先を読んだカルテ記載があなたの身を守る
インタビュー 𠮷村 長久
2022.05.23 週刊医学界新聞(通常号):第3470号より

医療訴訟ではカルテの記載が重視され,その記載内容に不備があれば,裁判で事実とは異なるように認定される恐れがある。つまり,カルテの書き方一つで本来巻き込まれるはずのなかったトラブルに見舞われるかもしれないのだ。では,限られた時間の中で,カルテに何を書けば無用なトラブルを避けられるのか。
本紙では,病院長として院内のさまざまなトラブルに対応した経験から,このたび『トラブルを未然に防ぐカルテの書き方』(医学書院)を上梓した𠮷村長久氏に,ポイントを押さえたカルテ記載の重要性について聞いた。
――このたび𠮷村先生が編者を務めた『トラブルを未然に防ぐカルテの書き方』が上梓されました。本書は,医療訴訟につながりかねないカルテ記載のポイントに焦点を当ててまとめられています。まずは執筆に至った経緯を教えてください。
𠮷村 病院で起こるトラブルは大小あり,院長として対応に当たることが何度もありました。その中で,ややもすると大きなトラブルに発展しかねないカルテ記載を目にし,危機感を覚えたのです。カルテの書き方に対して問題意識を持ってほしいとの思いから,当院の顧問弁護士である山崎祥光先生(御堂筋法律事務所)に,院内でカルテの書き方に関する講演をお願いしました。本書は山崎先生との共同編集で,講演の内容をまとめたものです。
「無防備なカルテ」が無用なトラブルを招く
――本書では訴訟を例に挙げ,ポイントを押さえたカルテ記載の重要性が繰り返し述べられています。その意義について教えてください。
𠮷村 院内で起きたトラブルが訴訟にまで発展した場合,裁判官はカルテの記載を証拠として重要視します。例えば,裁判で病院側が医療行為の正当性を主張する場合に,患者に対して何をどのような根拠で行ったのかを証明する必要があります。その際にはカルテが物的証拠として重要であり,記載に不備があれば事実とは異なるように認定されてしまう恐れがあります。つまり,カルテを適切に記載していれば巻き込まれるはずのなかったトラブルに見舞われるかもしれないのです。実際はトラブルになりかけても裁判にまで発展しないケースがほとんどかと思いますが,病院管理者の立場から見れば危うい事例はたくさんあります。さらに,こうした頻発するトラブルには院内の職員が対応することになり,時間と労力が奪われてしまいます。
――やはりトラブルは起こさないに限ると。
𠮷村 そうですね。トラブルが起きなければ医療サービスの提供に集中できるようになり,医療の質向上も期待できます。ただ多くの医師は,医学的に問題のない医療を提供していればトラブルは起きないと思っています。自分のすぐ近くに火種があるとはつゆ知らず,「無防備なカルテ」を書いてしまっているのです。
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𠮷村 長久(よしむら・ながひさ)氏 田附興風会医学研究所北野病院 病院長
1977年京大医学部卒業後,天理よろづ相談所病院にレジデントとして入職。85年京大大学院医学研究科修了,同年に米マウントサイナイ医大に留学,89年京大講師,93年大津赤十字病院眼科部長,95年信州大教授,2004年京大教授,16年京大名誉教授などを経て,同年より現職。専門は眼科学。『眼科臨床エキスパート』『加齢黄斑変性(第2版)』『OCTアンギオグラフィコアアトラス』『トラブルを未然に防ぐカルテの書き方』(いずれも医学書院)など編著書多数。
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