医学界新聞

寄稿 沼口敦

2023.03.06 週刊医学界新聞(通常号):第3508号より

 予防のための子どもの死亡検証(Child Death Review:CDR)は,「子どもの死亡に関する効果的な予防策を導き出すことを目的に,複数の関係機関・専門家が,死亡した子どもの既往歴,家族背景,当該死亡に至った直接の原因等に関する情報を基に行う当該死亡に関する検証」と,厚生労働省では定義されている。米国では40年以上,英国では10年以上,法に基づいて実施され,多くの施策が導き出されてきた。わが国でも成育基本法に「国及び地方公共団体は,成育過程にある者が死亡した場合におけるその死亡の原因に関する情報に関し,その収集,管理,活用等に関する体制の整備,データベースの整備その他の必要な施策を講ずるものとする」と定められたことから,施策として成育医療の延長線上に探索されるようになった。厚生労働省の主導によって都道府県CDRモデル事業が開始され,2020年度には7自治体,21年度には9自治体に拡大された。本稿では,わが国のCDRに医療者がどうかかわるかを概説する。

 わが国の年間138万件の死亡のうち,18歳未満は約3800件(2017~20年平均)である。年齢群別の死因を見ると,不慮の事故がいずれの年齢群でも上位にみられる(1)。その内訳は交通事故が最多で,15~17歳の不慮の事故による死の半数を占める。交通事故に次いで多い窒息は,半数以上が乳児に発生し,乳児の事故死の約3分の2に相当する。以下,溺死,転倒・転落等が続く。

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 年齢群別の死因(文献1をもとに筆者作成)

 死亡診断書(死体検案書)の記載内容から,予防を主眼とした分類法(2~4)で子どもの死亡を再分類し,さらにこの結果から内因死,外因死,不詳の死(乳幼児突然死症候群:SIDSを含む)の3群に分けた()。図に目を通すと,年齢群が上がるにつれて内因死が減り,外因死が増える傾向にあることがわかる。政府統計(表)では,ほとんどが内因死である生後1か月未満児と他の年齢群と比べて不詳の死が突出して多い生後1~12か月の乳児を合算して「0歳児」とされるため,子どもの死亡の疫学がわかりづらいことには注意が必要だ。原因不明の乳幼児の突然死のうちSIDSと診断される割合は,都道府県によって0~81%とばらつきが大きい5)など,死因究明における地域差が指摘されている。

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 子どもの死因の再分類〔人口動態統計(2017~20年)をもとに筆者らによる独自解析結果から作成〕
年齢群が上がるにつれて内因死が減り,外因死が増える傾向にある。乳幼児の突然死のうちSIDSと診断される割合は,都道府県により大きく異なる。

 死因究明は「国民が安全で安心して暮らせる社会及び生命が尊重され個人の尊厳が保持される社会の実現に寄与するものであり,高い公益性を有する」6)重要な事業である。内因死では,臨床医が診療のため実施した各種検査や病理解剖等によって死因を究明する。また外因死あるいはその疑いであれば,異状死届出の後,捜査機関による現場調査,法医解剖などが死因究明の中心となる。複数の制度が死因究明を担うが,その質の担保と均てん化は重要な課題と言える。

 死因究明においては「『過去に何が起きたのか』を確固たる根拠をもって確認することに重点が置かれる」一方,臨床では「その時点で最も想定される『将来に向けて』の診断」が重視される5)。そのいずれに軸足を置くかは,立場によって差異が生じる。

 死因究明は「死亡事象に際して一次資料を新規作成し事実を解明する作業」ととらえられる。最終的には社会への還元をめざす一連の死亡検証プロセスの中で,死因究明は特にインプットの部分に力点を置く事業と言える。予防のための検証は,既存の一次資料を収集して知見を集約し,提言を策定する作業であり,特にアウトプットの部分を担うことに力点を置く。

 CDRという用語は,広い意味ではこの両者を合わせて入力段から出力段に至る全体像ととらえ得るが,狭義では後者を指す。現在進行中の都道府県CDRモデル事業では,「予防のための検証」の至適な在り方が探索されているように見受けられる。

 CDRは,多職種・多機関で実施することで効果を得られる。職務によって,把握し得る情報と,それに対する解釈が異なるからだ。例えば医療職は医学的な背景や医学的死因に明るいが,児の置かれた環境などの社会背景は,日常生活に触れる教育職や福祉職が詳しい。また同じ事象に対しても,背景知識が異なれば別の解釈や評価が得られることもある。さらに,意見交換を通して得られる学びも人それぞれであり,職務のどの部分を具体的に改善するか,職務を通して社会の安全にどう貢献するかを,CDRに携わる参加者それぞれが考察すべきである。すなわちCDRとは,情報を共有し,意見や考察を共有し,その結果明らかになった課題や得られた学びを共有するためのプロセスとも言える。もし情報や具体的な考察を提供できない参加者がいたとしても,会議に参加すること自体が重要な学びの機会であり,当該職務の改善につながることが期待できるだろう。その中でも医療者がCDRにおいて特に果たすべき役割は,次のように集約される。

①わが国のCDRでは医療情報が検証の出発点である。CDRは死因究明そのものではないが,将来の子どもの死亡を予防するために,死因を可及的に明らかにすることは,医療者のみの成し得る責務と言える。臨床医は,少なくとも内因死について死因究明に努める立場にあり,また異状死を捜査・調査のプロセスへ有効に引き継ぐことに努める必要がある。

②死亡検証では,集約された情報を整理し,参加者の意見の調整が求められる。現状では医療者が適任であろうが,参加者が各方面のエキスパートであることを認識し,相互に尊重する姿勢が重要である。

③医療者は,医療を提供するのが本分である。CDRを通して,より適切な医療とは何かを探求し,子どもの安全安心を見据えたより良い医療を提供するものでなければならない。

 わが国のCDRは,いかに社会実装できるかの探索が始まったところである。必要に応じて改良を繰り返し,子どもの死に包括的に対処する基盤となることが望まれる。ここに医療者の果たす役割は大きい。


:死亡診断書(死体検案書)の「死因の種類」項目とは異なる基準による分類。

1)厚労省.令和3年(2021)人口動態統計月報年計(概数)の概況.
2)Arch Dis Child.2011[PMID:20656738]
3)沼口敦,他.わが国における小児死亡の疫学とチャイルド・デス・レビュー制度での検証における課題.日小児会誌.2019:123(11):1736-50.
4)溝口史剛,他.パイロット4地域における,2011年の小児死亡登録検証報告――検証から見えてきた,本邦における小児死亡の死因究明における課題.日小児会誌.2016;120(3):662-72.
5)小谷泰一.チャイルド・デス・レビュー時代の乳幼児突然死死因分類――死因究明から予防策提言へ.日SIDS乳幼児突然死予防会誌.2020;20(1):6-15.
6)厚労省.令和4年版 死因究明等推進白書.2022.

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名古屋大学医学部附属病院救急・内科系集中治療部 病院講師

1996年名大卒。岡崎市立岡崎病院,中京病院などで研鑽を積み,2004年あいち小児保健医療総合センター循環器科医長。名大病院小児科病院助教,同院救急科病院助教を経て,18年より現職。14~20年まで日本小児科学会子どもの死亡登録・検証委員会に所属し,22年からは同学会予防のための子どもの死亡検証委員会委員長を務める。厚労科研事業「わが国の至適なチャイルド・デス・レビュー制度を確立するための研究」班代表(19~22年),「子どもの死を検証し予防に活かす包括的制度を確立するための研究」班代表(22年~)。

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