医学界新聞

寄稿 吉川聡司

2023.01.16 週刊医学界新聞(通常号):第3501号より

基本情報

85歳,男性。来院6日前,歩行した後から徐々に両側下腿痛が出現。アセトアミノフェンを内服するも改善なく,来院3日前から38℃前後の発熱を認め,両側下腿痛が増悪。安静臥位と立ち上がる際に痛くなる。歩行で一時的に痛みは改善し,跛行はない。根本的改善がないため,夜間に救急要請。COVID-19 PCR陰性。下肢超音波検査で深部静脈血栓症(DVT)は指摘されず,筋痛としてロキソプロフェンを処方され,翌朝の外来フォローとなった。ロキソプロフェンで改善するものの症状は再燃しており,採血結果で炎症反応高値を認めたため,造影CTを施行した。

Review of Systems

陰性:頭痛,鼻汁,咽頭痛,咳嗽,喀痰,呼吸困難,腹痛,下痢,悪寒戦慄,筋トレ。
既往歴:胃癌術後,肺癌術後(いずれも治癒),腰部脊柱管狭窄症。
内服薬:前日に処方されたロキソプロフェンのみ。
アルコールは飲まない。

身体所見

体温35.9℃(ロキソプロフェン内服中),血圧130/56 mmHg,脈拍85回/分,呼吸数16回/分,SpO2 97%(室内気),眼瞼結膜蒼白なし,眼瞼浮腫なし,頸静脈怒張なし,腹頸静脈逆流なし,Kussmaul徴候なし,頸部リンパ節腫脹なし,肺音清,心音清。腹部平坦,軟,圧痛なし,肝叩打痛なし,Murphy徴候なし,肋骨脊柱角(CVA)叩打痛なし,肝脾腫なし,手掌紅斑なし,毛細血管拡張なし。
鼠径リンパ節が多数腫大,弾性軟,可動性良好,圧痛なし,両側下腿腫脹あるも浮腫はなし,下腿圧痛,把握痛なし,下肢静脈拡張なし,立位で静脈瘤の出現なし,下肢に発赤,蒼白なし,下腿色素沈着なし,関節圧痛,腫脹,他動時痛なし,自発的に下肢を動かしても痛み誘発なし,両側足背,後脛骨動脈触知良好。徒手筋力テスト(MMT):大腿四頭筋4/4,大腿二頭筋4/4(痛みのため力が入りにくい),前脛骨筋5/5,腓骨筋5/5,上肢は全て5/5。触覚,温痛覚,位置覚,振動覚に異常なし。膝蓋腱反射,アキレス腱反射は両側消失,病的反射なし,振戦なし,下肢伸展挙上(SLR)試験陰性,棘突起叩打痛なし。

血液検査

白血球22000/μL,Hb 13.6 g/dL,Plt 426000/μL,TP 5.0 g/dL,Alb 2.0 g/dL,AST 61 IU/L,ALT 40 IU/L,CK 22 IU/L,Cre 0.46 mg/dL,Na 132 mEq/L,K 4.1 mEq/L,Cl 95 mEq/L,CRP 29.66 mg/dL,HbA1c 8.1%,尿定性:潜血陰性,尿沈渣:赤血球1未満/HPF,白血球 1未満/HPF,甲状腺機能は正常,下肢静脈超音波検査:DVTなし。

 本稿では,症例を通じて,画像所見と病歴,身体所見,他の検査結果といった臨床情報とを合わせて総合的に考える方法を紹介する。症例の基本的な情報,検査所見は上記の通りである。

 両側下腿痛と腫脹が主訴であり,炎症高値がみられている。腫脹であるが浮腫がない点に違和感を覚えるが,一般的な両側下腿浮腫の鑑別を考える。年齢,性別も合わせると心疾患,腎疾患,肝疾患,甲状腺機能異常,薬剤性が多い原因だが,いずれも病歴,身体所見から否定的である。静脈不全はあってもよいが身体所見から可能性は低い。

 片側性の浮腫を来す疾患が,両側性に発症することもまれながらある。その場合はBaker嚢胞,膝窩動脈外膜嚢腫,糖尿病性筋梗塞(DMI),focal myositis,神経根障害による腓腹筋肥大,複合性局所疼痛症候群,動脈閉塞による横紋筋融解症,有痛性青股腫,筋肉内膿瘍・化膿性筋炎,結節性多発動脈炎(PAN)が挙がる。この中で強い炎症を伴うものは,筋肉内膿瘍・化膿性筋炎,PANである。これらは両側性になることもまれではなく,比較的良い鑑別に思える。PANであれば跛行がないのが合わないが,腫脹があるものの浮腫がない説明がつく。しかしながら,圧痛や把握痛がないのは非典型的である。軽度の炎症であれば,DMIやfocal myositisも鑑別に入ってくるが両側性はまれである。

 膿瘍や動静脈閉塞,DMIを検索するため,造影CTを撮影した(図1)。

CT所見

Scout viewで両側下腿の腫脹を認める。

CT画像では,両側鼠径,大腿リンパ節の腫大1)を認める。同様に,外腸骨,総腸骨動脈領域,大動脈周囲のリンパ節腫大もあり。大腿から下腿にかけて脂肪織濃度上昇を認めるが,皮下より中心部,特に動静脈周囲で目立つ。大伏在静脈の拡張が目立つが,明らかな静脈閉塞は認めない。大腿動脈壁が大動脈壁より厚く見える部分がある。Baker嚢胞や膝窩動脈外膜嚢腫を疑う所見なし。

肝脾腫なし,左精巣静脈拡張あり。明らかな膿瘍を認めない。

※下記のQRコードよりCTを動画で確認可能。
3501_0304.png

◆画像所見から再び病歴,身体所見に戻る

 Scout viewでは両側下腿の腫脹が目立ち,大腿と同じくらいの太さに見える。CT所見では,鼠径リンパ節や総腸骨・外腸骨動脈,大動脈周囲リンパ節腫大もあることから全身性疾患が疑われる。一方で大腿リンパ節腫大もあるため,こちらは全身性疾患に生じた強い下肢の症状を反映したものと考えた。大腿~下腿脂肪織に浮腫と考えられる濃度上昇を認めたが,蜂窩織炎やうっ滞性皮膚炎などで見られる皮下中心の浮腫ではなく,動静脈周囲脂肪織の浮腫が目立つ印象があった(図1)。

3501_0301.jpg
図1 CT所見
両側大腿動脈周囲脂肪織の濃度上昇を認める。

 以上のことから,血管炎を疑った。尿所見では潜血を認めないこと,筋症状が強いことから小血管炎の可能性は下げ,PANや巨細胞性動脈炎(GCA)を疑った。PANが鑑別に挙がったため,同時に撮影したCTAで腹腔内動脈瘤を再確認したが,動脈瘤は指摘できなかった。一方で,下腿腫脹で発症するPANは筋腫大が有名であるが,本症例でも下腿の筋腫大はありそうに見える。CTAでは解像度が低く小動脈瘤を認めなくてもPANは否定できず血管造影が必要になる。また,GCAが鑑別に挙がったため,血管造影の前に触れることのできる動脈を診察してみると下記の通りだった。

顎跛行,腕跛行なし。側頭動脈圧痛なく,索状物も触知せず,両側総頸動脈,内頸動脈,鎖骨下動脈,腋窩動脈,上腕動脈,撓骨動脈,腹部大動脈,総大腿動脈,浅大腿動脈,膝窩動脈,足背動脈,後脛骨動脈を触知したところ,右鎖骨下動脈,左浅大腿動脈に沿った圧痛を認めた。

 GCAを強く示唆する所見と考え,PANに対する血管造影の前に動脈の超音波検査を行った。

◆再び画像検査に進む

 DVTを疑っていた時の超音波検査では静脈を意識して検査していたため,動脈の異常には気づかなかった。GCAを疑い動脈壁肥厚を評価するために超音波検査を行ったところ,両側総頸動脈,腕頭動脈,両側鎖骨下動脈(図2),両側総大腿動脈~浅大腿動脈~膝窩動脈にびまん性壁肥厚を認め,右側頭動脈で壁肥厚およびcompression sign陽性,左側頭動脈ではびまん性内腔狭小化および血流低下を認めた。

3501_0302.jpg
図2 超音波検査所見
右鎖骨下動脈にびまん性壁肥厚を認める。

◆治療閾値を超えたと考え治療を開始

 以上より,GCAと診断した。側頭動脈生検はすぐに結果が出るものではなく,また感度70%程度であり2),陰性であったとしても診断を変えないと判断した。すでに治療閾値を超えていると考えたため,PET-CTを待たずにプレドニゾロン1 mg/kgを開始したところ,ロキソプロフェンではほとんど改善しなかった痛みが翌日にはほぼ消失し,患者は涙を流して喜んでいた。

 症例検討会では,病歴を聞いて鑑別を挙げ,身体所見を取り,鑑別診断の可能性を上げ下げする。その後,検査を行って診断するという段階を踏む。しかし,実際の臨床では病歴,身体所見,検査結果を自由に行き来しながら診断を詰めていく。画像検査も同様に扱うべきで,本症例の場合は画像所見で動脈の炎症を疑った後,触知できる動脈を全て触ることでGCAを強く疑うことができ,より感度,特異度の高い超音波検査に進めたわけである。理想としては,最初から詳細な診察,本症例で言えば動脈に沿った圧痛を見つけられたらよいのだが,臨床とは実際的な仕事である。画像所見から病歴聴取,身体診察に戻ってもよい。

 一方で,何の疑いもなくただ画像だけを見ても,必要な所見を拾い上げられないことは間々ある。本症例でも,病歴で下腿痛,身体所見で下腿腫脹,血液検査で炎症所見があるから動脈の炎症を疑えたわけで,臨床所見なくCT画像のみからGCAを疑えるかは甚だ疑問だ。このように,放射線科医に読影してもらうだけではなく,臨床医が臨床情報と画像所見を行き来しながら読影し,必要に応じて放射線科医とディスカッションすることで,患者のためになる診断ができるのである。

 そうした考え方の詳細は拙著『ジェネラリストと学ぶ総合画像診断――臨床に生かす! 画像の読み方・考え方』(医学書院)を参照されたい。


1)須藤博,他(訳).8章リンパ節.サパイラ――身体診察のアートとサイエンス第2版.医学書院;2019.
2)Chrysidis S, et al. Diagnostic accuracy of vascular ultrasound in patients with suspected giant cell arteritis(EUREKA):a prospective, multicentre, non-interventional, cohort study. Lancet Rheumatol. 2021;3(12):E865-73.

3501_0303.jpg

洛和会丸太町病院救急・総合診療科副部長

2007年阪大医学部卒。国立病院機構大阪医療センター放射線科兼総合診療科医員等を経て,21年より現職。16年8月に南米,アフリカを中心に世界を回る。チリではビール工場で作業員として勤務,ウガンダではマラリアの診療に従事した。近著に『ジェネラリストと学ぶ総合画像診断――臨床に生かす! 画像の読み方・考え方』(医学書院)。

開く

医学書院IDの登録設定により、
更新通知をメールで受け取れます。

医学界新聞公式SNS

  • Facebook