医学界新聞

書評

2022.05.23 週刊医学界新聞(通常号):第3470号より

《評者》 福島医大教授・微生物学

 日頃,一部の医学生や医師から「微生物学は覚えることばかりでキライ!」と言われる。さまざまな微生物がオムニバス形式で登場する微生物学の全体像や考え方,そして何より微生物対ヒトの生存をかけた戦いの面白さをどのように伝えればよいのか,悩みは尽きない。その1つの対策として,短時間で一気に読み終えられる看護学生向けの微生物学の教科書を1~2度通読してから講義を受けるよう医学生には勧めている。そうすることによって個々の微生物間の共通点や特異点が明確となり,体系立てて微生物学が理解できるようになるからである。

 この目的に合う本を,教科書の定番『標準微生物学』の編集者であった中込治先生が出版されたことを知り,早速,手に取った。本の帯には「分厚い教科書を読む前に!」という見出しと,①本格的な病原微生物学の講義を受ける前の医療系学生,②細菌やウイルスのきちんとした知識を身につけたい一般の方,③微生物や免疫細胞たちを愛してやまない方におススメする,とある。まさに私が探し求めていた微生物学の副読本ではないか! 早速1日で一気に読み通した。

 まず本書で感心したのは,柔らかな語り口でウイルス学者である中込先生が病原微生物とわれわれの生存をかけた戦いについて気の向くまま,思いつくままに語りかけてくれている点である。しかも大切なポイントは落とすことなく,見事に網羅されていることには驚かされた。相当綿密にシナリオを練ってから書き上げた労作に違いない。平易でありながらも学問的で,厚い成書には書かれていない微生物学,感染症学を理解するためのツボが丁寧に書き込まれた“痒い所に手が届く本”なのである。“あとがき”で「講義を聴くように(中略)一気に最後まで読み進められる」ことと「耳で聞いてわかる『お話』である」ことを本書のコンセプトにしたと著者は述べているが,それが見事に実現されている。臨床検査学,微生物学,そして公衆衛生学という3つの分野から多面的に感染症を研究してきた著者の視野の広さの真骨頂である。

 新型コロナウイルス感染症に苦しめられている今,医学生や一般の方々にお薦めできる優れた...

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