緊急ACP
VitalTalkに学ぶ悪い知らせの伝え方,大切なことの決め方

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「あらかじめ」ではなく、救急外来や集中治療室などの「いざという場面で」行うAdvance Care Planning = 緊急ACP。説明したはずなのに同じ質問が繰り返される、感情があふれて話が進まない……。患者も家族も混乱する中で、いかに患者の価値観に沿った治療のゴールを見出すか。コミュニケーションスキルトレーニング“VitalTalk”から、緊急ACPの進め方を考えます。

編集 バイタルトーク日本版
発行 2022年02月判型:A5頁:160
ISBN 978-4-260-04860-6
定価 2,530円 (本体2,300円+税)
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はじめに

 ACP(Advance Care Planning)とは,一般的には「今後の治療・療養について患者・家族と医療従事者が“あらかじめ”話し合う自発的なプロセス」とされています。本書のタイトル「緊急ACP」は,「あらかじめではなく,まさにいざという場面で」行われるものであり ,従来のACPのイメージと少し違うかもしれません。しかしながら,米国の複数の専門家によるACPの定義に関する議論の中では,将来のことを見据えて治療のゴールの話し合いをする時,最終的には,「まさに今起きていること」へ収束することが多いため,病気になった,まさにその時に行う会話も,広義のACPであると結論づけられています1)
 日本ではACPはまだ広くは普及しておらず,もともと人生の最終段階にあるような患者さんであったとしても,重症疾患で救急外来に搬送された時に,最期をどう迎えたいかという明確な意思表示をしていないことがほとんどです。だからといって,患者さんの価値観を確かめもずに治療のゴール設定をすることは,患者中心の医療とはいえないでしょう。救急外来や急性期病棟,集中治療室という患者さんが生命の危険と隣り合わせになるような場面であっても,緊急でACPを試み,できるだけ患者さんの価値観を踏まえたゴール設定をする必要があります。
 この「緊急ACP」を進めるためのコミュニケーションスキルトレーニングとして,本書ではVitalTalkを紹介します。

 私がVitalTalkのトレーニング・プログラムを受講したのは,米国で外科集中治療フェローシップを開始する直前のオリエンテーション期間中のことでした。その病院では,新任の集中治療フェロー全員に受講が義務づけられており,集中治療室で生命の危機が迫る患者さんや家族とのgoals-of-care discussionの手法を模擬患者とのロールプレイを通じて学びました。
 当時は,これから最重症患者の命を助けるためのフェローシップを始めるというのに,なぜ患者さんが死に瀕した時の会話を勉強させるのだろう,と疑問に思っていました。しかしながら,フェローシップ開始後,集中治療室では,ありとあらゆる生命維持装置の使用が可能であるがゆえに,一歩間違うと,誰も望まない機能予後を度外視した無益な延命治療につながってしまう危険があるため,担当する医療従事者には,患者さんの価値観を引き出して,それに見合った治療方針を提案していく能力が必要不可欠であることに気づかされました。
 私は,VitalTalkのトレーニング・プログラムを受講するまでは,goalsof-care discussionがとても苦手で,強い抵抗を感じていました。しかし,プログラムを受講し,「悪い知らせ」を伝えなくてはいけない医療者側のストレス,聞かされる患者さん側の悲嘆や怒りといった感情,それらはgoalsof-care discussionでは予想された流れであり,それに対応するためのスキルは,手術の手技などと同様にトレーニングによって身につけられることを知り,それからは,真正面から患者さんと向き合えるようになりました。
 日本に帰国後,救命センターに配属され,重症疾患急性期で終末期となる患者を多く診療するようになり,日本の救急・集中治療の現場でもVitalTalkの手法が役に立つと確信し,仲間たちと共に「バイタルトーク日本版」の活動を始めました。

 本書は,新型コロナウイルス感染症パンデミックの最中に執筆されました。未曽有の医療危機の中,患者さんの価値観を尊重した意思決定の重要性が平時以上に際立っていると感じます。本書を手にする方に,患者さんの価値観を引き出し,患者さんにとって最良のゴール設定ができるような会話のスキルと,そのトレーニング方法を伝えることができたらと願っています。

 2021年9月末日
 伊藤 香

文献
1) Sudore RL, Lum HD, You JJ et al.: Defining Advance Care Planning for Adults:A Consensus Definition From a Multidisciplinary Delphi Panel. J Pain Symptom Manage, 53(5): 821-32, 2017.

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はじめに
Prologue

Part 1 基本的スキルを“よくある場面”で使ってみる
 1 SPIKES 悪い知らせを話す際のロードマップ
  SPIKESとは?
  症例
   よくある対応 こんな場面,ありませんか?
   よくある対応 なぜ難しいのでしょう?
   よくある対応 なぜこうなってしまうのでしょう?
   よくある対応 VitalTalkの視点から見てみましょう
   よくある対応 問題点を整理してみましょう
   SPIKESを使った対応 スキルの使い方を見ていきましょう
   SPIKESを使った対応 ポイントを押さえておきましょう
 2 NURSE 感情に対応するスキル
  NURSEとは?
  症例
   よくある対応 こんな場面,ありませんか?
   よくある対応 なぜ難しいのでしょう?
   よくある対応 なぜこうなってしまうのでしょう?
   よくある対応 VitalTalkの視点から見てみましょう
   よくある対応 問題点を整理してみましょう
   NURSEを使った対応 スキルの使い方を見ていきましょう
   NURSEを使った対応 ポイントを押さえておきましょう
 3 REMAP 治療のゴールを決めるためのロードマップ
  REMAPとは?
  症例
   よくある対応 こんな場面,ありませんか?
   よくある対応 なぜ難しいのでしょう?
   よくある対応 なぜこうなってしまうのでしょう?
   よくある対応 VitalTalkの視点から見てみましょう
   よくある対応 問題点を整理してみましょう
   REMAPを使った対応 スキルの使い方を見ていきましょう
   REMAPを使った対応 ポイントを押さえておきましょう

Part 2 限定された時間の中で,スキルを組み合わせて使う
 治療の方向性を話し合う――どこまで治療を望みますか?
 1 救急外来 治療の差し控えを含め,今後の方針について話し合う
  症例
   VitalTalkを使った対応 スキルの使い方を見ていきましょう
   VitalTalkを使った対応 ポイントを押さえておきましょう
   多職種で進めるVitalTalk
 2 急性期病棟 重篤な状況を伝え,残された時間の過ごし方を話し合う
  症例
   VitalTalkを使った対応 スキルの使い方を見ていきましょう
   VitalTalkを使った対応 ポイントを押さえておきましょう
   多職種で進めるVitalTalk
 3 集中治療室 治療の差し控え・中止について話し合う
  症例
   VitalTalkを使った対応 スキルの使い方を見ていきましょう
   VitalTalkを使った対応 ポイントを押さえておきましょう
   多職種で進めるVitalTalk

VitalTalkを深めるためのColumn
 1 患者の意思を推定し,共に「最善」を考える――代理意思決定
 2 患者・家族との対立にどのように対応するか
 3 「できることはすべてしてください」にどう対応するか
 4 「挿管しない」という重大な決断を救急医だけで行う必要はない
 5 「救急外来に来る患者には,意思決定能力がある」前提で対応する
 6 悩ましい質問「余命はあとどれくらいですか?」にどう応えるか
 7 なぜアドバンス・ケア・プランニング(ACP)は普及しないのか?
 8 治療の差し控えと中止――日本法の下では

Tips!
 沈黙し,話を聴く
 面談は多職種で
 コミュニケーションは手技の1つ
 質問にシンプルに答える
 相手の名前を呼びかける

おわりに
索引

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コミュニケーションスキルの習得こそACP普及の鍵
書評者:石上 雄一郎(飯塚病院連携医療・緩和ケア科)

 本のタイトルを見て「あれ」と思った。ACP(Advance Care Planning)は緊急で行うものなのか?

 もちろん,理想的には前もってACPが行われており,それに合わせて治療方針を決めることができるに越したことはない。しかし,ACPは広がっていない。

 縁起でもないと遠ざけられ,治療をするか? しないか? 無理やり選択を迫るものをACPと誤解している医療者も多く,ACPの普及にはまだまだ時間がかかるだろう。

 そして,ACPがたとえ完璧に行われていたとしても,最前線の医療者が理解せず,うまくコミュニケーションができなければ適切な治療方針につながらず,「こんなはずじゃなかった」という意思決定になってしまう。そこで本書の“緊急ACP”である。

 本書では,主に3つのスキルを解説している。

 悪い知らせを話す際のロードマップ(SPIKES)・感情に対応するスキル(NURSE)・治療のゴールを決めるためのロードマップ(REMAP)である。この3つのスキルを救急外来・急性期病棟・集中治療室の場面でどう使うか? 具体例が会話形式で解説されている。

 残された時間の話し方や治療の中止についての話し方など難しい場面の話し方も網羅されている。160ページと短く数時間で読むことが可能な点も常に時間に追われる医療者にはありがたい。

 私自身は救急医として5年の経験を積んだ。今振り返ると,治療方針は患者や家族に一方的に話をし,時には治療をしない方向に“持っていく”雰囲気があった。DNARを確認しにいくことは日常茶飯事であり,誰からも批判を受けることもないため,何となく自分はできると思い込んでいた。しかし,あの話し方でよかったのか? 救命をしたが本当は寿命だったのではないか? と思うことがあった。これからの時代の高齢者救急では,救急のスキルだけでなく緩和ケアの知識も必要と感じるようになり緩和ケア医になった。そのキャリアチェンジの中で痛感したのは,コミュニケーションスキルの重要性である。

 そのスキルを学ぶための現場で使える教科書が登場したと言っていい。まずは本書のキーフレーズにある言葉を実際にメモして使ってみる。本書のように話す練習をするだけでも劇的に変化があるだろう。

 コミュニケーションはセンスではなくスキルである。中心静脈穿刺と同様に,準備が8割,練習して振り返りをすれば上達する。先輩の話し方を見ながらセンスで話していることが多いかもしれないが,それだけで上達するのは難しい。

 本書を読むことで,「治療をしますか? しませんか?」「ご家族で決めてください」などという間違った話し方から脱却することができる。救急の現場でまずバイタルサインを大切にするように,患者家族と話すときには本書の“バイタルトーク”を活用してみてほしい。ACPの普及のスピードはコントロールできないが,コミュニケーションスキルの習得は自分でコントロールできる。

 どの医療現場にいたとしても,このスキルは必ず生きる。「この話し方で本当に良かったのだろうか?」と思ったことがあれば,ぜひ読んでほしい。この本が全ての医療者の教科書になることを願っている。

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