医学界新聞

書評

2023.03.27 週刊医学界新聞(看護号):第3511号より

《評者》 徳島大大学院教授・医療教育学

 授業の教育方法にいろいろ工夫を凝らしても,結局のところ,学生は試験に合わせて学習してしまうことに行き詰まりを感じた経験はないだろうか。あるいは,教育評価の方法を学ぶためにFDに参加しても,聞き慣れない教育専門用語に戸惑い,具体的に何をどうすればよいかよくわからなかったという経験はないだろうか。本書は看護教育における教員の教育評価力のトレーニングを目的としたもので,日々の教育活動において,看護教員が感じているこれらの課題や疑問に答えてくれるものである。

 I部では「教育評価力を向上させる意義」と題して,教育評価力はなぜ必要なのか,教育評価力が向上すると何ができるようになるのかにつき,わかりやすく解説されている。

 II部では,学習者中心の教育と学習成果の評価についての解説から始まり,近年重要視されている3つのポリシー(ディプロマ・ポリシー,カリキュラム・ポリシー,アドミッション・ポリシー)と学習成果との関係性が明確に示されている。さらに,学習成果の理解に不可欠であるコンピテンス(コンピテンシー),「能力」の入れ子構造モデル,ブルーム・タキソノミー,ミラーのピラミッドについて,それぞれの説明とそれらがどのような関係にあるかを明確に示している。これらの関連性が今ひとつわからず,もやもやされている方も,この章を読むと「そういうことか」と必ずやふに落ちるであろう。

 II部では,診断的評価,形成的評価,総括的評価からなる教育評価の分類と,直接評価・間接評価と量的評価・質的評価の2軸によって分類される4つのタイプの学習評価方法も解説されている。そして,近年,医療教育で重視されているパフォーマンス評価とその評価基準法であるルーブリックの説明が続くことで,教育評価力の全体像の理解が自然に深まるように仕組まれている。

 さらに,その次からが本書の特筆すべき真骨頂なのであるが,読者の理解度を確認する多肢選択問題が次々と登場する。この問題に解答し,答え合わせをしていくことで,なんとなくわかったつもりになっていた教育評価力について,さらにその理解が深まる「学びほぐし」となるように仕組まれている。

 さらにIII部では,応用編として,講義,演習,実習,卒業研究に関する教育評価力の向上について,実践的な解説とその理解度チェックの試験問題が続いている。そこではフィードバック,認知バイアス,不正行為,合理的配慮が必要な学生への対応などについても触れられており,日々教育を実践している教員の視点に沿った内容である。

 本書は看護教育のみならず,全ての医療教育に共通する内容が満載である。医療教育にかかわる全ての方にお薦めしたい。

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