医学界新聞

寄稿 三浦 由佳,他

2022.04.25 週刊医学界新聞(看護号):第3467号より

 近年,超音波画像診断装置(以下,エコー)は技術の発展により,ポケットサイズでも高画質でクリアに観察できる機器が増えている。エコーは,非侵襲かつリアルタイムに体内を可視化できる点にメリットがある。そのため,看護師が通常行う問診,視診,触診,打診,聴診に加え,第6のフィジカルアセスメント「可視化」のためのツールとして,幅広い場面で活用されつつある。

 これまで看護師はベッドサイドで,食事中あるいは食後のむせの観察や水飲みテスト,フードテスト,頸部聴診法などを用いて嚥下機能を評価してきた。特に,誤嚥や咽頭残留は誤嚥性肺炎の高リスク因子となるため重要な評価ポイントである。上記の嚥下機能評価法に加え,エコーを用いて非侵襲的にかつ普段の食事場面で誤嚥・咽頭残留を可視化できれば,食形態や姿勢の調整,咽頭内の吸引など,誤嚥や残留を減らし誤嚥性肺炎を予防するためのケアを,施設や在宅においても提供可能となる。本稿では,エコーを用いた誤嚥・咽頭残留のアセスメントの有用性とその方法を紹介する。

 まずエコーを用いた誤嚥・咽頭残留の評価に基づくケアが,誤嚥性肺炎の予防に効果がある可能性を示したランダム化比較試験を紹介する1)。対象は特別養護老人ホームに入居中の65歳以上の高齢者である。筆者らは,対象者を介入群23人,対照群23人に分け,8週にわたる観察期間を設けた。介入群はエコーを用いた誤嚥と咽頭残留の評価を2週に1回行い,結果に基づいて食形態の変更や交互嚥下を勧めた。対照群ではエコーを用いず,従来通りの食事場面の観察,水飲みテストなどのスクリーニングテスト,そして誤嚥を強く疑う対象にのみ嚥下内視鏡検査を実施し,結果に基づいて誤嚥や咽頭残留の低減を試みた。

 介入群では初回の観察時3人に誤嚥がみられ,8週後にはエコーで評価した合計嚥下回数に占める誤嚥の割合が中央値で31%減少していた。一方,対照群では初回観察時に3人に誤嚥がみられ,誤嚥の割合の減少は中央値で11%であった。観察期間内での誤嚥性肺炎の発症は介入群が2人,対照群が1人であり有意差はみられなかったものの,食事場面の観察やスクリーニングテスト,嚥下内視鏡に加え,エコーで評価した誤嚥や咽頭残留の結果に基づく介入が肺炎予防に効果的である可能性を示した。

 エコーを用いて嚥下機能を評価する際,機器の選択が重要なポイントの一つとなる。気管内の誤嚥物や咽頭内の残留物のアセスメントでは,体表に近い浅い部位の観察に適したリニアプローブが接続可能で,画像の中で目印(ランドマーク)となる甲状軟骨や喉頭蓋,総頸動脈の輪郭を描出可能な程度の解像度を有する,周波数5~15MHzの帯域幅の機器の使用を推奨する。

 同時に,評価のタイミングやプローブの当て方について,患者の安楽を考慮することも重要である。普段の食事時に観察を行うエコーでは,食事を妨げないようにプローブを頸部に押し当てる強さに注意する。まずは自分の喉元にプローブを当ててみて,どの程度の接触圧であれば嚥下運動を妨げず,かつ明瞭な画像を観察できるか練習すると良いだろう。皮膚とプローブの間の密着性が低い場合は,接触圧を強めるのではなくエコーゼリーを追加して塗布することで密着性を高めると良い。

 以下,エコーを用いた誤嚥物と咽頭残留物の具体的な評価方法を説明する。誤嚥物の評価では,甲状軟骨に対してプローブを縦断方向に当てる。画像上では,甲状軟骨と気管の前壁がランドマークとなり,甲状軟骨は黒い低エコー域として,気管の前壁は白い高エコー域として観察できる(図a)。誤嚥が生じていない正常の状態であれば,気管内は低エコー域として観察されるが,誤嚥物が流入した場合は気管壁に沿って流れる線上の高エコー域が観察できる2)

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プローブ走査の方法と画像の見方〔『嚥下ケアコース技術講習会配布資料』(次世代看護教育研究所)より筆者作成〕

 咽頭残留は喉頭蓋谷と梨状窩で特に生じやすい。喉頭蓋谷の咽頭残留物を評価する場合,プローブは舌骨の真上から横断方向に当てる。舌根と喉頭蓋がランドマークとなり,舌根は白い高エコー域として,喉頭蓋谷は白い線状および点線状の高エコー域として観察できる(図b)。喉頭蓋谷は舌根と喉頭蓋の間に位置し,残留物が存在する場合は高エコー域として観察できる3)

 梨状窩の咽頭残留物を評価する場合,右の梨状窩を観察する際は喉頭隆起の右側から,左の梨状窩を観察する際は喉頭隆起の左側から横断方向にプローブを当てる。この走査により,喉頭隆起がプローブと皮膚との密着性を低下させ,エコー画像が部分的に不明瞭となることを防ぐ。総頸動脈と甲状軟骨がランドマークとなり,甲状軟骨は高エコーの輪郭に囲まれた低エコー域として,総頸動脈は円形の低エコー域として観察される(図c)。梨状窩に残留物が存在する場合は,高エコー域として観察できる3)

 エコーを用いた誤嚥物と残留物の評価は患者に負担が少ない上,機器さえあればすぐに実施できる方法である。しかし,初めて取り組む場合はプローブの走査や画像の評価に自信を持てないかもしれない。そこで近年は,看護師向けの教育プログラムが多く展開されている。例えば,次世代看護教育研究所が提供する嚥下ケアコースでは,エコーに初めて触れる看護師であっても,摂食嚥下リハビリテーションの基礎知識やエコーの基礎知識,エコーでの嚥下の観察方法をEラーニングと技術講習会を通して体系的に学び,最終的には現場での実践につなげられる。

 また初学者は,技術講習会だけではエコー画像の読影に自信が持てないこともあるだろう。そこで今後は,エコー画像内の誤嚥物や咽頭残留物をAIによる画像処理を行い赤く表示させるなど,看護師の読影を支援する機能の導入が期待される。研究では,AIによる画像処理を導入すると,画像処理を用いない場合よりもエコーによる誤嚥物の評価の感度・特異度が共に向上することが既に明らかとなっている4)。本機能が実用化されれば,より正確な嚥下機能の評価につながるはずだ。

 将来,多くの看護師が上記の教育プログラムやAI機能搭載のエコーを利用することで,確信を持って誤嚥・咽頭残留を評価できるようになるだろう。病院や施設,在宅などの場所を問わず,摂食嚥下障害を抱える療養者が誤嚥性肺炎を起こすことなく,安全に口から食べることを楽しめる社会が実現することを期待したい。


1)Healthcare (Basel). 2018[PMID:29439537]
2)Radiol Phys Technol. 2014[PMID:24718690]
3)Respir Care. 2020[PMID:31662446]
4)三浦由佳,他.画像処理を利用したBモード超音波検査法による誤嚥の検出方法の開発.看護理工学会誌.2014;1(1):12-20.

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藤田医科大学研究推進本部 社会実装看護創成研究センター

2009年東大医学部健康科学・看護学科卒業後,同大病院にて勤務。16年同大大学院医学系研究科健康科学・看護学専攻博士課程修了。博士(保健学)。16年金沢大新学術創成研究機構特別研究員,19年東大大学院医学系研究科社会連携講座イメージング看護学特任助教を経て,22年4月より現職。

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