医学界新聞

書評

2022.11.28 週刊医学界新聞(看護号):第3495号より

《評者》 公益社団法人兵庫県看護協会教育認定部

 コロナ禍が続く2022年現在,看護学生にとって重要なトレーニングの場である臨地実習の機会が損なわれ,新たな学びを模索する時代にあります。学生を現場の実習に送り出す教育機関も,それを受け入れる施設も,従来の計画通りには実施できなくなり,それぞれ戸惑いながらも対応せざるを得ない,大きな変革期にあります。同時に,わが国の保健医療を取り巻く超高齢社会の進展や国の施策の変化,そして看護基礎教育の第5次指定規則改正を踏まえて,臨地実習の在り方そのものを考える大切な時期が来ていました。

 2017年に初版が刊行されて以来,私は,県の専任教員養成講習会や実習指導者講習会でのガイダンス,講習生の指導といった臨地実習の学びにかかわるあらゆる局面で,本書をそれらの道案内役として活用し,迷ったときのよりどころとしてきました。それから5年を経て,上述のように現場が揺らぎ,新たな方向性を模索しているまさにそんなときに第2版を世に出されたことが非常に意義深く感じられました。

 「看護学生の未来を支える指導のために」と副題が添えられた第2版の構成として,初版と同様,看護を教える人向けに,実習指導をどう考えて準備し,見守り,支え,評価するかについて,編者たちの実地の具体例を織り交ぜながら綿密な記載がなされています。そうした教育観や看護観に興味が尽きず,自然と次のページを開きたくなります。特に,新カリキュラムの趣旨である「臨床判断につなげるための実践的思考力の育成」について,具体例やスキルを示しながらその思考のプロセスが細かく紹介されています。さらに,昨今注目されている臨床判断モデルを可視化するための記録の重要性と実習記録の様式なども提案されています。読者がすぐ行動に移せるレベルで活用しやすく,それらを使った指導をしてみたいと思わせられる内容です。また,あたらしい臨地実習のかたちとしてリモートによる代替実習や,カリキュラム改正の主眼である「地域・在宅看護論」の実習の実際が紹介されていることも,初版からアップデートされた点として注目しました。

 編者が述べられるように,「教育とは,学生の学ぶ力を支援すること」(p.43)だと,私も賛同します。臨地実習という緊張の連続の中で,価値ある経験が積み重ねられるよう支えるのが教員の役割です。そうした主張を実地で裏付けるコラム「学生が看護師になるとき」(p.4)なども章の合間に掲載されるなど,教育の醍醐味といえるエピソードも惜しみなく紹介されています。実習指導のやりがいや面白さ,奥深さを実感でき,その指導を通して「看護の価値」に気付く方向へ導いてくれる構成となっています。また本書からは,時代の変化に応じて,これまでの指導方法に固執するのではなく,教員こそが変わることが必要であるという編者の力強いメッセージを受け取ることができます。

 新任教員や初めて実習指導を担う方はもちろん,実習指導にかかわる全ての人にぜひとも手に取って読んでいただきたい一冊です。

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