医学界新聞

FAQ

寄稿 牧野茂義

2022.08.29 週刊医学界新聞(看護号):第3483号より

 輸血にはABO血液型・Rh血液型が一致した「適合血輸血」と,ABO血液型は異なっているが溶血性反応を起こさないため輸血が可能な「異型適合血輸血」(例えば,緊急時にO型赤血球やAB型新鮮凍結血漿を輸血する場合)があります。それ以外は「不適合輸血」であり,そのほとんどは輸血バッグの取り違えなどが原因の過誤輸血です。ABO不適合輸血は,輸血開始後数分~数時間以内に即時型の血管内溶血反応を起こし,死に至ることもあります。死亡率は不適合輸血の血液型の組み合わせと輸血量によって異なり,O型受血者にA型赤血球製剤を100 mL以上輸血した場合は4人に1人以上が亡くなっています1)

 輸血に携わる全ての医療従事者がめざすべきは,「安全で適正な輸血の実践」です。近年,輸血用血液製剤の安全性は飛躍的に向上し,輸血の安全対策は製造元の日本赤十字社から使用側の医療施設に移行したと言っても良いかもしれません。輸血検査も,輸血用血液製剤の準備も,患者への輸血の実施も,ヒトが行う以上エラーは起こります。手順の抜け,焦りによるミス,確認の怠慢などのヒューマンエラーは組織的に防止することが重要です。今回は,安全に輸血を行うために個人・組織で何ができるかを紹介したいと思います。

 日本輸血・細胞治療学会が実施している輸血業務に関する詳細調査の集計(2011年度~2020年度)によると,過誤輸血の原因はバッグの取り違え48.0%,患者の取り違え22.0%,伝票への血液型誤記入7.3%,伝票の血液型確認ミス7.3%,血液型判定ミス6.5%,患者検体の取り違え3.3%と報告されています。過誤輸血という重大な事故は,これらの軽微な事故を防いでいれば発生しないものであり,軽微な事故は事故寸前のヒヤリ・ハットを防いでいれば発生しないものです(ハインリッヒの法則)。輸血業務におけるヒヤリ・ハットを防止するためには標準操作手順からの逸脱をしないことが大切です。

 輸血関連ヒヤリ・ハット事例につながる行動として,確認・観察・報告の怠慢,記録の不備,連携不足,患者への説明不足などが挙げられます。また背景要因としては,知識不足,技術・手技の未熟さ,繁忙による疲労,通常と異なる身体的・心理的状態などがあります。さらにコンピュータシステムや医療機器の環境・設備機器の不備,および院内の輸血教育・訓練や手順書の不備などの物的要因や管理不足も,ヒヤリ・ハットを引き起こす要因です。院内の輸血マニュアルを遵守し,不明なことは専門的知識を有する指導者に尋ねて明らかにする姿勢が重要です。また,国の指針・ガイドラインや日本赤十字社の輸血情報などを参考にし,輸血の安全対策や適正使用に関する情報は常に新しいものを収集するように心がけましょう。

 エラー防止のためには上記のヒヤリ・ハットにつながる要因を解析し,防止するためのチェック項目を作成し,また各部署においての防止対策を立てスタッフに周知する必要があります。

過誤輸血の原因は,輸血バッグ・患者・検体の取り違え,血液型誤記入,確認ミスなどです。ヒヤリ・ハットにつながる行動を防止するためのチェック項目を標準操作手順に組み込み,逸脱をしないことが大切です。


 ABO不適合輸血を起こした場合の基本的な病態は抗A,抗B抗体による血管内溶血と補体の活性に伴うショックおよびDIC(血管内凝固症候群)であり,それに続発する急性腎不全です。具体的には,まず輸血開始直後から輸注部位付近に熱感,血管痛が出現し,やがて顔面蒼白,不穏状態,胸部苦悶,呼吸困難,頻脈,腹痛,腰痛が起こります。そして発熱,悪寒,戦慄を伴い,嘔吐,失禁,チアノーゼなどの症状も出現します。血圧は,いったんは上昇しますが,間もなく低下しショック状態となり,乏尿・無尿と進行し急性腎不全状態を呈します。

 対処法としては,直ちに輸血を中止し,他の医師・看護師などの医療スタッフの協力を仰ぐことです。中止した輸血バッグは捨てずに清潔に保管し,輸血部に提出します。また留置針は抜かずに接続部から新しい輸液セットに交換し,生理食塩液などに切り替え,血圧の維持,ショック状態の防止と利尿に努めます。バイタルサイン(血圧,呼吸,脈拍)を継続して監視し,血圧低下がみられたら,医師の指示により昇圧剤の投与を開始しましょう。尿量確保のために導尿してヘモグロビン尿の観察,時間尿測定を行い,乏尿時には利尿剤を投与します。患者から採血し,DIC,腎不全,溶血の程度を確認した上で,必要に応じてDICの治療や血液透析などの治療も検討していきます。忘れてはならない点は,採血時に患者の血液型を再確認することです。また,医療過誤があった際には本人・家族に事実を説明した上で,救命治療に専念しましょう。

ABO不適合輸血を起こした場合,血管内溶血と補体の活性に伴うショックおよびDICが起こり,続けて急性腎不全が発生します。その際は直ちに輸血を中止し,他の医師や看護師に協力を仰ぎ,共同して治療に当たりましょう。この際,採血を改めて行い,患者の血液型を確認し直すことも重要です。


 安全な輸血を実施するためには,院内輸血管理体制を整えることが重要です。まず,輸血部門を設置し,輸血責任医師の任命,輸血担当臨床検査技師を配置することで,院内の輸血業務を一元管理し輸血検査の24時間体制を構築します。その上で院内の輸血に関するルールを決め,マニュアルの作成などを行う輸血療法委員会を設置します。また,輸血業務に従事する医師・看護師・臨床検査技師は,輸血の専門性を有した者が望ましく,特に輸血を実施するベッドサイドの安全性を確保するには学会認定・臨床輸血看護師などを中心とした輸血現場における教育・指導が有効です。

 さらに,輸血療法委員会の管理下で,輸血医療に専門性を持つ医療従事者(日本輸血・細胞治療学会認定医,認定輸血検査技師,学会認定・臨床輸血看護師,薬剤師など)が「輸血医療チーム」を結成することも効果的です()。輸血医療チームによる輸血実施部門や施設全体での輸血勉強会・講習会も大切ですが,より大切なことは,輸血巡視(輸血ラウンド)を行い,現場のスタッフとコミュニケーションをとり,現場・チームでの連携を密にすることです。

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 安全な輸血のための院内体制
輸血医療に精通した医療従事者(日本輸血・細胞治療学会認定医,認定輸血検査技師,学会認定・臨床輸血看護師,薬剤師など)が「輸血医療チーム」を結成し,輸血療法委員会の管理下で活動を行う。
*病院管理者および輸血療法に携わる各職種・部門の代表者,診療部門の代表者,輸血医療チームのメンバー,事務・会計部門の代表者,血液センター職員からなる。

院内輸血管理体制を整えるために,輸血業務の一元管理と臨床検査の24時間体制を構築し,その上で院内のルール・マニュアルを設定しましょう。また,「輸血医療チーム」を結成し,現場スタッフとコミュニケーションを取りながら業務に当たることも,安全性の確保につながります。


 輸血管理体制を整備した上で,院内輸血医療のルールに則ったマニュアルを作成し,適宜見直しと周知徹底を行います。輸血医療に携わる医療従事者は,制定された標準操作手順から逸脱することなく業務を行うことが大切です。また,その際医療安全情報などを活用すること,患者認証システム(PDA)などのITを利用することも効果的でしょう。他にも,輸血医療に精通した医療スタッフが輸血医療チームを組んで輸血ラウンドを行い,院内の輸血に関する諸問題について共同で対応することも重要です。

 輸血関連ヒヤリ・ハットを解析し,その要因を明らかにした上で再発防止の対策を立て,ヒヤリ・ハット事例を減らす。この積み重ねによって過誤輸血等の医療事故を防いでいきましょう。


1)前田平生,大戸斉,岡崎仁(編).輸血学 改訂第4版.中外医学社;2018.

東京都赤十字血液センター所長

1984年九大卒。県立宮崎病院での研修を経て,88年に九大病院輸血部医員。93年豪アデレード大に留学。95年県立宮崎病院内科,2003年には同病院輸血医療責任者を兼任。07年虎の門病院輸血部長を経て,22年より現職。専門は輸血医学,血液内科学。

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