MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内
書評
2022.09.26 週刊医学界新聞(看護号):第3487号より
《評者》 淺香 えみ子 東京医歯大病院病院長補佐/看護部長
多職種が有機的に機能できるコミュニケーションを体得する
疾病や傷害によって日常生活の継続が困難になった生活者たる人を,速やかに元の生活に戻すことを目標にケアをする看護師は,「継続看護」としてその人へのケアをつなげています。これは,施設内外の部署,施設間によらず意識されており,生活支援をすることに看護の専門性を説明するゆえんもここにあります。
この度発刊された本書は,この視座と同じものが医師の役割の中で説明されています。患者の治療は生活の再獲得に向かう手段であり,その効果を最大化する上で現行の医療・社会・福祉の構造特性によって生じる「つなぎ」の効率性を考える必要があることを国内外の情報をもとに解説されています。
本書の最大の功績は,医師が医師に向けたガイドを示したことです。診療の前後へのかかわりは,看護師やMSWなどのメディカルスタッフがチーム医療の中で分担しており,医師がここに気付く機会は少ない現状があります。診療が患者の生活を抜きには実施し得ない緩和ケアの領域ではすでに「つなぎ」が意識されており,生活者への診療,つなぎの中での診療実践が進められています。この状況におけるメディカルチームは,患者の生活を意識した明確な共通ゴールに向かい,有効かつ迅速な活動ができます。すなわち医療チームのリーダーである医師が,生活者としての患者の姿を意識できれば,そこにかかわるチーム活動の効率は格段に上がり,医療のクオリティーが上昇することは確実だと思います。
本書では,生活者である患者を知るためのコミュニケーションと,ケアを任せる相手を想定して行うコミュニケーションの方法として,カルテ記載が重視されています。多様な場面が具体的に例示されており,既存の記録との相違を見ることによって,「つなぎ」の理解がより深まります。医師の業務削減を進める現在,このようなかかわりは逆行するようにも見えますが,看護師を含め,すでにその視座で動ける職種との連携は容易であり,役割分担は可能です。最終的には医師の業務は削減されるでしょう。
一方で,書籍内で例示されている医師のカルテを見た際に,看護師はやや不足を感じるかもしれません。しかし,記載のレベルが看護と同じになる必要はなく,その要素が理解され,行動の方向性が共有できるようになれば良いのです。そうなることで共に考え,補完し合うことができるようになります。また本書は看護師にとって,医師の治療と生活のつながり方を知るツールになり得ます。特定行為研修受講者が,医師の思考を知ることで連携への意識が変わったと述べることもあり,それと同じ効果が期待できるものと思います。
そもそも生活者であった(ある)患者は,元の生活に戻るために医療の対象になったわけであり,医療側の都合で療養の場を変えているわけです。医療側のつなぎが課題であることを診療のリーダーである医師が理解することによってチーム医療の効率が上がり,場を越えた診療・療養の質向上につながることが期待されます。多職種が有機的に機能できるコミュニケーションの在り方を本書で体感できるでしょう。
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