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『外来・病棟・地域をつなぐ ケア移行実践ガイド』より

連載 宮本 好美

2022.07.29

高齢者が増加する現代では,1人の患者に複数の医療者や保健福祉担当者がかかわることが一般的となり,複数の医療施設,さらには介護福祉施設との連携が,より一層重要になりました。ケアの分業という点ではメリットも大きい一方,療養場所が変わったり,担当者が変わったりする「ケア移行」の場面で重要な情報が抜け落ち,医療の質が低下する恐れもあります。そうしたエラーを未然に防ぐ手立てを紹介したのが,書籍『外来・病棟・地域をつなぐケア移行実践ガイド』です。


医学界新聞プラスでは,「救急外来から始まる効果的なケア移行」と「退院時における診療情報提供書」を書籍の中から抜粋して紹介していきます。

 

書籍刊行を記念にして開催された週刊医学界新聞の座談会も併せてご覧ください。
外来・病棟・地域をつないでスマートなケア移行を実現する」(小坂鎮太郎,松村真司,河野隆志)

POINT
● 診療情報提供書の重要性を理解する。
● 各症例で重要な記載項目は異なるため,退院後の状況や読み手が必要としている情報を考慮しながら,日々ブラッシュアップに努める。
● 日常診療からケア移行,慢性期管理を意識した診療を心掛ける。

押さえておきたい基礎知識

診療情報提供書は,さまざまなケア移行の場面における医師同士のコミュニケーションツールとして重要な役割を果たします。活用場面には,外来担当医から専門外来や高次医療機関への紹介,外来担当医への逆紹介などがあり,いずれの状況でも紹介先にとって必要な情報は何かを考える力が必要です。

日本では外来担当医へ患者情報を提供するために診療情報提供書が利用され,院内の診療記録としては退院時要約が用いられる場合が一般的です。つまり診療情報提供書は,医学的記録の意義よりも情報伝達の意義が重要視されるため,多忙な外来・訪問診療担当医の業務状況を考慮し,簡潔かつ過不足なく記載する技量とその訓練が必要です。

一方,欧米では「退院時要約=診療情報提供書」として扱われ,外来担当医へ直接送付されることが一般的です。情報伝達方法の背景は異なりますが,日本では診療情報提供書に関する研究は少ないことから,本項では主に欧米の研究を参考にしながら理解を深めます。以下の解説では,欧米での退院時要約を診療情報提供書と書き換えて解説していきます。

診療情報提供書の重要性と先行研究

欧米の先行研究

欧米の観察研究では,退院後の初回外来受診時に診療情報提供書を入手しているケースは12~34%と低く1),入手が遅れると再入院率が高くなって,有害事象が起こりやすくなるという報告もあります2)。にもかかわらず記載内容の教育は不十分とされ,Legaultらの研究によると,卒後1年目の研修医が記載した診療情報提供書では,35.7%に退院時の処方内容に不正確な点が認められ,15.9%に処方変更理由の未記載があったとされています3)。このような現状を踏まえ,診療情報提供書の記載教育用ツールなどを無料公開している病院もあり(詳細は「さらに知りたい方はこちら!」のRoyal College of PhysiciansのWebサイトを参照),診療情報提供書の記載内容・教育が重要視されています。また,外来担当医が希望するフォーマットや記載内容としては,構造的で簡潔な内容が好まれ,診断,予後,マネジメントに関する記載が重要視されることがわかっており4),これを踏まえて記載することが必須です。

日本の先行研究

前述の通り日本での診療情報提供書の研究は非常に少ないです。日本医師会の情報提供のガイドラインおよび厚生労働省の指定フォーマットでは,傷病名,紹介目的,処方などが記載指定項目とされていますが,経過のなかで記載すべき詳細についての情報はなく,具体性に欠けるものとなっています。また,どのような内容を記載すべきか教育もされていないのが現状です。在宅医療にかかわる医師によっていくつか研究が発表されており,在宅医療に移行する場合の重要な記載内容は明確化してきていますが,この内容が普及しているわけではありません。この問題に関しては後述の「在宅医療に移行する場合に,より注意すべきポイント」と,書籍『外来・病棟・地域でつなぐ ケア移行実践ガイド』(75頁)を参照し,理解を深めてください。

正確な情報伝達をするための工夫

読み手の視点から情報提供書を作成する

前述の通り,読み手の視点から考えると,診療情報提供書は構造的で簡潔な内容が好まれ,必要項目を漏れなく記載できるフォーマットが必要です。しかし,施設ごとにフォーマットが異なっており教育も不十分であるのが現状です。また,外来に継続通院する場合,脳梗塞などで回復期リハビリテーション病棟へ移行する場合,在宅医療に切り替える場合など,それぞれ退院後の状況に応じて重要な項目が異なってきます。これが,良質な診療情報提供書を記載するのをより一層難しくしている理由と言えます。

では,具体的にどのような項目を記載すればいいのでしょうか。米国病院総合診療医学会(Society of Hospital Medicine:SHM)は,医師や薬剤師,ケアマネジャーを含む計120人の多職種で診療情報提供書に必要な項目のチェックリストを作成しました5)。今回は,日本の状況を踏まえつつ,このチェックリストから筆者が重要と考える項目(表1)をモデル症例のケースを通して解説します。

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表1  診療情報提供書に記載する重要ポイント

モデル症例による解説

CASE

自宅退院が決まり,退院後は近所の診療所に外来フォローを依頼することになりました。フォローを依頼する外来担当医に宛てる診療情報提供書を作成する必要があります。

平素より大変お世話になっております。

 田中さまは医療機関受診歴に乏しく,ADL/IADLの高い自立した80歳男性です。
 今回,初発のCOPDの急性増悪および細菌性肺炎で〇月×日に当院へ入院されました。引き続きの加療を貴院にて希望されているため,このたび紹介させていただきます。
 発熱,喀痰の増加を主訴に当院の救急外来を受診され,SpO2 89%と低酸素血症あり。呼吸音で喘鳴を聴取し,胸部CTで浸潤影を認めたことからCOPDの急性増悪,細菌性肺炎[]と診断しました。
 入院時からセフトリアキソン1.0 gを24時間ごとの治療に加え,プレドニゾロン40 mgの内服,サルブタモール0.5 mL吸入を1日4回,酸素投与を開始し,第3病日には解熱[],酸素需要もなくなりました。喀痰培養検査ではピペラシリン耐性のKlebsiella pneumoniaeが検出[]されたため,セフトリアキソン5日間継続にて治療を終了とし,同日,自宅退院[]としました。
 入院中の吸入手技に問題はなく,奥さまとともに栄養指導・禁煙指導を行い,禁煙を決意[]してくださいました。また,肺炎球菌ワクチン,インフルエンザワクチンは当院で接種[]しました。
 6分間歩行試験では,在宅酸素療法導入は必要ないと判断しましたが,歩行距離は350 mであり,今後も再入院,再増悪の可能性が高いと考えます。急変時の方針については,ご本人,奥さまとお話しし,心肺停止時DNR,急性呼吸不全に対する気管挿管は行わない方針[]となっております。なお,当院での入院期間中は急性期であり,呼吸機能検査は退院後に当院にて施行し結果を郵送[]させていただきます。
 生活面に関しましては,奥さまと2人暮らしであり,このたびの入院でADL低下もなく,現時点での介護保険申請は必要ない[]と判断しました。

 以上になります。このたびは患者さまの受け入れ誠にありがとうございました。以下,その他の病歴,退院時処方になります。

【既往歴】なし
【アレルギー】なし
【生活歴】自宅で奥さまと2人暮らし 職業:65歳まで市役所勤務 喫煙:40本/日×50年間現在禁煙中 飲酒:日本酒1合/日
【退院時処方】ウルティブロ 1回1吸入 1日1回[

 お忙しいところ大変恐縮ですが,引き続きのご高診,ご加療のほど何卒よろしくお願いいたします。

一般名:インダカテロールマレイン酸塩・グリコピロニウム臭化物

記載で気を付けたいポイント

➊最終的な主診断名と簡潔な入院経過 
 最終的な主診断名,簡潔な入院経過(ショートサマリー)を記載することで,外来担当医が患者全体像をすぐに把握できます。そのため外来担当医は診療をスムーズに行いやすく,記載した病棟医自身も振り返りのきっかけになります。また,今回のモデル症例とは異なり,急性期加療後に元々のかかりつけ医院に再通院する場合には,入院時の診断や入院経過が外来担当医の診療振り返りにもなります。

➋検査結果の取り扱いと退院後の留意事項 
 症例によって重要とされる検査結果の項目は異なりますが,培養検査と薬剤感受性検査,補正を要した電解質や血算の項目などは,原因疾患が再発・再燃した際の対応に必要な情報ですので,過不足なく記載しましょう。特に記載が漏れやすいのは,ケア移行時に結果待ちの検査項目です。依頼側の病院でフォローして患者に結果を説明するのか,外来担当医に郵送やFAXなどで連絡し代わりに患者へ伝えてもらうのか,責任の所在の明記が必要です。
 また,ワクチン接種や禁煙指導など再入院予防につながる項目は,急性期加療中に介入ができれば実施しましょう。もし,介入できず,診療情報提供書記載中に気づいた場合にも,退院後に行うべき項目があれば介入依頼を記載しましょう。

➌患者教育と患者および介護者の理解度 
 糖尿病患者におけるインスリン手技や,気管支喘息・COPD患者における吸入手技をはじめとした患者教育と,疾患に関する患者の理解度は,再入院予防につながる大事な項目です。引き続きの処置が必要な場合は忘れず記載しましょう。さらに,同居者やキーパーソン,介護申請・区分変更,在宅調整の有無など,生活環境に関する情報も,外来担当医にとって非常に重要です。ただし,医師のみで把握するのは困難な場合があり,その他の内容で記載量が多くなってしまうこともあります。その際には看護サマリーの記載内容を確認し,それを添付する方法も1つかもしれません。

➍アドバンス・ケア・プランニング(ACP) 
 ACPの実施は,多忙な外来担当医には困難な場合が多いため,入院を契機にACPを聴取する機会がもしあったのであれば,その内容は外来担当医に伝達すべきです。患者がACPを行えなかった場合にはその旨を記載して,「お時間ある際に再度伺ってみてください」と申し送ることも一手です。

❺退院時の処方内容 
 退院時内服の情報は,処方内容だけでは不十分で,必ず新規処方理由・中止理由などを記載しましょう。理由の記載がないために有害事象につながる場合もあります。例えば,腎機能の増悪でARB製剤を減量したにもかかわらず,ケア移行後,減量前の投与量で再開され再度腎不全になるケースも起こり得ます。新規薬剤の処方理由や中止した理由の記載を意識し,退院後の有害事象予防につなげましょう。また,外来担当医に対するインタビュー調査では,「自分たちの処方が中止されていた際に,過小評価されている気分になる」という意見報告もあり,円滑なコミュニケーションのためにも必ず中止理由は記載しましょう6)
 その他,抗菌薬や胃潰瘍治療に対するPPIなどの投与期間が決まっている新規処方は,中止日程も明確に記載します。ポリファーマシーの予防にもつながり,よりよい情報伝達となります。

状況に応じて,さらに気をつけたいポイント

ここまでは,主に外来担当医に宛てる診療情報提供書の記載方法を紹介しましたが,ここからは回復期リハビリテーション病棟・在宅医療に移行する場合に,より注意すべきポイントに関してそれぞれ紹介します。

回復期リハビリテーション病棟に移行する場合に,より注意すべきポイント

主に内科病棟から回復期リハビリテーション病棟に転院になる症例は,脳梗塞の場合が多いのではないでしょうか。本書では脳梗塞のモデル症例がないため,ここで少し触れておきたいと思います〔書籍『外来・病棟・地域をつなぐ ケア移行実践ガイド』(81頁)〕。

急性期病棟と回復期リハビリテーション病棟の間の診療情報提供書を充実させる目的で,「診療情報提供書に望む記載項目は何か」についてのアンケート調査が行われました7)。結果,「検査結果」「看護師記載の報告」「リハスタッフ記載の報告」「患者家族への説明内容・理解度」が必要という回答が多くなりました。しかし,実際にその項目を記載している急性期病院は半数未満でした。「検査結果」「看護師記載の報告」「リハスタッフ記載の報告」に関しては,「検査結果」「看護サマリー」「リハビリテーション報告書」を添付することで,補足できますが,「患者家族への説明内容・理解度」に関しては具体的に医師が記載するのが望ましいと言えます。

今回は,カナダの「脳梗塞後のケア移行のガイドライン」8)を参考に,急性期病院の役割として筆者が重要と考える記載内容をいくつかピックアップしました(表2)。

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表2  リハビリテーション病棟に移行する際に重要 なポイント

➊ 脳梗塞再発予防となる高血圧,糖尿病,脂質異常症などの管理は必ず行い,明確な目標値も記載して申し送りましょう。また,内服管理が自分でできているのかも重要なポイントになってきます。

➋ 後遺症で摂食嚥下機能障害が残存する症例もあります。リハスタッフの評価に加え,嚥下機能評価検査を行った場合には添付しましょう。また,今後リハビリテーションを行っていくうえで,栄養状態は重要になってきます。食形態や胃瘻造設の有無,栄養状態についても漏れなく記載する必要があります。

➌ ADLもすべて自立していた方が,脳梗塞を契機に自分では何もできなくなってしまうことが多々あります。高次脳機能障害が残り,社会復帰が難しくなるケースも少なくありません。変化があまりにも急激であり,大きな不安感からうつ病を併発する症例もあります。患者自身・家族がどこまで疾患を理解し受け入れられているのか,うつ症状がある場合,もしくは疑わしい場合にも明確に記載しフォローを依頼しましょう。

➍ 回復期リハビリテーション病棟では,患者をサポートする方法を,ケアを行う人に指導するのも重要な役割の1つです。指導相手を明確にし,その相手が十分理解できるかどうかも記載しておくべきです。

❺ 予後予測は,症例によって大きく異なり,転院するタイミングによっては急性期病院での評価が困難な場合もあると思います。しかし,入院時のNIHSS(National Institutes of Health Stroke Scale,脳卒中神経学的重症度の評価スケール)などを参考にし,脳梗塞の重症度や回復までの期間の見込みを,判断できる範囲で伝えておくことが望ましいです。また,今後再増悪したときの対応などもACPを通じて確認しておきましょう。

在宅医療に移行する場合に,より注意すべきポイント

在宅医療では,医療だけではなく介護や福祉の分野など地域包括ケアシステムによって全体が機能しており,すべてが医師の指示で動くわけではないことに留意しなければなりません。

日本の医療・保健・介護スタッフの双方へのインタビュー調査では,①入院中に行われた説明内容,②今後継続的に必要な医療処置などの情報,③ACPの状況,の3点が在宅医療に移行する際に重要なポイントとされていることがわかりました。

具体例で示すと,①誤嚥性肺炎を繰り返している場合に予後はどれくらいか説明を行ったか。さらに,家族はそれを理解しているのか。②胃瘻での経管栄養の手技を家族がどこまで理解しているのか。③今後,自宅で心肺停止していた場合には在宅看取りを希望しているのか,また発熱した際には再入院をするのか,などの内容になります。これらの内容を明確に記載するためにも退院前カンファレンスは必須であり,その際に在宅医療にかかわるスタッフの不安を汲み取り,できるだけ解決して明確な答えを出しておくことが重要です。

ここまで述べた通り,良質な診療情報提供書を書くためには,各疾患の医学的知識だけでは不十分です。患者背景を把握する能力,ケア移行後の医療背景を把握し,読み手側が必要としている情報を考える能力が必要です。そのためには,急性期管理だけではなく,慢性期管理や各状況に応じた医療背景を学習することが重要になります。ぜひ本書で理解を深めてください。

日々,それらを心掛けながら診療にあたり,自身の診療を振り返りながら診療情報提供書を記載してください。そうすれば,良質なケア移行だけではなく,良質な診療にもつながってくるはずです。

文献

1)Kripalani S, et al. Deficits in communication and information transfer between hospital-based and primary care physicians: implications for patient safety and continuity of care. JAMA. 2007;297:831-841.
2)Hoyer EH, et al. Association between days to complete inpatient discharge summaries with all-payer hospital readmissions in Maryland. J Hosp Med. 2016;11:393-400.
3)Legault K, et al. Quality of discharge summaries prepared by first year internal medicine residents. BMC Med Educ. 2012;12:77.
4)Rash AH, et al. Valued Components of a Consultant Letter from Referring Physicians’ Perspective: a Systematic Literature Synthesis. J Gen Intern Med. 2018;33:948-954.
5)Halasyamani L, et al. Transition of care for hospitalized elderly patients--development of a discharge checklist for hospitalists. J Hosp Med. 2006;1:354-360.
6)Jones CD, et al. A failure to communicate: a qualitative exploration of care coordination between hospitalists and primary care providers around patient hospitalizations. J Gen Intern Med. 2015;30:417-424.
7)徳永誠,他.脳梗塞の診療情報提供書における記載項目―地域連携クリティカルパス作成時における調査.リハ医.2006;43:834-838.
8)Cameron JI, et al. Canadian Stroke Best Practice Recommendations: Managing transitions of care following Stroke, Guidelines Update 2016. Int J Stroke. 2016;11:807-822.

さらに知りたい方はこちら!

● Royal College of Physicians.Improvingdischargesummaries-learningresourcematerials.
    https://www.rcplondon.ac.uk/guidelines-policy/improving-discharge-summaries-learning-resource-materials(2022年5月20日アクセス確認)
●より良いケア移行のためのWebサイト.医療者のための要介護高齢者における診療情報提供書作成ガイド.
    https://keaikou-kenkyu.jimdofree.com/診療情報提供書作成ガイド/(2022年5月20日アクセス確認)

 

その情報、正確に伝わっていますか?

<内容紹介>救急外来、ICU、急性期・慢性期病棟、回復期病棟、退院、そして地域へ――。1人の患者さんに複数の医療者・施設がかかわることが一般的となり、各セクションでの連携が求められています。しかし療養場所や担当者が変わるなかで、重要情報が抜け落ちる場合もあるのが現状です。そこで、スムーズなケア移行の実現に必要なカルテや指示簿、診療情報提供書の書き方など、医療の質を落とさないためのノウハウを1冊に凝縮しました。

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