医学界新聞

寄稿 山本夏希

2022.09.05 週刊医学界新聞(通常号):第3484号より

 リハビリテーション(以下,リハビリ)の現場にはさまざまな思いやドラマがあり,私たち医療従事者が患者さんの姿に鼓舞され,元気をもらうことも多々あります。その一方で,入院の長期化や病状の慢性化から患者さんがモチベーションを保つことが難しくなり,思うようにリハビリが進まない場面も散見されます。

 そうした背景の中でも,何らかの困難を克服しようと励む患者さんのひたむきな姿や素敵な表情をご本人にも見てほしい。そしてその体験を後から振り返れる証のひとつとして,写真を残したい。もともと写真家としての活動もしていた私は,そう思うようになったのです。

 ほどなくして,90代の患者さんのリハビリ姿を撮影する機会をいただきました。外傷による手術直後は元気をなくされ,「先も短いのにリハビリなんてする意味がない」とリハビリに対し消極的だった患者さんでしたが,驚くことに,撮影が決まると当日に向けてお化粧やおしゃれをされ,リハビリにも積極的になり,それまでできなかった段階までリハビリが進んだのです。印刷した写真をプレゼントすると,「こんな写真,撮ってもらったことがない!」と,ご本人もご家族も涙を流して喜ばれました(写真)。

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写真 リハビリに励む患者さん

 さらに驚いたのは,後日,私自身の個展でその写真を展示させていただいた時でした。患者さんのご家族でもない,医療従事者でもない,言ってみれば全く関係のない第三者が,写真を見て「とても感動した」「元気が出た」「自分も頑張ろうと思った」と非常に多くのポジティブな感想をくださったのです。綺麗事だけでなく,つらいこと,大変な要素も多く含むリハビリというシーン。それが写真という手段によって,ご本人を含むたくさんの人々の元気や勇気,モチベーションにつながるのかもしれないと強く感じました。そして同時に,「医療現場でのひとつのケア」としてこうした取り組みを広げ,文化として定着させていきたいと考えるようになりました。

 これらのエピソードとともに,当時撮影した写真を第13回日本プライマリ・ケア連合学会(2022年6月開催)で展示させていただいたところ,多くの方が「自分の施設でもやってみたい」と言ってくださいました。また一方で,病院内で写真を撮ることのハードルの高さについても言及されていました。確かに個人情報保護等の倫理的観点,人手や手間等のハードルもあり,今のところ,病院内での写真を残すことはあまり一般的な文化ではありません。しかし実際に写真撮影がリハビリにおけるADL/QOL向上等に有用であることをデータとして示すことができれば,それらのハードルを突破する原動力となり得るのではないかと考えます。

 そこで私は現在,リハビリ時の写真撮影によるADL/QOL変化の検討,および脳波計を用いてリハビリへのモチベーション変化を客観的・定量的に評価する研究を行っています。本学開発のパッチ電極を使用した最新の小型ウェアラブル脳波計とAI解析技術を用いることで,安静時のみならず動作時にも手軽で高精度な脳波測定が可能となります。本研究を進めることで,写真撮影によるADL/QOL変化の評価やリハビリへのモチベーション変化を定量的に評価できるだけでなく,将来的には認知症患者など感情表出困難な方の感情を可視化し,家族・介護者とのコミュニケーションを円滑化することができるのではないかと期待しています。

 まだまだ課題は山積みですが,医療現場で写真を撮影する取り組みが文化として広がる未来を夢見て,また「医療現場のハッピー」に少しでも貢献できるように,研究と臨床に日々邁進しています。


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大阪大学整形外科

2015年阪大医学部卒。同大整形外科学教室に入局。整形外科専門医として臨床に従事する傍ら,フォトグラファーとしても活動。19年に自身の個展で患者さんのリハビリ姿を展示。多くの反響から写真が医療現場にもたらすポジティブな可能性を感じ,探求を始める。現在,阪大大学院に在学中。Instagram ID:@natsupi___

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