Osler医学の道は臨床疫学に通ず
日本臨床疫学会第4回年次学術大会の話題から
取材記事
2021.11.29 週刊医学界新聞(通常号):第3447号より
日本臨床疫学会第4回年次学術大会(大会長=福島医大・濱口杉大氏)が10月30~31日,「原点回帰―患者に始まり,患者に還る」をテーマにWeb配信形式で開催された。本紙で紹介する基調講演「臨床疫学の起源と進化:先人に学び,未来に繋ぐ」(座長=濱口氏,早大・宮田俊男氏)では,3人の演者が近代医学の礎を築いたWilliam Osler(1849-1919)やその承継者の足跡を辿りながら,臨床疫学に取り組む若手医療者に向けた期待を語った。
◆Oslerの精神にのっとり研究成果を患者に還元する
「近代医学の歴史をひもとくと,Oslerが近代医学の大きな転換点を作ったとわかる」。こう語ったのは,日本臨床疫学会代表理事で自らもOsler医学の曝露を受けたと自認する福原俊一氏(京大)だ。福原氏は近代医学の源流には実証主義的に真理を追求するドイツ医学と,患者観察と推論を重視するスコットランド医学があり,Oslerが2つの流れを融合して医学の普遍的な流れを形成したと説明した。その潮流はOslerから後進に伝承され,現代まで脈々と受け継がれている。Oslerの継承者として,診断や治療行為を科学的に評価する重要性を唱えたAlvan Feinstein(1925-2001)や医療の質研究を推進したKerr White(1917-2014)らの業績を紹介。「Oslerを継承した先人が現在の臨床疫学の土台を作った。臨床疫学はOsler医学の自然な帰結と言える」との見解を示した。クリニカルマインドとリサーチマインドを有する日本臨床疫学会の若手医療者に向けて,「Osler医学の精神を承継し臨床疫学を発展させてほしい」と呼び掛けた。
続いて米ハーバード医大大学院のThomas Inui氏は,自身が継承したOslerの精神として,患者アウトカムの最善化を念頭に置きながら最新の基礎科学を自分の診療の評価に活用する姿勢を挙げた。Inui氏は「多くの国で医学部1年目から患者に触れさせ最終学年に基礎医学を教えるようになっている」と海外の状況を紹介。日本でも低学年からの臨床経験が重要になると訴えた。
最後に登壇した香坂俊氏(慶大)は,自身の米国留学における臨床・研究・教育の実践を振り返りながら,医療者が臨床研究を実践する重要性を主張。臨床研究で診療の疑問を可視化して初めて,研究成果を患者に還元できると強調した。「医学は患者に始まり,患者に還る」。若手医療者にはOsler医学の原点であるこの言葉を心に刻み,「臨床現場で仮説を見いだして患者の診療を向上させてほしい」と期待を寄せた。
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