医学界新聞

取材記事

2023.03.27 週刊医学界新聞(看護号):第3511号より

3511_0401.jpg がん診療においては,入院期間の短縮をめざし,検査や治療を外来へと移行させる取り組みが進む。その一方で,増加する高齢がん患者の場合,患者本人だけでは療養と生活を両立させることが難しくなってきているのが現状であり,支援体制の整備が求められている。

 2月25~26日,第37回日本がん看護学会学術集会(学術集会長=がん研有明病院・清水多嘉子氏:右写真)において開催されたパネルディスカッション「地域における高齢がん患者の暮らしを支える――多様な場での安心を支える取り組み」(座長=聖路加国際大/悠翔会在宅クリニック・田代真理氏,野村訪問看護ステーション・熊谷靖代氏)では,高齢がん患者が地域で暮らしていくための方策が議論された。本紙ではその模様を紹介する。

 「がん治療の進歩によって,緩和ケア主体のかかわりが迫る中でも治療が奏効する場合があり,専門的緩和ケアにつなぐタイミングが以前にも増してわかりづらくなっている」と話すのは,永寿総合病院の緩和ケア医である廣橋猛氏だ。特に高齢がん患者では,併存疾患を有するケースが多く,将来を見越した早めの緩和ケア医・在宅診療医の介入が重要とし,二人主治医制の意義を強調した1)

 高齢者の療養の場が多様化2)している中,梅田恵氏(ファミリー・ホスピス株式会社)が新たな療養モデルとして紹介したのは「ホスピス住宅」である。同施設は,住宅型有料老人ホームに訪問看護ステーション,訪問介護ステーションを併設し,各地域の在宅医療や薬局,ケアマネジャーなどと協働で,がんや難病を患う方々にケアを提供することをめざしたもの。現在,全国に30を超える拠点を構えており,「地域に根差した形でサービスを提供していきたい」と,これからの抱負を語った。

 続いて,東京都中央区で訪問看護を提供する東京ひかりナースステーションの佐藤直子氏は,都市部における高齢がん患者を支える訪問看護の取り組みを紹介した。都市部では,さまざまな法人が多様な事業を展開していることから,1つの法人で全てを行うのではなく,法人間で情報共有し,連携していくことで包括的なケアを提供できるチームになることが重要との見解を示す。今後は,連携する病院スタッフとより一層理念や価値観の統合を図り,地域全体で高齢がん患者を支えたいと話した。

 最後に登壇した髙橋利果氏は,へき地での医療提供の課題として医療機関へのアクセスの問題を挙げる。氏が所長を務める未来かなえ訪問看護ステーションは,総面積の90%以上が森林で占められる岩手県住田町(2020年の高齢化率:45.3%)に位置する。こうしたへき地の場合,在宅医療提供機関が少ない上,ほとんどの患者が独居もしくは老々介護の構図のために,住み慣れた自宅で最後を迎えることがかなわないケースが多々あると指摘。それゆえ患者・家族がどのような覚悟で自宅療養を決断しているかを確認することがまず大切だと話し,患者・家族が納得した最期を迎えられるような環境を整えていく力が,へき地の看護師には特に求められるとして発表を締めくくった。


1)座談会 がん患者の安心を紡ぐ二人主治医制.週刊医学界新聞 第3240号.2017.
2)座談会 最期の瞬間まで特養で暮らす高齢者を支える看護の形.週刊医学界新聞 第3434号.2021.

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