CAR-T細胞療法の進展と展望
第44回日本造血・免疫細胞療法学会総会の話題より
取材記事
2022.06.06 週刊医学界新聞(通常号):第3472号より
第44回日本造血・免疫細胞療法学会総会(会長=東大医科研・高橋聡氏)が5月12~14日パシフィコ横浜(神奈川県横浜市)の会場およびオンライン配信のハイブリッド形式で開催された。本紙では,シンポジウム「CAR-T細胞療法:現状と将来への期待」(座長=名大・赤塚美樹氏,京大・髙折晃史氏)の模様を報告する。
再発・難治性のCD19陽性のB細胞急性リンパ芽球性白血病(B-ALL)と再発・難治性びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)を対象に,2019年,国内で初めてキメラ抗原受容体導入T細胞療法(CAR-T細胞療法)として承認されたtisagenlecleucel(tisa-cel)。21年にはaxicabtagene ciloleucel(axi-cel),lisocabtagene maraleucel(liso-cel)が相次いで承認され,血液疾患の治療にパラダイムシフトを起こしている。最初に登壇した伊豆津宏二氏(国立がん研究センター中央病院)は,悪性リンパ腫に対するCAR-T細胞療法の臨床試験に関する知見を紹介。サードラインのDLBCLに対して,これら3剤が50~70%の奏効率,完全奏効(CR)率は40~50%の効果を発現する1~3)ことを示し,一度CRが得られた患者の多くで効果の持続が認められたと参加者に共有。「高コストであることや同時に多くの患者を治療できないといった課題はあるものの,DLBCLに対する治療においてCAR-T細胞療法は今後大きな位置を占めていくだろう」との考えを示した。
血液疾患の中でも難治性が高い多発性骨髄腫(MM)の治療として期待されているのが,B細胞成熟抗原(BCMA)を標的としたidecabtagene vicleucel(ide-cel)とciltacabtagene autoleucel(cilta-cel)だ。石田禎夫氏(日赤医療センター)は発表の中でMMに対する臨床試験の結果を示し,その有効性を紹介4, 5)。今後さらなる有効性の改善のために,早期のCAR-T細胞の投与,CAR-T細胞療法後の追加治療を行う試験等が進行中であるとフロアに共有した。
◆CAR-T 細胞療法の安全な運用を
CAR-T細胞療法が「ごく普通の日常診療として運用できるようになってきた」と話したのは新井康之氏(京大病院)。同院では院内の情報集約を担う細胞療法センターを開設し,効率的かつ安全なCAR-T細胞療法の運用をめざす。また,CAR-T細胞療法施行患者の最新の状況をリアルタイムに把握するためのアプリケーション「かるたす」などを開発。治療実施時の安全性と透明性を担保し,多職種からなるチーム医療の体制を確立する重要性を強調した。
看護師の福田裕子氏(京大病院)は,CAR-T細胞療法における看護実践の柱として,①安心・安全な医療を提供するための看護師教育,②現場で適切に対処するための投与管理と副作用管理,③意思決定支援と患者教育の3つを挙げた。これらの達成に向け同院では,映像資材を用意するなどの教育環境の整備,手順書や判断基準,チェックリスト作成による質の担保,外来でのインフォームドコンセントの場に病棟看護師が同席し患者・家族の意思の確認などに取り組む。CAR-T細胞療法の特徴として紹介患者が多数を占めることから,治療前から退院後を見据えた紹介元病院との連携をさらに強化していきたいと語った。
参考文献
1)Lancet Oncol.2021[PMID:34516954]
2)Lancet Oncol.2019[PMID:30518502]
3)Lancet.2020[PMID:32888407]
4)N Engl J Med.2021[PMID:33626253]
5)Lancet.2021[PMID:34175021]
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