医療の質向上を見据えたICT導入を
第26回日本看護管理学会学術集会の話題より
取材記事
2022.09.26 週刊医学界新聞(看護号):第3487号より
人手不足解消に向けた業務効率化や医療の質向上を目的にICTを活用する「スマートホスピタル」の実現に向けた議論が活発化している。医学領域では高精度なAI診断機器の開発や遠隔診療の導入など実用化が急激に進んでおり,本潮流は看護領域にも及ぶ。看護の現場で求められるICT利用の在り方とは。
本紙では第26回日本看護管理学会学術集会(8月19~20日,福岡県福岡市)で開催されたシンポジウム,「質の高い医療を効率的に提供する『スマートホスピタル』の実現」(座長=東京医療保健大・瀬戸僚馬氏,NTT東日本関東病院・村岡修子氏)の模様を報告する。
◆スマートホスピタルの実現に向けた多角的な取り組み
はじめに登壇した昭和大病院の田口美保氏は,関連施設で統一した電子カルテ導入による情報連携の効率化について報告。導入に当たって①長時間の申し送りをやめる,②看護以外の仕事を減らす,③看護の仕方を変えるをスローガンに掲げるも,実際には3点の徹底に課題が残ると分析。原因として,何のためにICTを利用するかといったアウトカムの共有や情報リテラシーの不足から,ICTの活用に抵抗が残るためではないかと考察した。
続いて登壇したのは疋田智子氏(京大病院)。氏は,loT機器の使用による看護業務の効率化に関して自施設でのデータを示しながら検証した。一例として測定結果を自動で電子カルテと連携するバイタルデータターミナルの利用を挙げ,転記記録の減少による業務効率化の効果は,月に200時間程度,約60万円の削減につながったと算出。今後の課題として,データを可視化し現場へフィードバックを行える人材の育成に言及した。
藤野泰平氏(株式会社デザインケア みんなのかかりつけ訪問看護ステーション)は冒頭,業務効率化の目的を明確に定める重要性を指摘し,ICTに代替不可能な「感情や生きる希望のケアを行う時間を最大化すること」と位置付けた。さらに,自施設での在宅看取り率の測定と店舗間での比較を一例に挙げながら,データ測定による価値創造の可視化が必要だと主張。氏は診療報酬などの制度を変えていくためにもデータ化が求められると訴えながらも,「既存の診療報酬下でICT導入による生産性の向上をめざし,社会の持続可能性を高めることも看護管理者の役割だ」と会場に呼び掛けた。
髙橋真人氏(株式会社FRONTEO)は,看護におけるAIの導入例として患者の転倒転落を予測するシステムCoroban®を紹介。看護師が実施するアセスメントシートと同等の高い予測精度を示した。デジタルでのデータの蓄積により,性能の向上や教育に生かせる点を強調し,「AIを導入することで単なる効率化を図るのではなく,医療の質も共に向上させることが重要だ」と述べ,発表を結んだ。
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