医学界新聞


6人の先輩から後輩へ“贈る言葉”

寄稿 窪田 紀彦,北台 留衣,谷口 義章,加藤 新英,岩田 太志,千葉 蒔七

2022.05.16 週刊医学界新聞(レジデント号):第3469号より

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 「迷うことができるのも,一つの恵み。迷った時は,『選択する自由』を与えられたと思ってプラスとマイナスを書き出し,その重みによって決める」〔渡辺和子氏『置かれた場所で咲きなさい』(幻冬舎)より〕

 2018年度より開始された新専門医制度では,19の基本領域の中から診療科を選択し専攻医として研鑽を積んだ後,より専門性の高いサブスペシャルティ領域に進みます。自身のキャリアへの尽きない悩みから,どのサブスペシャルティ領域に進むべきか,迷う方も多いのではないでしょうか。

 そこで本紙では,さまざまな領域で活躍する6人の先輩医師たちに,現在の領域を選んだ理由や研修生活などについて聞いてみました。先輩たちからのアドバイスが進路の悩みを解決する糸口となることを願っています。

こんなことを聞いてみました
①経歴
②診療科の紹介
③ここが聞きたい!
 a.この領域をめざした理由
 b.現在の研修生活は?
④同じ道を志す後輩への“アドバイス”

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亀田総合病院 呼吸器内科

急性期~慢性期,終末期までを一手に担う

①経歴:2017年鳥取大卒。沖縄県立南部医療センター・こども医療センターで初期研修の後,19年より現職。

②診療科の紹介:日本人の2020年部位別がん死亡者数が最多の肺がんをはじめ,COPD,喘息といったcommon disease,結核や非結核性抗酸菌(NTM)症,膿胸などの感染,間質性肺炎,睡眠時無呼吸症候群など,出合う疾患は多岐にわたります。病歴や身体所見等からこれらの疾患を疑い,検査を組み立て,その結果を解釈して治療を行います。どの診療科でも同じかもしれませんが,この一連の流れをうまくマネジメントし,患者さん,ご家族に満足していただけるとやりがいを感じます。

③a.この領域をめざした理由:思えば人生悩んでばかりです(当たり前ですかね笑)。医師になる前,社会人として数年間働いていた私は,「働くって生きることだ!」と思い直し,人の命にダイレクトにかかわる仕事がしたいと考え,医学部受験を志しました。クリニカルクラークシップや,初期研修でのスーパーローテートを通して,一つの臓器・領域に絞るのは難しいなと思う反面,何でも屋になるのも難しいなと考えていました。ただ,手術室にいるよりは外来で患者さんと向き合っているのが自分には向いているし,楽しい。内視鏡や手技ばかりは嫌だなぁ(少しはしたいけど),急性期~慢性期,できれば終末期の診療にも携わりたいなぁ(大変そうだけど),といった気持ちに気付きました。「そんな診療科って?」と考え,呼吸器内科がフィットするように思い(気管支鏡も小さめな私の手にフィットしました),現在に至っています。

b.現在の研修生活は?:現在私が所属する亀田総合病院に対して読者の皆さんがどう感じられているのかわかりませんが,私は正直,「何だかハイパーで怖そう」なイメージがありました(笑)。でも,実際に働いてみると全然そんなことはなく,呼吸器内科部長の中島啓先生をはじめ,優しくて,熱心な先生に囲まれ日々修行しています。

 後期研修1年目から専門外来を1コマ(半日/週)担当させてもらい,最初は慢性期疾患の落ち着いている患者さん4~5人+胸部異常陰影や咳嗽などの初診の仕方を学んでいきました。また週3回の気管支鏡検査や病棟業務,他科からのコンサルト対応,当直業務を上級医に指導いただきながら行いました。臨床と並行して研究や雑誌記事の執筆などを行えたことも良い経験でしたね。

④同じ道を志す後輩への“アドバイス”:志望する診療科や極めたい疾患が明確な人はその道を突き進めばよく,私からするとうらやましい限りです。ですが,目標が明確な人ばかりではないと思います。そんな時は,内科系で迷ったらとりあえず呼吸器内科を考えてみてはどうでしょうか? 総合内科などから考えてみるアプローチもあると思いますが,呼吸器内科も大変幅広い領域をカバーしているので,自分に合った専門性を磨いていけるかもしれませんよ。その際にはぜひ亀田総合病院の呼吸器内科にも見学に来てみてください! 結局のところ,人生は1度きりで目の前は分かれ道ばかりです。「他科の道を選択していたら……」「あの病院を選んでいたら……」という,もしもの世界を体験することはできないので,最後は直感で決めた診療科で全力を尽くし,良い方向に転がしましょう!

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国立がん研究センター 中央病院腫瘍内科

がんの専門家として患者に寄り添った治療を

①経歴:2016年広島大卒。都立駒込病院にて初期研修後,同院呼吸器内科で4年間の後期研修を行い,主に胸部悪性腫瘍の診療に携わる。22年より現職。

②診療科の紹介:腫瘍内科医は,がんの薬物療法の専門家です。がん治療では薬物療法の他,手術,放射線治療,緩和治療などが行われますが,治療の方向性を定める際に重要な役割を担います。

a.この領域をめざした理由がん診療・研究に携わっていた父の姿を幼少期より見てきたことから,将来的にはがん診療に従事したいと考え,学生時代の基礎研究実習では海外の研究室で乳がんの基礎研究を行いました。初期研修病院を探す際には,その後のキャリア決定につながるだろうと,初期研修から腫瘍を学べる病院である都立駒込病院を受験し,幸運にも採用していただきました。初期研修では一通り内科をローテートし,その中でも特に肺がんに興味を持つようになりました。肺がん診療では,内科医が集学的治療における重要な役割を担っており,また個別化治療が発展している点に魅力を感じました。加えて指導医から臨床試験や治験に関する話を聞くことで治療開発にも興味を抱き,肺がん診療に数多く取り組む同院の呼吸器内科で後期研修を行うことに決めました。

b.現在の研修生活は?:肺がんはがん領域の中でも特に治療開発が進歩している分野であり,薬物療法では従来の細胞傷害性抗がん薬に加えて,分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬など,種々の薬剤が使用されています。さらに近年は,がんの遺伝子変異に基づいた個別化治療を行うことで,治療成績が大きく向上しています。

 ただし,治療成績が向上したとはいえ,呼吸器内科で実際に診療する患者は進行期の方がほとんどであり,根治ではなく,がんの進行を少しでも遅らせ,うまく付き合っていくことを目標に治療を行います。薬物療法に加えて早期から緩和ケア治療を行いますが,大半の患者はいずれ積極的治療が困難となるタイミングを迎えます。「いつまで積極的治療を行うか」「残された時間をどのように過ごすのか」といった終末期患者の意思決定支援も重要であり,実臨床ではそのような面での難しさも実感しました。積極的治療の選択肢に加えて,少しでも長く今まで通りの生活ができるように,そして最期まで自分らしく過ごせるように,患者にとって最良と考えられる治療の選択を手助けすることにもとてもやりがいを感じています。がん全般を診療するオンコロジストをめざしたい,また,さまざまなエビデンスが作られる現場で経験を積みたいと考え,今年度からは国立がん研究センター中央病院で診療に携わっています。

④同じ道を志す後輩への“アドバイス”:腫瘍内科は薬物療法のスペシャリストであると同時に,治療による副作用や合併症などの管理も求められるため,一般内科の知識も必要です。初期研修ではさまざまな科をローテートしていると思いますが,それらの知識は腫瘍の診療を行う上で重要となってきます。薬物療法の進歩により腫瘍内科の需要が高まる一方,担い手が比較的少ない分野でもあるので,ぜひ一緒にがん診療を盛り上げていきましょう。

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九州大学大学院 病態機能内科学研究室

映える写真を撮る楽しさ

①経歴:2016年九大卒。製鉄記念八幡病院で初期研修を修了後,九大第二内科消化管研究室へ入局し,製鉄記念八幡病院消化器内科,九大病棟医員,山口赤十字病院消化器内科での勤務を経て22年より現職。

②診療科の紹介:主に内視鏡を駆使して消化管を評価し,悪性腫瘍の発見や潰瘍性大腸炎などの炎症性腸疾患の診断および治療を行います。内視鏡検査の際に悪性腫瘍が疑われた場合は内視鏡所見から腫瘍の深達度を診断し,早期であれば内視鏡的切除,進行していれば外科への相談を見据えて精査を行います。炎症性腸疾患が疑われる場合は精査の後に5-ASA製剤などの内服治療をはじめとした適切な治療を開始します。

a.この領域をめざした理由:初期研修1年目では,漠然と内科系に進みたいと考えてはいたものの,正直に言って...

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