第33回日本疫学会学術総会開催
取材記事
2023.03.06 週刊医学界新聞(通常号):第3508号より
第33回日本疫学会学術総会(2023年2月1~3日,静岡県浜松市)が尾島俊之会長(浜松医大:右写真)のもと,「総合知による健康・幸福の向上」をテーマに開催された。本紙では「インパクトのある論文の書き方と広め方――SNS活用術」(座長=国立がん研究センター・片野田耕太氏,大阪医薬大・伊藤ゆり氏)の模様を報告する。
研究者の卵にどのようなアドバイスをすれば,インパクトのある論文を書けるようになるだろうか。最初に登壇した井上陽介氏(国立国際医療研究センター)はこの命題を考察。「そもそも科学研究におけるインパクトとは? 高インパクト・ファクターの雑誌への掲載なのか。どの雑誌に掲載されても1本は1本と考えることもできるのでは」と会場に問い掛けた。また,リサーチクエスチョンを出す工夫としては,臨床とつながり現場の問題意識をリサーチクエスチョンに置き換えること,博士課程修了後にそれまでとは異なる領域に携わり両者をつなぐような研究をすることを提案した。
谷口雄大氏(筑波大)は食物の誤嚥による窒息死の実態を明らかにした自身の研究成果(J Epidemiol.2021[PMID:32536639])をもとに,研究の着眼点から論文執筆,マスメディアでの発信に至るまでを報告した。氏は食物(餅)の窒息による死亡のニュースをみたことをきっかけに文献を検索したところ,先行研究の調査対象は単一の医療機関や地域に限られており,全国規模の報告がみつからなかった。そこで人口動態調査死亡調査票の活用を思い立ち,調査を実施。論文の公開に際しては,所属組織の広報室の助言を得つつプレスリリースを出したところ,各種メディアで話題になったという。この経験を踏まえ,「よく言われていることについて文献を確認する習慣」や「正確性とわかりやすさを両立した情報発信」がインパクトのある研究には重要であると考察した。
◆論文をどう広めるか,なぜ広める必要があるのか?
「学会やジャーナルの公式Twitterは論文の価値を上げる」。こう強調したのは,日循の情報広報部会長であり公式Twitterアカウント(@JCIRC_IPR)の“中の人”,岸拓弥氏(国際医療福祉大大学院)だ。Twitterでのプロモーションが論文引用数に与える影響は学術的にも検証されており(Eur Heart J. 2020[PMID:32306033]),「Twitterは新たなCompetencyである」と認識されるようになったという(Circulation. 2018[PMID:30354418])。日循は国内医学系学会初のTwitter指針を2019年に作成。学術集会会期中の公式アカウントによるTweetは4500件に達する(RT含む,2020年)。さらに氏は,今回の発表中に日本疫学会の学会誌Journal of Epidemiologyの論文Tweetを実演。学術活動のツールとしてTwitterを活用することを勧めた。
最後に登壇したのは,BuzzFeed Japanの記者として医療情報を発信する岩永直子氏。SNSでの情報発信においては見出しとサムネイル(目を引く写真)が大切であると述べ,「社内で見出し投票を行う」「アクセスが伸びなければ何度も入れ替える」などの工夫を紹介した。また記事本文の工夫としては,読みやすさと感情に訴える表現を重視。「研究紹介にも体験談を組み合わせる」「研究がデータ化される過程で削除される人間の営みを肉付けする」などの試みを紹介した。
その後は指定討論者としてメディカルジャーナリズム勉強会代表の市川衛氏(株式会社READYFOR)も交えて討論。再び「論文のインパクトとは何か?」と問題提起がなされた。「教科書に載るような論文を書きたい。いつか世界のどこかで誰かを幸せにするために」という岸氏に対して,「研究者ひとりの力では無力だとしても目の前の課題に取り組むのが大事。誰かにバトンを渡せば歴史が証明してくれる」と井上氏が呼応した。何のために研究を行うのか,なぜその知見を広める必要があるのか。日頃の研究および広報活動を問い直すような討議が繰り広げられた。
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