医学界新聞

書評

2023.02.27 週刊医学界新聞(看護号):第3507号より

《評者》 国立成育医療研究センター総合診療部緩和ケア科診療部長

 子どもの痛みは歴史的に過小評価されてきました。その中で,多くの研究者たちが子どもの痛みについてのエビデンスを積み重ね,「子どもはむしろ痛みを感じやすい」ことが明らかになりました。その結果,諸外国では子どもへの痛みの対応が丁寧に実践されていますが,わが国においては十分に対処されているとはいえない状況があります。著者である加藤実先生は子どもの痛みに真摯に向き合い,丁寧に臨床を重ねられ,さまざまな学会でその重要性を訴えてこられました。その集大成が本書であると思います。

 本書で紹介されている慢性痛は,急性痛とは異なるアプローチが必要となりますが,そもそも小児領域では急性痛,慢性痛という概念すら十分に浸透していない状況です。慢性痛は心理的苦痛や社会的影響を伴い,子どもたちの生活の質に深刻な影響を及ぼす可能性があり,生物心理社会的(biopsychosocial)アプローチが必要となります。3~4人に1人が経験するとされ決してまれでない慢性痛は,小児プライマリケア診療においても重要な領域ですが,体系立って学ぶ機会が少なく,本書の役割は大きいといえます。

 本書では痛みを「感覚」「情動」「認知」の3つの成分に分けて,その要因の評価と対処法が記されています。通底するメッセージは「子どもを主語に」です。それは著者の「痛みを治すのは医師や薬ではなく,あなたです」という言葉に表れています。痛みの対応を自分ごととして取り組むために,多職種アプローチでその子の背景にある情報を丁寧に収集し,アセスメントを行い,子ども本人が自身の痛みの原因と機序について理解できるように説明すること,これが子どもと家族にとって大きな支援になっているのではないでしょうか。自分の痛みがこのようにして起こっているのだと理解することで,痛みが理由もわからない怖いものから,理由があるコントロールできるものに変わるのだと思います。それが,痛みに対して自分で取り組もうというモチベーションにつながり,コントロールできるようになることで自己効力感が高まるという正の循環に入るのだと思います。

 とはいえ,このアプローチは容易ではありません。本書では,慢性痛の理論的な背景が非常にわかりやすい言葉で説明されているだけでなく,具体的な症例へのアプローチの方法も「症例紹介」の中にたくさん紹介され,まるで加藤先生の臨床を傍らで眺めているような臨場感に溢れています。これを読めば,慢性痛を訴える子どもが自分の外来を受診した際に具体的にどうかかわるかのイメージが持てるでしょう。このコンセプトは痛み診療に携わる方だけでなく,小児の慢性疾患にかかわる全ての人にとって参考となる内容です。子どもにかかわる多くの方に手に取っていただきたいと思います。

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