第27回日本緩和医療学会
取材記事
2022.07.25 週刊医学界新聞(看護号):第3479号より
第27回日本緩和医療学会学術大会(大会長=東北大大学院・宮下光令氏:右写真)が7月1~2日,「現状を評価し,前に進む」をテーマに神戸国際展示場(兵庫県神戸市)他にて開催された。
本紙では大会テーマに鑑み,がん対策における緩和ケア推進の現状と課題をデータで評価した特別講演,30年に及ぶACPの理論・実践・実証を国際的潮流を踏まえてレビューした講演の2題を報告する。
データで見る緩和ケアの進展と残された課題
がん対策基本法の基本理念のひとつが「がん医療の均てん化の促進」だ。これを受けて,がん医療の現状をQuality Indicator(QI)を用いてモニタリングする事業や,患者体験調査による実態把握が進んでいる。東尚弘氏(国立がん研究センター)による特別講演「データに見るわが国の緩和ケア」では,これらのデータをもとにがん医療・緩和医療の課題が提示された。
がん診療連携拠点病院の「現況報告」や「指定要件に関する意見・実態調査」などを踏まえると,緩和ケアチームの人員などのストラクチャー(構造)は整備されつつある。その一方で,東氏が問題提起したのは,緩和ケアのプロセス(過程)やアウトカム(結果指標)の現状だ。
例えば院内がん登録およびDPCデータによるQI研究を踏まえると,症状緩和的治療の実施は診断初期で1割程度,Ⅳ期胃がん・経過観察例においても緩和ケア関連加算の算定は3割に留まる。また,肺がん・死亡1か月前の化学療法は2割で実施,2週間前でも1割で実施されており,終末期におけるQOLの悪化が懸念される。さらに患者体験調査の結果,診断から約3年後において「苦痛のある」患者は35%,「日常生活に困っている」患者は19%に上った。特にAYA世代において,医療者との対話や身体的つらさの相談ができていない傾向が顕著であるという。
最後に氏は,こうした実態把握の重要性はもちろんのこと,緩和医療へのアクセスなど既存のデータでは捕捉できない問題もあることを指摘。緩和ケア関係者で問題意識を共有し,データ収集を行い,改善策を議論することが求められると結んだ。
「踊り場」にあるACP,次の30年に向けてイシューから始めよ
「アドバンス・ケア・プランニング(ACP)は今,踊り場にある」。冒頭でこう述べたのは,「ACPのエビデンスとアンチテーゼ――今後の姿を考える」と題して講演を行った森雅紀氏(聖隷三方原病院)だ。
過去30年以上にわたり,欧米を中心にACPの理論・実践・実証の試みが反復されている。事前指示書を含むACPの効果を示せなかったSUPPORT研究(JAMA. 1995[PMID:7474243])に始まり,ACPプログラムとして米国で開発されたRespecting Choices,その後の多様な実証研究/系統的レビューを紹介。ACPの効果は研究/アウトカムにより一定しないものの,全体としてはACPを推進する国際的な潮流があることを示した。
「ACPを進めるかどうか」から「ACPをどう進めるか」に関心が移りつつある一方で,近年は米国のグループからACPへの疑念が呈されているという。中でも波紋を呼んでいるのが,緩和ケアのオピニオンリーダーであるSean Morrison氏らの論考だ。“Advance directives/care planning:clear, simple, and wrong”(J Palliat Med. 2020[PMID:32453620]),“What’s wrong with advance care planning?”(JAMA. 2021[PMID:34623373])と題する「アンチテーゼ」が示され,今なお論争が続いてるという。
この状況に氏は,緩和ケア関係者が自らの足元を見つめ直す好機であるとの見解を示し,「次の30年を歩み始めるための踊り場にいる」と再度強調。「イシュー(=自分たちの現場で本当に解決すべき課題)を問い直すことから始めよう」と聴衆に訴えた。
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