医学界新聞

寄稿 永田 真

2022.06.13 週刊医学界新聞(レジデント号):第3473号より

 近年,大人の食物アレルギーが大きな問題となっています。小児期の発症が継続するだけでなく,成人してから発症する病型が激増しているのです。本稿では,その臨床上の基本的注意点と,レジデントの皆さんが最低限知っておくべき重要な病型を紹介します。

 鶏卵や牛乳などが大きな問題となる小児と比べると,大人の食物アレルギーでは果物による発症頻度が非常に高いです。大半が,臨床的には口に入れた時のかゆみなどで知られる,いわゆる「口腔アレルギー症候群」の形をとります。症状が現れる果物等と,皮膚プリック・テストや血中抗体検査で検出されたアレルゲン特異的IgE抗体の陽性結果が合致すれば,基本的には摂食の回避を指導します。

 加えて,成人では食物依存性運動誘発性アナフィラキシー(food-dependent exercise-induced anaphylaxis:FDEIA)を発症する症例がしばしばみられます。以前からその原因アレルゲンは小麦と甲殻類の頻度が高いとされ,医師国家試験にも頻出されてきましたね。しかし近年,実際の臨床の場においては果物によるFDEIAが増加してきており,注意が必要です(国家試験問題と乖離してきているのです)。研修医の皆さんもご存じのように,以前にFDEIAを起こした方でも,普段はそのアレルゲンを食べても問題ないことが多くあります。その場合は,食後4時間の運動回避をすれば通常は症状が出ません。また,運動の予定がある,あるいは歩いて移動するなどの予定が事前にわかっているときには,数時間前から当該アレルゲンの摂取を回避すればよいのです。具体的には,小麦アレルギーの場合に米食にするなどの対策を患者に取ってもらいます。

 なおFDEIAに限らずですが,アナフィラキシーは疲労・ストレスや,温度高低の刺激,飲酒,NSAIDs投与,入浴,感作花粉への曝露,また月経などで発現しやすくなる点にも要注意です。アナフィラキシーを反復する例や,初発であっても再発リスクがあると思われる場合には,アドレナリン自己注射システム(エピペン®)の導入・指導が必要となります。

 果物アレルギーは大人の食物アレルギーの代表とも言えます。その多くは,花粉への感作と,それに交差反応性のある食物アレルゲンの摂食によって生じる花粉-食物アレルギー症候群(pollen-food allergy syndrome:PFAS)です。代表的なPFASのまとめをに示します。

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 代表的な花粉-食物アレルギー症候群

 日本で春の花粉症といえばスギですが,幸いスギ花粉症ではPFASを起こす頻度は高くありません。ところが関東圏で2~4月,つまりスギ花粉と飛散時期が重なり,鼻炎・結膜炎症状をもたらすハンノキ花粉症では,交差反応によって多彩なPFAS症状がみられるのです。ハンノキ花粉症ではバラ科に属するリンゴ,モモ,ビワ,サクランボなどでのアレルギー症状がみられます。またその主要アレルゲンBet v1が大豆アレルゲンのGly m 4と交差反応することで,大豆,特に豆乳アレルギーを呈します。さらにヘーゼルナッツなどナッツ類でも症状を示すことがあるのです。ハンノキはカバノキ科であり,北海道や長野などに多く,同じくカバノキ科であるシラカンバ花粉症でもそれらの食物へのアレルギー症状が出現し得ます。

 そのほか,初夏から秋にかけてのカモガヤ(イネ科)やブタクサによる花粉症では,メロンやスイカで症状がみられることが比較的多いです。秋の花粉症の代表にはもうひとつヨモギがあります。この場合にはセロリやニンジンなどの野菜でアレルギー症状が現れることがあるほか,スパイス類(コリアンダーやクミンなど)とも交差反応するため,例えばカレーなどを食べてアレルギー症状が現れます。

 また,われわれ医療関係者に多い食物アレルギーに,ラテックス-フルーツ症候群があります。ラテックス(ゴム)製の手袋などを使用しているうちに感作が生じて,当初は手にかゆみや湿疹などが生じます。そうした状態の方がラテックスと交差反応するバナナ,キウイ,クリ,アボカドを摂取するとアレルギー症状が現れるものです。頻回に医療を必要とする患者さんでも,ラテックスへの接触機会が増えて症状がみられることがあり,注意が必要です。ラテックスのメジャーなアレルゲン成分であるHev b 6.02 特異的IgE抗体の測定は,保険適用があります。なお食物アレルギーの診断でのIgE抗体測定ではマルチ・スクリーニング法は適しておらず,必要項目を一つずつ選択し組み合わせることが可能で,比較的測定感度のよいCAP法などを一般に用います。アレルギー専門医では,果物を刺した針でプリック・テストを行う,プリック-プリック・テストを必要に応じて行います。

 デリバリーや回転ずしなどの普及に伴い摂食する機会が増加したことで,魚介類でアレルギー症状を示す例も近年は増えています。6歳までの小児ではイクラ・アレルギーが急増しており,問題となっています。成人でも従来,比較的高頻度にみられた甲殻類に加えて,広く魚介類でのアレルギー症状を訴える方が受診されます。

 成人での魚アレルギーは,調理職など連日魚介類をさばく方が症例の中心です。手指からの経皮感作が中心と考えられ,アレルゲン成分はパルプアルブミンとコラーゲンです。他に,魚由来コラーゲンは天然成分として化粧品に用いられることがあり,若い女性などで天然成分が良いと信じて使用し,感作する場合があります。ただし,成人でも魚自体のアレルギーは,実は高頻度とは言えません。特に,もしさまざまな魚でアレルギー症状が出ると患者さんが訴える場合には,別の病態を考慮する必要があるのです。

 一つはアニサキス・アレルギーです。アニサキスは赤身魚やイカ,サケなどに広く寄生しています。医師国家試験にも出題される,生食で急性の胃腸障害を起こす“raw-fish disease”のほかに,微量でもアレルゲンとしては作用して,食物アレルギー症状を呈し得るのです。この場合には加熱処理をしていても症状が出現し得ます。IgE抗体検査で当該魚類が陰性で,アニサキスが陽性であれば,その診断が可能です。なお,アニサキス・アレルギーとなった方でも,養殖魚や淡水魚は寄生されていることが少なく比較的安全に食べられる場合が多いです。

 もう一つはヒスタミン中毒です。これは食品に含まれるヒスチジンに局在するヒスタミン産生菌が作用し,ヒスタミンが発生することによって起こります。これも加熱では分解されません。サバに対するIgE抗体はないのに,食べるとアレルギー症状が現れる,といった話が典型的です。エラや消化管の部分にヒスタミン産生菌が多く存在するため,例えばいわゆるカマと呼ばれる部位で発生しやすいとされ,一般に赤身魚で多いです。魚を室温で放置するとヒスチジンからヒスタミンへの転換が促進されますので,直ちに冷蔵保管したり,できるだけ鮮度の良いうちに食べたりすることが大切です。

 本日ご紹介したのは,数ある大人の食物アレルギーのごく一部です。小児だけでなく,ぜひ大人の食物アレルギーにも注目し,診療に臨んでいただければ幸いです。


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埼玉医科大学アレルギーセンター長/呼吸器内科教授

1983年埼玉医大卒。87年同大大学院医学研究科博士課程修了。90年獨協医大アレルギー内科研究員,92米ウィスコンシン大アレルギー科フェローなどを経て,2005年より埼玉医大呼吸器内科教授。09年よりアレルギーセンター長を兼務。日本アレルギー学会常務理事,同関東支部長。21年日本アレルギー学会学術大会会長を務める。

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