医師にこそ知ってほしい電子処方箋のシステム
寄稿 池田和之,島貫隆夫
2023.03.20 週刊医学界新聞(通常号):第3510号より
電子処方箋とは
情報化は医療にも広がり,さまざまな場面で情報システムが利用されている。特に近年,国民の健康寿命の延伸と効果的・効率的な医療・介護サービスの提供を目的に,医療現場でもDX(digital transformation)化が進む。その中で,薬物治療を行う際に発行する処方箋を電子的に作成・送受,さらには調剤結果も含めて管理する仕組みとして,2023年1月26日に電子処方箋管理サービス(以下,本サービス)の運用が開始された。
そもそも処方箋は「薬剤師への調剤の指示」のほか,「患者への薬物治療の提示」「どの薬局でも調剤を受けられるフリーアクセス」などの特徴を持つ。記載内容には,医薬品名や用法,用量,日数等の服用に必要な事項に加え,患者の保険者番号や処方箋を発行した医療機関の名称,医師の署名もしくは記名・押印が必要である。本サービスは,これらの紙の処方箋で求められる事項を担保しつつ運用できるよう構築されている。
具体的な運用は図1(註)に示すフローの通り1)。医師は各医療機関の電子カルテシステム等で処方情報の入力を行い,本サービスへ処方情報を登録する。この際,紙の処方箋での署名等の代わりに医師の電子署名〔HPKI(Healthcare Public Key Infrastructure)による署名〕が必要である。処方情報の登録後,引換番号が記載された処方内容の控えを患者に渡す。薬局では,引換番号に基づき処方情報を受付し調剤,服薬指導が行われ,調剤結果は薬局から本サービスに登録される。これら一連の情報は,マイナポータル上で患者自身が確認可能となっている。
電子処方箋導入のメリット
オンライン資格確認システムでは,患者本人の同意に基づき薬剤情報の閲覧が可能である。しかしオンライン資格確認システムの薬剤情報は,レセプト情報(1か月程度前の情報)をもととするため,直近の薬剤に関する情報の閲覧はできない。一方の本サービスでは,患者の同意に基づき薬剤情報の確認が可能な上,直近の処方情報や調剤情報まで確認できる。さらに,処方情報の登録時には,本サービスで管理する薬剤情報との重複や併用禁忌チェックが行われる。このチェックの結果は患者の同意の有無等により閲覧可能な内容が異なるものの,結果に基づき処方内容の再検討が可能となっている。このように,従来患者から聞き取り確認していた常用薬の情報が本サービス上で確認可能となることから,従来にも増して,患者に対してより安全な薬物治療が提供できると期待される(図2)1)。
利用開始に当たって取り組むべきこと
本サービスを利用するには,各医療機関において①オンライン資格確認システムの導入,②医師のHPKIの取得,③本サービスの導入などを行う必要がある。特に②は,電子上で作成された文書等が「医師によって作成されたもの」を示す役割を果たす。電子処方箋だけでなく,電子的な紹介状のやり取りなどにも必要になるため,優先的に取得していただきたい。また,患者側もマイナンバーカードの取得,そして保険証として同カードを利用登録する必要があることには注意が必要だ。
さらに,各医療機関の電子カルテシステム等においても,使用する医薬品や用法のマスタなどを電子処方箋対応の各マスタに関連付けする必要がある。このマスタ設定を正確に行うことで,正しい処方情報の受け渡しが可能となる。
電子処方箋から始まる医療DX
電子処方箋は,全国での運用が開始されたばかりである。したがって,全ての医療機関が対応できているわけではなく,また全ての処方箋が電子化されているわけでもない。当面は,処方情報の確認など従来の運用も併用する必要があることに留意してほしい。
始まったばかりの電子処方箋ではあるが,これからの病院や診療所,薬局などの医療施設間での電子的な情報のやり取りを行う際の全国的な基盤となる仕組みである。今後これらの仕組みを拡張し,医療連携基盤の構築も検討されている。電子処方箋はこれからの医療DXにおける社会基盤の序章であるため,現場の医師の皆さんも本仕組みを十分理解し積極的に利用していただきたい。
註:紙面の都合上詳細は割愛しているため,詳しくは厚生労働省のWebサイトを確認していただきたい。
参考文献・URL
1)厚労省.電子処方箋 概要案内――病院・診療所向け.2022.
池田和之(いけだ・かずゆき)氏 奈良県立医科大学附属病院 薬剤部長
1994年近畿大薬学部薬学科卒業後,奈良県立奈良病院薬剤部に入職。98年奈良医大病院薬剤部。2020年より現職。日本薬剤師会情報システム委員会委員,日本病院薬剤師会学術第6小委員会委員長,日本医療情報学会理事,同学会編集委員会委員長などを務める。
モデル事業を通して得られた電子処方箋の課題と意義
2022年10月から電子処方箋モデル事業が山形県・酒田地域で始まった。現在稼働している施設は1病院,2診療所,12薬局であり,今後さらに拡大予定である。導入には電子処方箋対応版ソフトウエアの適用,電子署名のためのHPKIカード取得が必要である。さらに準備作業として,医薬品コード・医薬品名・用法のマスタ整備,HPKIカードリーダー配備を行った。運用開始前には住民や医師への周知も大事である。
12月21日より一部の診療科で実運用を開始し,2023年1月18日から全診療科対応とした。電子処方箋の発行件数は1日80~120件にとどまっているが,対応薬局がまだ少ないことが主な要因である。過渡的な課題は,現場でかかりつけ薬局と電子対応の可否を把握することの負担だ。移行期間をできるだけ短縮するには地域全体での導入を推進し,点ではなく面で対応することが肝要である。電子処方箋における最大のメリットは,リアルタイムな情報反映により重複や併用禁忌のチェックが瞬時に行われ,安全で無駄のない処方が可能になることである。さらに,正確でスピーディーな常用薬把握,救急や災害,パンデミックでの活用にも期待される。今後の普及・拡大を切に願うばかりだ。モデル事業を通じての詳細な知見については,第1回電子処方箋推進協議会での発表内容を参照していただきたい。
島貫隆夫(しまぬき・たかお)氏
山形県・酒田市病院機構日本海総合病院 院長
1980年山形大医学部医学科卒業後,同大病院で研修。米南カリフォルニア大医学部留学,山形県立日本海病院心臓血管外科医長,山形大医学部第二外科助教授などを経て,2004年山形県立日本海病院副院長。16年より現職。
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