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書評
2021.12.13 週刊医学界新聞(看護号):第3449号より
《評者》 熊谷 雅美 済生会横浜市東部病院院長補佐
新人・学生と指導者が共に学べる「共育」の名著
本書の著者は,看護基礎教育においては看護教員や臨地実習指導者,継続教育においては新人看護職員研修の担当者育成など,教育学の専門家として,看護教育に長年ご尽力をいただいている。その豊かな経験を通じ,「看護師という職業には,教育学の専門家が想像する以上に,非常に高度な教育能力が要求されている」こと,そして「ほとんどの看護師は,教育課程の中で,教育に関する専門的な知識や技術を学ぶ機会を十分には得ていない」という事実に気付かれた。このことが本書の執筆につながったと述べられている。
著者の具体的な経験を基に書かれた本書は,指導上困難を感じた13の場面を通して,指導者が対象者の理解を深め,対象者に合った教育方法を選択できることをめざしている。ここに登場する新人看護師や学生は,場面や時期は違っても,「何度教えても,同じ失敗を繰り返す」「他の新人はできるのに,同じように成長していかない」「わからないのにわかると言って失敗する」というタイプで,いずれも新人・学生の指導上の3大困難パターンを示していると言っても過言ではないだろう。著者はどのケースも臨場感たっぷりに設定しており,読んでいると思わず「あるある」とうなずける。そして,その状況はどういうことなのか,新人・学生の思考はどうなっているのかを解説し,それを踏まえ,だから指導者はこうかかわってみたらどうかと,教育学に基づいたエビデンスを駆使し論述している。事象⇒事象の説明⇒解決のためのエビデンス⇒解決方法という系統的な論述で,事例を使った著者の授業を受けているようにスッとふに落ちる。
看護基礎教育における看護学生と教員,新人看護師と研修担当者も成人学習者であり,経験学習を通し学んでいく。著者は本書の中で,「教育担当者が新人看護師の状況を理解すること」や「教育担当者自身が教えることに困難を感じていること」を客観視する必要がある,そして学びの営みにおいて,教える者が自身を客観視するメタ認知の力を育成することが必要であると述べている。
教育は,目標とその達成のために方法と評価で構成されるので,目標が達成されなければ,方法や目標の変更が必要だ。指導がうまくいかないことを,対象者の状況と方法のミスマッチだと説くところに,教育者としての著者の立ち位置を感じることができる。
新人看護師が,学校で学んだことと臨床現場で学ぶことに乖離を感じ,就職して1年以内の離職がよく起こったことから,2010(平成22)年,法律が改正され新人看護職員研修が努力義務化された。このことによって,指導に当たる看護師は「教える」ことについて学ぶ必要が生じたことがわかる。今日もどこかで新人看護師と教育担当者が共に学んでいる。本書は,指導する側とされる側が共に成長するために,多くの示唆を与えてくれる「共育」の名著である。
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