FAQ
新看護学生を受け入れる準備を整えよう!
患者や医療者のFAQ(Frequently Asked Questions;頻繁に尋ねられる質問)に,その領域のエキスパートが答えます。
寄稿 藤井 徹也
2022.02.28 週刊医学界新聞(看護号):第3459号より
もうすぐ春,入学の季節が訪れます。新入生の迎え入れ準備を進めている学校も多いのではないでしょうか。文科省によると,新入生を対象に行われる「初年次教育」は,「高等学校や他大学からの円滑な移行を図り,学習及び人格的な成長に向け,大学での学問的・社会的な諸経験を成功させるべく,主に新入生を対象に総合的につくられた教育プログラム」あるいは「初年次学生が大学生になることを支援するプログラム」と定義されています1)。
わが国の初年次教育では,「レポート・論文などの文章技法」「プレゼンテーションやディスカッションなどの口頭発表の技法」「学問や大学教育全般に対する動機付け」「図書館の利用・文献検索の方法」などが重視されています1)。看護系大学も例に漏れず,初年次教育で取り組まれている内容として「図書館の使い方」(80.2%)や「アカデミックスキルとしてのレポートの書き方」(77.8%)などが多いようです2)。
少子化や大学数の増加に伴い「大学全入時代」と言われる近年,入学生の学力低下や目的意識の低下などに鑑みて,初年次教育が一層注目されています。この傾向は大学のみならず看護基礎教育課程全体に言えると筆者は考えています。そこで今回は,看護基礎教育課程における初年次教育について,①受け入れる側の教員の準備,②学生からよくある質問,③継続的な教育が必要である可能性について私見も踏まえて述べます。なお本稿では,高等学校までに習得しておくべき基礎学力の補完を目的とするリメディアル教育は「初年次教育」に含まず,前述の「初年次学生が大学生になることを支援するプログラム」としてお伝えします。
FAQ 1
初年次教育を行うに当たって,気を付けたいポイントを教えてください。
各看護系専修学校・大学等はアドミッションポリシーを掲げ,多様な入試方法で学生を募っています。入試方法別の定員数の比率も学校によって異なります。つまり,入学する学生の特徴は学校ごとに差があるのです。そのため新入生を受け入れる教員は,所属する学校の学生の特徴を把握した上で,その特徴に合った初年次教育のプログラムを準備しましょう。自主的に学修する習慣が身についた新入生が多い学校であれば,クリティカルシンキングや文献検索,プレゼンテーションなどの大学生に必要なスタディスキルを重点的に学べるプログラムがよいと考えます。一方で,受動的に学ぶ“生徒”から能動的に学ぶ“学生”への移行に手助けが必要な新入生が多い場合,まずは主体的な学修方法を教授し,その後に演習等も通じてスタディスキルを修得できるプログラムを設計するのがよいでしょう。
さらに初年次教育のプログラムを構築する際には,その効果を測定する方法についても検討する必要があります。これは,初年次教育をどのようなプログラムとして位置付けるかによって変わります。例えば,リベラルアーツの科目を初年次教育として位置付けるなら,対象科目の成績を基に算出したfGPA(functional Grade Point Average)の値から学生の修得状況を把握します。あるいは,初年次教育そのものを1つの科目としてカリキュラムに組み込む場合は,学生個々の対象科目の成績と中央値,該当学期の他の科目のfGPAの値との比較で修得状況を評価します。
ただし,初年次教育を「初年次学生が大学生になることを支援するプログラム」であるととらえるならば,当該科目とは別に,他科目の成績や普段の学修行動,主体的姿勢の変化等を評価する方法も併せて検討することをお勧めします。進級等の基準に含めなくとも,評価が著しく低下した学生の中には精神的・身体的なトラブルを抱えているケースがあるかもしれません。そうした学生を見落とさずにケアできるきっかけともなるからです。この場合,ポートフォリオやルーブリック評価等の活用が有用です。
看護学生の多くは「看護職になる!」と意欲を持って入学してきますが,入学後の学修内容の難しさによって意欲が低下するケースも珍しくありません。適切な初年次教育は,学修へのモチベーションの維持にも役立ちます。テキスト等も適宜活用しつつ,効果的な初年次教育のプログラムを準備するとよいでしょう。
Answer
所属する学校のアドミッションポリシーや入試方法などから想定される学生の特徴に沿って,効果的なプログラム作りと評価方法の検討を行いましょう。
FAQ 2
ノート作りに苦戦する学生が多いようです。どのような指導が効果的でしょうか?
看護教員の中には,新入生から「学修の仕方がわからない」と言われた経験がある方も多いのではないでしょうか。学修を進める上で学生が特に苦手とする作業として,ノート作りが挙げられます。大学や専門学校では,板書内容をそのまま書き写すのではなく,講義中のキーワードを抜き出して記録する「聞き取り書き」を行う必要があるからです。そのため初年次教育では,具体例を示しつつノートの作り方を指導するとよいでしょう(図)。
まずはシラバスや初回講義で配布された授業計画から次回の講義内容を確認し,予習してから受講すること。予習時は教科書の関連ページに目を通し,必要に応じてその内容をイラストなどで描いておきます。そのノートを講義中に活用すれば理解度が上がり,事後学修もしやすくなります。定期試験や国家試験対策にも役立つはずです。このように,重要なポイントとその意義に触れつつ学修方法を伝えると効果的です。
Answer
事前学修から事後学修までのフローを伝えつつ,実例を見せて適切なノート作りのノウハウを伝授しましょう。
FAQ 3
初年次教育を行ったにもかかわらず,2年生になってもレポートやメール文の作成を苦手とする学生がいます。どうすればよいでしょう?
初年次教育を取り入れている看護系専修学校・大学では,前述したように「図書館の使い方」「レポートの書き方」など看護学生に欠かせないスタディスキルを入学直後に指導していることでしょう。しかし,これらのスキルを学生がきちんと身につけていくためには,継続的に繰り返し指導を行うことが大切です。可能であれば,2年次にも“初年次教育2”の位置付けとなる科目を組み込むとことをお勧めします。
とはいえ科目の新設が難しいケースもあるはずです。その場合は,テキストやプリントを活用して,短い時間でも学生が反復しながら修得できる工夫を施します。メールの書き方であれば,次のように要素を簡潔にまとめた資料を進級時に配布するのも一案です。
教員からのメールを確認する/メールを送るときの注意事項
●ファイルが添付されている場合があるので,必ず確認する。
●件名,宛名,差出人(学籍番号・氏名)は必ず記載する。
●内容は簡潔に,適切な表現で書く。
●面談の予約の場合,自己都合による日時指定は適さない。オフィスアワーや教員が調整可能な時間を確認する。
●メール本文の後に,署名(差出人の氏名と所属,連絡先などをまとめたもの)を記載する。
●期日までに必ず返信する。
Answer
講義,テキスト,プリント等を適宜活用しながら2年次以降も継続してスタディスキルを指導しましょう。そのためには,初年次教育の科目を担当しない教員もその教育内容を理解し,自分の担当科目で学生に実践させることが重要です。
もう一言
学生の間に学ぶスキルの数々は,今後看護職として活躍する上で欠かせない社会人の基礎です。一朝一夕で身につくものではないため,3~4年間じっくり時間をかけて指導するとよいでしょう。
私が初めて初年次教育を担当することになった時は,適切なテキストがなく,履修案内や講義・演習に必要な資料をその時々に作成し,指導していました。このような経験から看護学生用の初年次教育用テキストが必要と考え,執筆したのが『看護学生スタートブック』(医学書院)です。受講時の姿勢やノートの取り方,上級生でも活用できるような文献の示し方や上記のメールの送り方等も掲載していますので,ぜひご活用ください。
参考文献・URL
1)文科省.学士課程教育の構築に向けて(審議のまとめ).2008.
2)富樫千秋,他.全国看護系大学を対象とした初年次教育の実態.千葉科学大学紀要.2019;12:223-30.
藤井 徹也(ふじい・てつや)氏 豊橋創造大学保健医療学部 教授
1994年藤田保衛大(現・藤田医大)大学院修了,博士(医学)。愛知県立看護大(現・愛知県立大看護学部)講師,名大准教授,聖隷クリストファー大教授などを経て,2017年より現職。専門は基礎看護学。著書に『看護学生スタートブック(第2版)』(医学書院)。
いま話題の記事
-
寄稿 2016.03.07
-
連載 2016.07.04
-
人工呼吸器の使いかた(2) 初期設定と人工呼吸器モード(大野博司)
連載 2010.11.08
-
連載 2010.09.06
-
医学界新聞プラス
[第2回]アセトアミノフェン経口製剤(カロナールⓇ)は 空腹時に服薬することが可能か?
『医薬品情報のひきだし』より連載 2022.08.05
最新の記事
-
新人看護師育成を社会化から考える
看護の仕事のコアを体得し,楽しく働ける看護師になってもらうために対談・座談会 2024.03.25
-
寄稿 2024.03.25
-
取材記事 2024.03.25
-
排便トラブルの“なぜ!?”がわかる
[第10回] がん薬物療法中・緩和療法中の排便トラブル対応連載 2024.03.25
-
めざせ「ソーシャルナース」!社会的入院を看護する
[第11回] 意見の対立をどう乗り越えるか?③がん未告知を家族が希望した場合連載 2024.03.25
開く
医学書院IDの登録設定により、
更新通知をメールで受け取れます。