若手医師が切り開くこれからの運動器超音波診療
寄稿 岩田秀平
2022.10.17 週刊医学界新聞(レジデント号):第3489号より
これまで整形外科医は,手術適応のない患者さんに対して鎮痛薬または湿布の処方で対応してきました。しかし,局所の痛みに対しても全身に作用する薬物治療で対処することが果たして適切なのかが疑問視されてきました。この問題への解決策の1つが,運動器超音波の普及です。超音波検査ではリアルタイムに身体の中を画像や動画として見ることができます。近年,超音波装置やプローブの改良が進み,画像が高画質化して組織の細かいところまで描出できるようになりました。その結果,痛みを引き起こす腱や神経の動きまでが可視化され,注射などで局所的に介入して痛みを緩和できるようになっています。
先日発刊された『臨床整形超音波学』(医学書院)の帯では,「変形矯正に対するX-ray first時代の終わり,疼痛に対するUS first時代の始まりを告げる1冊」と運動器超音波診療の第一人者である皆川洋至先生がコメントしており1),同書は骨や関節,そしてその矯正に着目していた時代から疼痛の改善に着目する時代へのパラダイムシフトを起こす,今後の運動器超音波診療のバイブルになっています。
◆先進整形外科エコー研究会の発足
整形外科分野で超音波診療が注目を集める中,2016年11月,運動器超音波に興味を持つ若手医師のグループとして先進整形外科エコー研究会(Sonography for MSK Activating Project:SMAP)が結成されました。SMAPでは若手医師による若手医師のための超音波セミナーを企画し,運動器超音波の普及活動を行っています。本セミナーには毎回約1000人の整形外科医や理学療法士などが参加しており,大盛況です。
他にも,SMAPでは奨学金ならぬ“奨学エコー”制度を設けています。本制度は応募者に「エコーを使ってやりたいこと」をプレゼンしてもらい,プレゼンバトルに勝った者にエコーが1年間無償で貸与されるというものです。私自身,2020,2021年に奨学エコー制度に応募しSMAP awardを受賞,2年間のエコー貸与を受けて日々の臨床に活用しています。エコーに興味がある医師であれば誰でも応募することができます。過去には初期研修医や総合内科医,リハビリテーション科医の受賞歴もありますので,興味のある方はぜひ応募してみてください2)。
◆運動器超音波診療の課題
運動器超音波診療は,これまで見えなかった多くのものが超音波によって見えてきた一方で,まだよくわかっていないことも多く,乗り越えていくべき課題も山積みです。例えば,近年よく行われているハイドロリリースが実際に神経にどのように作用して疼痛を緩和しているかは明らかになっていません。また,超音波検査の手技自体に個人差が大きく許容できないとの意見もあります。
今後は疼痛の改善を病態生理学的に証明していくことや,初心者でも熟練者と同じような結果を出すための超音波検査手技の標準化を進めていくことが必要です。私自身,超音波を扱う技術や診断・治療スキルを向上させて患者さんに還元していく。そして,それだけでなく運動器超音波の素晴らしさを多くの方に伝えられるように努めることがSMAPへの恩返しになると考えています。
参考文献・URL
1)笹原潤,他(編).臨床整形超音波学.医学書院;2022.
2)先進整形外科エコー研究会.SMAP公式Webサイト.2018.
岩田 秀平(いわた・しゅうへい)氏 千葉大学整形外科
2018年千葉大卒。武蔵野赤十字病院での初期研修を経て千葉大整形外科に入局。先進整形外科エコー研究会世話人。今後は運動器超音波を活用しつつ,世界で活躍する脊椎外科医になることが目標。「医学生時代から週刊医学界新聞を愛読しており,今回の記事掲載で夢の1つがかなった」。
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