米国臨床留学からのアカデミックキャリアをめざして
寄稿 工野 俊樹
2022.05.16 週刊医学界新聞(レジデント号):第3469号より
卒後3年目に始めたUSMLE対策
学生,初期・後期研修医,さらには専門医を取得された方々の中にも,臨床留学を希望する人はいると思います。学生の頃の私は「そのうち留学したい」という漠然とした夢を描くのみで,そこに現実味はありませんでした。
ようやく重い腰を上げて試験勉強を始めた時には,既に卒後3年目になっていました。米国臨床留学に関しては,USMLE(米国医師国家試験)に合格しないことには何も始まりません。Step1は基礎医学分野の試験のため,臨床業務と並行しての勉強は億劫で気が乗らず,試験日を無理やり設定して自分にプレッシャーをかけ,なんとか合格しました。
しかしその後は循環器内科としての駆け出しの時期に入ったため,USMLEの勉強はいったん休止。卒後5年目にStep 2 CK, Step 2 CSの受験対策を始めました。29歳になってようやく真剣に英会話の勉強に取り組んだわけです。しかし結局は時間が足りず,模擬患者の診察に必要な英語センテンスをまる覚えして,なんとかStep 2 CSをパスしました。
もちろん,試験にようやく合格する程度のレベルでは,臨床業務を遂行するには不十分と言わざるを得ません。その後は渡米するまで,1日2~3時間前後の英語学習の時間を確保して留学に備えました(といっても,帰国子女レベルには到底及びませんし,渡米4年目の今でも苦労しています)。
USMLEの点数だけではポジションを獲得できない
「USMLEに合格すれば留学できる」と誰もが思うでしょう。しかし現実はそう簡単ではありません。なぜなら,米国臨床留学を志す医師は世界中にいて,熾烈な競争の上でレジデンシー,フェローのポジションを勝ち取らなければならないからです。その際に重要なのは,USMLEの点数以外にも,(英語力を含む)面接スキル,推薦状や研究業績となります。
USMLEや面接スキルは個人の努力でなんとかなるとしても,推薦状や研究業績を得るには他人の助けが必要です。しかし,COVID-19により短期留学さえ難しく,推薦状を獲得するのは困難な現状があります。そんな中でも,主にインド人や中国人などは,医学部卒業後すぐに,米国に渡り1~2年間ほど有名研究室で経験を積み,そこで強固な推薦状や研究業績を得て,米国臨床留学をめざすわけです。
私の場合は,2011年にN program(註)の選考に応募したものの,落選した経緯があります。そこでいったんはレジデンシー・プログラムでの臨床留学を諦め,日本国内で心臓血管カテーテル治療医として鍛錬を積みつつ,フェローのポジションを探すことにしました(実際は循環器フェローの競争率は高く難関であるため,レジデンシーからの臨床留学のほうがマッチしやすいのですが,当時はそんなことはつゆ知らず)。その時期に「留学するためには研究業績も重要である」と助言を受け,関連病院で臨床に従事する傍ら,慶應義塾大学の香坂俊先生に臨床研究の指導をしていただきました。そこから時間を要しましたが,N programに再度応募してなんとか滑り込み,2018年7月より内科レジデントとして渡米することになりました。
結果的にはこの間に培った研究のスキルやマインドが,レジデンシーへのマッチングだけでなく,その後のキャリアを築く上で大いに役立ちました。N progr...
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工野 俊樹(くの・としき)氏 Montefiore Medical Center,Albert Einstein College of Medicine,循環器内科フェロー
2006年慶大医学部卒。さいたま市立病院臨床研修医,慶大病院内科専修医を経て,横浜市立市民病院循環器内科(09年),慶大病院循環器内科(10年),足利赤十字病院循環器内科(11年~)。18年7月より Mount Sinai Beth Israel内科レジデント。21年7月より現職。査読あり英語論文の研究業績は約200本(https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/?term=toshiki+kuno+&sort=date)。TwitterID:@ToshikiKuno
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