医学界新聞

書評

2023.02.20 週刊医学界新聞(通常号):第3506号より

《評者》 飯塚病院総合診療科

 画像診断は,現代の医療にとってますます重要な位置にいることは論をまたないであろう。ラエネックに象徴される19世紀の医師は,身体診察を丁寧にとり,死後の解剖所見との対比により疾病をどのように生前に診断するかということを極めようとしていた。20世紀に入ると,臨床検査部の整備とともに生体の物質の変化を化学的に検証することでより正確に診断しようとした。そして1980年代から診療現場に登場するCTやMRIは,身体診察や臨床検査ではとらえられなかった,体の深部に起こる解剖学的変化をとらえるという画期的な技術により生前に病気を可視化した。どれも診断に欠かせない要素であろう。

 一方,画像診断はこれほど臨床現場で重要とされている割に,どれほどの医師が専門的な読影トレーニングをしているのだろうか。医学部の授業ではカバーできるはずのない画像診断の深い世界は,現場では放射線科医の読影レポートと対比することでしかフィードバックされないはずだ。しかも多くの研修医はレポートだけで,オリジナルの画像を読まないのではないか。私は2年次から3年次にかけて9か月間の放射線科ローテーションを志願し,20年以上もオリジナルの画像を自身で仮診断し,放射線科医のレポートと対比しながら読影スキルを磨いてきた。これがいかに病態の理解に役立ったかということは身に染みて感じており,全ての研修医が放射線科を研修すべきではないかという自説さえ持っているが,昨今の研修の選択の自由度のなさからは無理な話である。

 本書は,こういった現状を変えることができる画期的な本ではないだろうか。現場で内科医として働く視点(画像だけでは見えない変化は,やはり病歴と身体所見という古典的な技能がいまだに必要なのです!)を持ち,さらに放射線科医としての両方の視点を持つ医師はそう多くない。こういう医師に就いて学ぶことを可能とするのが本書の特徴である。

 画像を通して解剖学的変化を追い,病態を理解すること。CTやMRIをkey imageではなく全体を眺める中で病変を発見するというトレーニングが可能です。昔は画像をフィルムで見て重要なものは自前の接写ができるデジタルカメラで保存していました。今や時代はフィルムレス。故にYouTubeの画像を通じて膨大なスライス情報を読むことができます。携帯でダウンロードするより(携帯で見るのは,画面の小ささとスピードの早さについて行けませんでした),自身のPCで再読み込みして,再生速度を0.25にし,さらに時々動画を一時停止してkey imageの付近を丹念に見直すことをすると実際の読影と同じことができるように工夫されています。これは通常の本ではできない,画期的な仕組みでした!

 各症例では読むべき参考文献も付いているので,まさに放射線科のローテーションと同じ教育ができる環境にあります。“Dähnert”や“Paul and Juhl”にもない,時代を先取りした内容になっています。私は類書を知らず,この本を強くお薦めいたします。


《評者》 熊本大病院教授・皮膚科

 羊の皮を被った狼のような本である。

 「羊の皮を被った狼」という言葉は,新約聖書からの出典で「羊のような身なりで近づいてくるが,その内は貪欲な狼のような者もいるから気をつけなさい」という警句である。そこから転じて,例えばクルマ好きの間では「見かけは平凡でも,中身はスポーツカー顔負けのクルマに対して,敬意をもって使われる言葉」となる。

 本書はまさしくそういう本である。

 白くて可愛い装丁。小振りなので診察室の机においても邪魔にならない。挿絵もカラーできれいだ。

 ところが内容はまさに狼なのである。

 『まるごとアトピー』というだけあって,アトピー性皮膚炎の最新情報はこの一冊に全て入っている。読者の皆さんにはできれば通読をお勧めするが,忙しくて時間のない方は,太字になっている大事なところだけさっと斜め読みするとよい。アトピー性皮膚炎の患者さんに質問されて,自信を持って答えられなかったときなどは,目次や索引から瞬時に知りたい項目に飛べばよい。

 どの項目もとてもわかりやすい。分担執筆者を見て納得である。その道のプロが書いているので,当然なのだ。そして,かゆいところに手が届く。いや,この表現はアトピー性皮膚炎の本の書評としてはまずいか……。かゆくないようにする,かかないで済むようにするための本である。

 話を戻そう。とても配慮が行き届いた本なのである。例えば,「知っておきたいアトピー性皮膚炎の病理」の項目に菌状息肉症の病理組織が載っていた。アトピー性皮膚炎だけでなく,鑑別すべき疾患の病理組織が載っていることに感動した。また読んでいて,「この新薬ってどんな薬だったっけ?」と思ったときにも,「ネモリズマブ(p.227参照)」などと書かれてあるので,すぐに知りたい項目に飛べる。細やかな心配りだ。

 そして,なにより各章の最後に載っている「おーつか先生のつぶやき」が秀逸である。各章の内容についてナナメ上からコメントしたり,ツボを教えてくれたりする。例えば漢方の章を読んで,「うーん,やっぱり漢方は難しいなぁ」と思ったところに,「使える漢方を1つずつ増やすと,アトピー性皮膚炎治療の幅が広がりますよ」とつぶやいてくれる。「ああ,そうか,1つずつでいいんだ」と思うことができる。

 いやはや,恐れ入った。

 やはり,羊の皮を被った狼のような本なのである。


《評者》 聖路加国際病院消化器・一般外科副医長

 「担当患者を術前カンファでプレゼンしてね」。

 学生実習や初期研修で外科をローテーションしている際によく聞かれるフレーズだ。プレゼンテーションを見れば,発表者が準備し理解しているのか,伝わってくるものである。ツボを押さえたプレゼンテーションを見ると,「デキる!」と感嘆してしまう。

 外科医にとって術前に把握すべきことは数多いが,大ざっぱにまとめると,①現病歴・手術適応,②耐術能,③予定術式,④予想される合併症と対応手段,となろう。多くの研修医は,①から②まではうまくまとめてくれるが,③・④となると難しく,高難度症例ほど指導医のサポートが必要となる。患者によって状況が異なる上に,術前診断法や手術手技が急速に進歩していることから,的確なプランを提示するには高度な知識と経験の両方が必要だからだ。まさにAIが苦手とする範囲であり,外科医の実力が出る。

 『臨床外科』編集委員会により編さんされた本書はまさに,この点に注目した書籍である。編者代表の小寺泰弘先生は日本外科学会専門医制度委員長を務められた日本外科学会の重鎮であり,本書からは教育の専門家として現状の問題点を指摘し,改善したいという気概が感じられる。的確な術式選択および的確な解剖把握に資するガイドブックをめざすべく,編者の「無理なお願い」(p.1)に応じた各分野の第一人者が,術式選択の要点や術前画像検査の読み解き方,術中判断の勘所を,570枚の術前画像と術中写真とを対比させ,詳細に記してくれている。内容も幅広く,鼠径ヘルニア根治術から腹腔鏡下肝S7亜区域切除まで取り上げられている。また,各術式について概説だけに終わらず症例を例示しながら考え方が述べられているので,術式選択の分水嶺を理解する助けとなる。

 読み進めていくうちに,まるでエキスパートのいる施設の術前カンファレンスに参加した気分になった。評者は上部消化管が専門であり,食道・胃の領域の術中写真を見ていると容易に手術をイメージすることができ,第一人者の考え方を体感した心地になった。ただ,次の大腸や肝臓の領域に入ると,途端に術中写真から局所解剖を把握することに時間を費やすようになった。難しいことを承知で言わせていただくと,術式選択にかかわるポイントとなる解剖については,術前CTと術中写真の間にイラスト解説があると,本書の伝えたい要点がより理解しやすくなると感じた。

 言い方を換えれば,本書はどんなエキスパートであっても読み応えのある内容である。術前カンファレンスの準備に悩む学生・研修医だけでなく,これから執刀する外科専攻医にも,煩わしいと思いつつ(?)外科医のお相手をしていただいている放射線科医にも,そして高難度症例に挑んでいく消化器外科専門医にもお薦めできる良書である。エキスパートの先生方には,ぜひ専門外の分野についてもご一読いただきたい。令和時代のレジデントの気持ちが少し理解できるかもしれない。


《評者》 東京都立大大学院教授・理学療法学

 脳血管障害のリハビリテーションにかかわる臨床家なら,誰もがその症状の不思議に驚き,その回復と支援に苦労するのが「半側空間無視」だと思います。評者もまた新人の時(40年以上昔!),半側空間無視症例を担当し,自分のアプローチがいかに無力かということを痛感し,以後生涯を通じてこの半側空間無視とその関連症状であるPusher現象の評価と治療を探求してきました。

 ここに前田眞治先生監修,菅原光晴先生,原麻理子先生,山本潤先生の編集に成る『臨床で使える 半側空間無視への実践的アプローチ』について,僭越ながら書評を差し上げる機会をいただき,たいへん光栄なことと思います。

 本書は,第1章「半側空間無視の責任病巣とメカニズム」,第2章「“臨床で本当に使える”半側空間無視の評価」,第3章「半側空間無視へアプローチする際に留意しておきたいこと」,第4章「“臨床場面別”半側空間無視の実践的アプローチ」,第5章「実践事例でみるアプローチの効果」の5章から構成されています。

 例えば第1章の「メカニズム」の項では,さまざまな仮説がわかりやすく解説され,しかし今なお完全には解明されていない現状に対して臨床的な立場から「場面と特徴を観察すること」によって,そのメカニズムに適合したアプローチを選択できる,という極めて現実的な提案がなされています。

 冒頭,監修者の前田先生が指摘されているように,第4章「“臨床場面別”半側空間無視の実践的アプローチ」は,本書のハイライト部分であると思います。覚醒レベル向上,姿勢の安定化に始まり,リハビリテーション室でのトップダウン,ボトムアップなどのアプローチ,ADL場面,生活関連動作,そして自動車運転に至るまで,さまざまな病期,重症度,ニーズに対応した治療アプローチが理論的背景とともに示されています。ともすれば理論に偏りがちな類書にはない,“臨床”目線からの解説は,豊富に取り入れられた美しいカラー写真やイラストによって読者の理解を助けてくれます(とにかくわかりやすい!)。

 本書はひと言でいえば(控えめにいっても),半側空間無視という困難な症候に対する実践的な「臨床知」の宝石箱といえるでしょう。執筆者の先生方の並々ならない臨床経験に裏打ちされた本書に触れることの喜びをぜひ手に取って感じてください。本書から得られるヒントから,読者の皆さんの目の前にいる多くの患者さんを救うことができるはずです。

 タイムマシンがあるなら,40年前に戻って困り果てている「自分」にプレゼントしたい,と切に思います。


《評者》 東京歯科大水道橋病院特任教授・眼科

 有水晶体眼内レンズは,眼科医のみでなく一般の方にも認知されるようになり,近年,その手術件数は増え続けている。本書は『有水晶体眼内レンズ手術』と題されているが,実際には,数あるレンズの中で最も普及し,国内承認を得ているImplantable collamer lens:ICL(アイ・シー・エル)挿入に関する内容である。

 さて,このICLは,編集の労を取られた清水公也先生の地道な臨床例の積み重ねに加え,一般眼科医が思いつかない独自のアイディアによって,今日の普及に至ったと思う。白内障手術時の無水晶体眼に用いる眼内レンズは,前房型,虹彩把持型,後房型と複数のデザインが登場し,最終的に残ったのが後房型である。有水晶体眼に挿入する眼内レンズも同様のデザインで開発されたが,水晶体を温存した有水晶体の状態で挿入するため,水晶体への影響,すなわち白内障の併発が懸念された。その水晶体に最も近い位置に挿入する後房型のICLであるが,清水先生が巻頭言で述べられているように,レンズの中央に貫通孔を設けるという奇想天外なアイデアで,術後の房水循環不全による白内障の軽減を実現させた。そして,もう1人の編集者である神谷和孝先生らとともに,基礎実験に加え,臨床例を国内外の学会で報告かつ論文化し,ICLの安全性と有効性を世界中の眼科医に納得させるまでに至った。

 このように,ICLを最も知り尽くしていると言っても過言ではない編集者のもと,臨床経験豊富な著者が加わって完成された本書は,ICLについて学びたい初心者から熟練者にとって,他に類のない至れり尽くせりの内容となっている。実際に挿入を始めたい場合に必要な講習会の受け方から認定手術のチェックポイントが詳しく説明され,術前検査と適応判断は,読者があたかも著者と一緒に検査結果をみながら適応を決め,度数決定まで進むような流れになっている。ICL手術で重要なサイズ決定は,最近の論文で注目されているAIを用いた方法まで紹介され,すでにICL手術を行っている眼科医も知識のアップデートができる。手術手技は,ウェブ動画でIDとパスワードを入力することで,プログラムから選択可能となっている。実際に動画を見せていただき,とても洗練された手術であることはもちろん,画像のセンタリングからピント合わせまで,教育用画像として細かな気配りがなされたものであると感じた。また,症例を重ねれば起こり得る合併症への対応,応用編としてのピギーバック法まで含まれていて,どのレベルの眼科医にとっても,申し分のない内容となっている。

 最後に,このような1つの手技に関して複数の著者で執筆された本は,各著者の章で内容が重複していたり,知りたい情報が書かれている章を探すのに時間を要したりすることがある。本書は,最初から最後まで,あたかも1人の著者がまとめたような読みやすさであり,特定の情報を見つけやすい構成になっている。海外でもICLに関する多くの著書が出版されている中,本書のように基礎から実技,応用まで非常に読みやすく,またコンパクトにまとまった本は筆者の知る限り出版されていない。海外の眼科医が本書の特徴を知ったらぜひ英語版を希望することは間違いない,非常に有用な本である。本書は,ICL手術をする眼科医のみならず,関係する眼科スタッフ,またICL希望症例や術後症例の診療をなさる眼科医にぜひ熟読いただきたい。

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