医学界新聞


第28回日本摂食嚥下リハビリテーション学会学術大会の話題より

取材記事

2022.10.24 週刊医学界新聞(通常号):第3490号より

 摂食嚥下機能を正確に評価するには嚥下造影検査,嚥下内視鏡検査の実施が重要であるものの,摂食嚥下障害が疑われる患者は多く,全例にこれらの検査を行うことは現実的ではない。そこで求められるのが簡便に行えるベッドサイドスクリーニング検査である。本紙では,9月23~24日に幕張メッセ(千葉県千葉市)で開催された第28回日本摂食嚥下リハビリテーション学会学術大会(大会長=国際医療福祉大・倉智雅子氏)において,各専門職によって行われるベッドサイドスクリーニングに焦点を当てたシンポジウム,「トップランナーに学ぶ ベッドサイドスクリーニング」(座長=国立長寿医療研究センター・加賀谷斉氏)の模様を報告する。

◆看護師,言語聴覚士,理学療法士の視点からみたベッドサイドスクリーニング

 講演冒頭,「摂食嚥下障害患者への対応には,多職種が連携したチームによるアプローチが重要」と切り出したのは,摂食・嚥下障害看護認定看護師の三鬼達人氏(藤田医大ばんたね病院)。チーム内での看護師の役割として,①急性期からリスクを管理しながらかかわること,②治療経過の中で嚥下障害を発見すること,③嚥下訓練を患者の生活に定着させること,④観察結果をチームに提供すること,⑤チーム内でのコーディネーターとなることを挙げ,とりわけ入院や手術,絶食を契機に起こる全身状態の変化によって摂食嚥下障害が顕在化しやすい急性期病院では,「看護師による異常の早期発見と早期介入が必要」と訴えた。

 では具体的にどのような体制を構築すればよいのか。氏が所属していた藤田医大病院では,看護師が入院時に口腔嚥下機能評価フローチャートを用いて初期評価を行い,異常が認められれば摂食・嚥下障害看護認定看護師へコンサルテーション,さらなる介入が必要と判断されると,リハビリテーション科医,歯科医,言語聴覚士,管理栄養士などから構成される嚥下回診を実施するスクリーニング体制を整備している1)。この取り組みにより,摂食・嚥下障害看護認定看護師へのコンサルテーション件数が788件(2019年)から1358件(2020年)に増加していることを氏は示し,各施設での早期発見・介入の体制構築を呼びかけた。

 続いて登壇した言語聴覚士の清水充子氏(埼玉県総合リハビリテーションセンター)は,摂食嚥下障害患者に対して用いられる各種スクリーニングテストについて解説した。氏は,スクリーニングの目的である「症状を引き起こしている病態をつかむ」「摂食嚥下に伴う異常を推定し,リハビリテーションにつなげる」を改めて意識することが重要だとし,症例ごとに用いるべきスクリーニングテストの選択,また,得られた情報から何を推察すべきかを考慮しながら対応する必要があると述べた。

 嚥下運動が行いやすい状態をめざし,頸部・体幹機能と呼吸・嚥下との関係を考慮した効果的な運動療法を提供すべきと訴えるのは高崎健康福祉大の吉田剛氏(理学療法士)。氏は長年,嚥下運動阻害因子となる不良座位姿勢やその原因となる頸部・体幹機能および呼吸状態に注目し,局所の嚥下機能に影響を与える全身機能を運動連鎖の視点からとらえてアプローチを続けてきた2)。「摂食嚥下の際に必要となる座位を保持する能力を向上させるのは理学療法士の得意とするところ」と述べ,摂食嚥下リハビリテーションチームの一員として,運動療法・物理療法の専門家である理学療法士を活用してほしいとの考えを示した。


1)Yamasaki M, et al. Incidence and patient characteristics of aspiration pneumonia using a nursing screening flowchart in an acute hospital. JNSE. 2022;9:190-200.
2)吉田剛,他.脳血管障害による嚥下運動障害者の嚥下障害重症度変化と嚥下運動指標および頸部・体幹機能との関連性.日老医誌.2006;43(6):755-60.

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