FAQ
非専門医が知っておきたい片頭痛診療の最前線
患者や医療者のFAQ(Frequently Asked Questions;頻繁に尋ねられる質問)に,その領域のエキスパートが答えます。
寄稿 柴田護
2022.01.31 週刊医学界新聞(通常号):第3455号より
CGRP関連抗体薬の発売と改訂された『頭痛の診療ガイドライン2021』(医学書院)発行によって,2021年はわが国の片頭痛診療にとって記念すべき年となった。しかし,これらの進歩を実臨床で十分生かすには,受診率向上や非専門医―専門医間での連携が鍵となる。本稿では,専門を横断して医療者が連携するために知っておくべき,片頭痛の診断法とCGRP関連抗体薬を活用した治療法について解説する。
FAQ 1
非専門医が片頭痛診療に取り組むことで,どのような貢献が期待されますか?
片頭痛は日常生活に支障を来すレベルの頭痛発作を繰り返す慢性神経疾患である。わが国の一般人口における有病率は8.4%とされるが1),若年層に好発することから,一般企業の社員2458人を対象にした調査では13%と非常に高い有病率の報告がある2)。片頭痛が原因で生じる欠勤や労働遂行能力低下によって,わが国だけで年間数千億円~数兆円規模の経済的損失が起きている2, 3)。
片頭痛患者の約70%は受診せず,未治療であったり市販の鎮痛薬で対処したりしている2)。一方で,片頭痛や片頭痛が生み出す苦悩への世間の理解度は低く,多くの患者がスティグマを感じ,活躍の機会が阻まれている現状がある。加えて女性の有病率が男性の約3倍であることから,片頭痛は女性の社会進出の阻害因子にもなっている。
少子高齢化が進み労働人口の減少が予想されるわが国では,片頭痛診療の推進による生産性の向上が望まれる。
Answer
少子高齢化が急速に進み社会全体の生産性向上が喫緊の課題となるわが国では,非専門医を含む医療者が連携して片頭痛治療を行い社会全体の生産性を改善することが期待されます。
FAQ 2
片頭痛はどのような基準に基づいて診断するのが望ましいでしょうか。
片頭痛の診断は,国際頭痛分類第3版(ICHD-3)4)の診断基準に基づいて行う。片頭痛症例の4分の1~3分の1では頭痛発作に先行,あるいは随伴する一過性(通常は5~60分間)の神経症候が認められ,前兆と呼ばれる。前兆としては閃輝暗点が最も多いが,半身のしびれや失語を呈することもある。頭痛は,前兆開始から60分以内で生じる。
片頭痛症例の大部分を占める,前兆のない片頭痛の診断基準を表1に示す。診断には5回以上の発作の確認が必要である(A項目)。頭痛発作の持続時間は,未治療の場合4~72時間と比較的長い(B項目,小児期や思春期の患者ではこれより短いことがある)。C項目は頭痛の性状を問うものであるが,中等度以上(ベッドでの安静を望む程度)で体動によって頭痛が増悪すれば2項目を満たすので,拍動性や片側性がなくてもよい。片頭痛中は体を動かさないようにしている患者も多いので,発作時に体動を避けていないか確認することも重要である。D項目では悪心が高頻度に認められ,光過敏と音過敏が両方そろわないと②は満たされない。
そのほか,片頭痛症状は年齢や慢性化(頭痛頻度の上昇)に影響を受ける点に注意する必要がある。例えば,若い頃に強かった悪心や光過敏が,経年的に減弱することがよく観察される。また,前医で予防薬投与を受けている場合も症状が修飾される。片頭痛を診断する際には,表2に挙げたような疾患の鑑別が重要である。
ICHD-3の診断基準には含まれていないが,一部の患者では頭痛発作に先行して予兆を認める。予兆として疲労感や肩こり,食欲変化などが知られている。また,片頭痛では月経,天候変化(低気圧や温度変化),睡眠不足・過多などが誘因となることも多く,問診で確認すると診断に役立つ。片頭痛の診断はしばしば困難であるため,片頭痛を疑ったら頭痛専門医へ紹介することが勧められる。
Answer
片頭痛の診断はICHD-3の診断基準に基づいて行います。診断に迷う症例では積極的に専門医に紹介すると良いでしょう。
FAQ 3
片頭痛の予防診療はどのように行えば良いですか。
本項では『頭痛の診療ガイドライン2021』5)に準拠して解説する。患者のQOL改善を目的に行われる発作予防治療は,片頭痛発作が月に2回以上,あるいは生活に支障を来す頭痛が月に3日以上ある患者で検討する。また,①急性期治療のみで片頭痛発作による日常生活の支障がある場合,②急性期治療薬が使用できない場合,③永続的な神経障害を来す恐れのある特殊な片頭痛には予防療法の実施が勧められる。
具体的には,ロメリジン,プロプラノロール,バルプロ酸などの薬物療法が中心である。また片頭痛の病態生理にはいまだ不明点が多いが,近年カルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)が重要な役割を果たすことが明らかにされ,抗CGRP抗体であるガルカネズマブにフレマネズマブ,抗CGRP受容体抗体エレヌマブなどのCGRP関連抗体薬が保険適用となっている。またアミトリプチリンとベラパミルに適応外使用が認められている(表3)。なお,バルプロ酸は妊娠可能年齢の患者には原則的に使用しない。
予防薬使用に当たっては,CGRP関連抗体薬以外の薬剤を低用量から使用し,十分な臨床効果が得られるまで増量し,2~3か月程度の期間をかけて効果を判定する。同時に睡眠不足や空腹など,発作の誘因回避のための生活指導も行う。それでも頭痛発作のコントロールが不良で生活支障度が高い場合,他の薬剤へ変更するか併用を行う。
特に,直近3か月の片頭痛日数が1か月に平均4日以上であればCGRP関連抗体薬の使用を考慮してもよい。CGRPは三叉神経終末や三叉神経節で放出され,三叉神経系の感作を誘導することによって片頭痛を引き起こすと考えられている。CGRP関連抗体薬は片頭痛の病態生理の理解に基づいて開発された画期的な予防療法である。抗体薬は半減期が長く,CGRPの作用を安定して阻害する点でも優れている。さらに原則的に中枢神経系内に移行しないので,従来の片頭痛予防薬に認められたような眠気やめまいなどの副作用は極めてまれである。CGRP関連抗体薬は,従来ドラッグリポジショニングによって支えられていた片頭痛の予防薬治療に大きなパラダイムシフトをもたらしたと言える。ただし現状では処方が専門医に限られる。従来薬で対応困難な患者に対しては,専門医に紹介しCGRP関連抗体薬の処方を検討する。また効果発現が速く安全性が高い一方,他剤に比較して高価である。
なお,片頭痛の予防には,呉茱萸湯(ごしゅゆとう)などの漢方薬やマグネシウム製剤も使用される。さらに薬物治療だけでなく認知行動療法の有用性も実証されているので,集学的なアプローチを試みるべきである。
Answer
従来薬で予防治療が困難な患者に対しても,CGRP関連抗体薬などの新薬の使用を含め,有効な治療手段が見つかる可能性があります。該当症例では積極的な専門医への紹介を検討しましょう。
もう一言
国民の約1割が症状を持ちながら大多数が受診しない片頭痛診療においては,かかりつけ医をはじめとする非専門医による積極的な患者指導が必要である。改訂された『頭痛の診療ガイドライン2021』では,片頭痛診療のより詳細な記載と共に,2次性頭痛の記載が追加され,非専門医の先生方にも役立つ内容になっている。本書を参考に,ぜひ専門医と連携して頭痛診療に当たっていただきたい。
参考文献・URL
1)Cephalalgia. 1997[PMID:9051330]
2)J Headache Pain. 2021[PMID:33882816]
3)J Headache Pain. 2020[PMID:32912187]
4)Cephalalgia. 2018[PMID:29368949]
5)日本神経学会・日本頭痛学会・日本神経治療学会 監修.頭痛の診療ガイドライン.医学書院.2021.
柴田 護(しばた・まもる)氏 東京歯科大学市川総合病院神経内科 教授
1992年慶大医学部卒。96年同大大学院医学系研究科博士課程修了。同大内科入局後,米Harvard Medical School細胞生物学部門博士研究員,慶大准教授などを経て,2020年より現職。『頭痛の診療ガイドライン2021』(医学書院)の作成に幹事委員の一人として携わる。
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