会話の中にも,自分の立ち位置を知るきっかけがあることでしょう。難しすぎる本は読みきれず,簡単すぎる本からは得るものがありません。自分の理解から一歩先に進んだラインを扱った本を選んでいきましょう。

◆今,ちょうど興味がある分野

 「このような状況でどうしたら良いんだろう」「なぜこのような症状・検査結果が出るんだろう」など,疑問をその場で調べて解決することは重要です。しかし個別の知識をバラバラと取り入れても,記憶には残りにくいものです。周辺知識も一緒に学ぶことで知識は強固になり,応用が効きやすくなります。興味がある内容はモチベーションを持って勉強することができますし,その瞬間こそ,周辺事項もまとめて書かれた本を購入するチャンスです。

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