医学界新聞

書評

2022.03.21 週刊医学界新聞(通常号):第3462号より

《評者》 飯塚病院連携医療・緩和ケア科

 本のタイトルを見て「あれ」と思った。ACP(Advance Care Planning)は緊急で行うものなのか?

 もちろん,理想的には前もってACPが行われており,それに合わせて治療方針を決めることができるに越したことはない。しかし,ACPは広がっていない。

 縁起でもないと遠ざけられ,「治療をするか? しないか?」無理やり選択を迫るものをACPと誤解している医療者も多く,ACPの普及にはまだまだ時間がかかるだろう。

 そして,ACPがたとえ完璧に行われていたとしても,最前線の医療者が理解せず,うまくコミュニケーションができなければ適切な治療方針につながらず,「こんなはずじゃなかった」という意思決定になってしまう。そこで本書の“緊急ACP”である。

 本書では,主に3つのスキルを解説している。

 悪い知らせを話す際のロードマップ(SPIKES)・感情に対応するスキル(NURSE)・治療のゴールを決めるためのロードマップ(REMAP)である。この3つのスキルを救急外来・急性期病棟・集中治療室の場面でどう使うか? 具体例が会話形式で解説されている。

 残された時間の話し方や治療の中止についての話し方など難しい場面の話し方も網羅されている。160ページと短く数時間で読むことが可能な点も,常に時間に追われる医療者にはありがたい。

 私自身は救急医として5年の経験を積んだ。今振り返ると,治療方針は患者や家族に一方的に話をし,時には治療をしない方向に“持っていく”雰囲気があった。DNARを確認しにいくことは日常茶飯事であり,誰からも批判を受けることもないため,何となく自分はできると思い込んでいた。しかし,あの話し方でよかったのか? 救命をしたが本当は寿命だったのではないか? と思うことがあった。これからの時代の高齢者救急では,救急のスキルだけでなく緩和ケアの知識も必要と感じるようになり,緩和ケア医になった。そのキャリアチェンジの中で痛感したのは,コミュニケーションスキルの重要性である。

 そのスキルを学ぶための,現場で使える教科書が登場したと言っていい。まずは本書のキーフレーズにある言葉を実際にメモして使ってみる。本書のように話す練習をするだけでも劇的に変化があるだろう。

 コミュニケーションはセンスではなくスキルである。中心静脈穿刺と同様に,準備が8割,練習して振り返りをすれば上達する。先輩の話し方を見ながらセンスで話していることが多いかもしれないが,それだけで上達するのは難しい。

 本書を読むことで,「治療をしますか? しませんか?」「ご家族で決めてください」などという間違った話し方から脱却することができる。救急の現場でまずバイタルサインを大切にするように,患者家族と話すときには本書の“バイタルトーク”を活用してみてほしい。ACPの普及のスピードはコントロールできないが,コミュニケーションスキルの習得は自分でコントロールできる。

 どの医療現場にいたとしても,このスキルは必ず生きる。「この話し方で本当に良かったのだろうか?」と思ったことがあれば,ぜひ読んでほしい。この本が全ての医療者の教科書になることを願っている。

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