医学界新聞

寄稿 岡山 弘美

2021.11.22 週刊医学界新聞(看護号):第3446号より

 医学部医学科/看護学科を擁する奈良県立医科大学は,医師,看護師の養成を通じて地域貢献に努めている。また,県内最大級の病床数を持つ附属病院を併設しており,1日当たり入院で800人,外来で2000人を超える患者さんに対して高度かつ先進的な医療の提供に努め,県民の健康を守る最後の砦として厚い信頼を得ている。

 そんな本学では2013年度から積極的に障害者雇用に取り組む。かつては1.28%だった障害者雇用率が20年度では3.27%にまで増加し(),21年11月現在は知的障害者28人,発達障害者7人,精神障害者3人が学内の業務を日々担っている。

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 奈良県立医大における障害者雇用率の変化
*国・地方公共団体の法定障害者雇用率は2.5%(21 年度から2.6%に変更)

 本学が障害者を積極的に雇用し始めたきっかけは,法定雇用率算定基礎の労働者数の除外率()が医療業において,2010年7月より40%から30%へと引き下げられたことである。法定雇用率を下回ったことで労働局から指摘を受け,障害者雇用推進の検討を始めた。当時,法定雇用率を達成するためには10人以上の障害者を一度に採用しなければならず,採用者の確保や受け入れ体制の整備が追いつかない状況にあった。特に病院では「重い病気を抱えた患者への対応が障害者にできるのか」「緊急事態が発生した時は大丈夫か」といった懸念の声が聞かれた。しかしこうした声はどこの事業者でも聞かれるものであり,「それを理由に二の足を踏んでいても仕方ない」と労働局等から忠告を受けた。できることから取り組むべく,特別支援学校の生徒の就労支援等を行うNPO法人を介して2014年度に奈良県立高等養護学校から知的障害のある5人の実習生を受け入れた。複数回にわたり実習を実施し,意欲や能力を見極めた上で採用した。これが本学における障害者雇用推進のスタートである。

 当初は大学,附属病院,事務部門の各職場から適宜業務の依頼を受けていた。ただし業務依頼が毎日あるわけではないため業務の範囲が広がらず,障害者の雇用拡大は進まなかった。この問題を解決するため,次の2つの対策を講じた。

1)推進体制の整備

 当時,増大する県民の医療ニーズに応えるべく職員全体の増員を進めていたため,障害者の法定雇用率を達成するための必要数も連動して増大した。そこで2015年度に障害者雇用を専属的に行う部門として人事課に障害者雇用推進係を設け,係長(現在は障害者雇用推進マネジャー。以下,マネジャー)1人,支援員3人が配属された。業務の手順指導や進捗管理,勤務姿勢の指導などを行い,係員となる障害者が現場で実績を上げられるよう支援を行う体制を整えた。

2)業務範囲拡大に向けた取り組み

 次に,附属病院における就労の場での業務拡大を図った。院内では,清掃やベッドメイクが看護師や看護助手の多忙の要因の一つとなっていた。これらの業務を係員が担えば看護師等が患者に向き合う業務に専念する時間が増え,患者満足度の向上につながるのではないかと考えた。病院長や看護部長等に相談したところ,看護部長から「できないことを探すのではなく,できることを探します」との回答を受け,その後職域が拡大した。現在では,病棟や検査部などさまざまな現場で係員が活躍している1)

 雇用数は増えても,辞める人が多ければ元も子もない。障害者雇用においてめざすところは法定雇用率の達成ではなく定着にある。しかし障害者は就労に定着しにくい特性を持つ場合がある。その要因はいくつか考えられるが,事前に解消できるものは解消して雇用継続ができるよう,本学では主に3つの工夫を実践している。

 まず,本学では採用時に意欲や適性の確認を行っている。本人や周囲も含めて誰もが就職に大きな希望を持ち,期待を寄せていることは間違いない。しかし,希望や期待が大きいばかりに,時として本人の適性や意欲が確認されないまま就職が進んでしまうことがある。就職時のミスマッチを少なくするために,採用に当たっては実習を通じて本人の意志や適性を確認している。

 2つ目は,業務に対する適性のミスマッチの防止である。誰しも好き/嫌い,得手/不得手がある。本学にも細かい作業が得意な人/苦手な人,丁寧な性格/大ざっぱな性格などさまざまな係員が在籍している。できる限り適材適所に配置できるように,複数の業務を経験する機会を設け,本人の適性や性格を見極めるように努めている。

 3つ目は,受け入れ体制の整備である。円滑な業務の推進に向けて,本学では障害者雇用推進係以外に現場の担当者(病棟の場合は看護師長・主任等)も支援員として指導に当たっている。中には,現場の支援員に働きを認められていない,十分な指導が行われていないと感じて係員が精神的な苦痛を抱くケースもあった。このような,障害者とかかわる人と障害者とのミスマッチをいち早く察知しフォローできるよう,現場の管理者(看護部長,看護副部長等)とマネジャーとの連携を密にしている。また,障害に起因して勤務態度に波があったり,周囲との意思疎通にボタンのかけ違えが生じたりすることも珍しくない。障害者に何らかの不調が発生した場合はマネジャーが面談を行い,私生活や家族の事情に原因があるケースについては就労支援センターや家族と連携を図り,場合によってはその結果を師長等へ報告している。

 以上の取り組みの結果,一般企業等における障害者の1年後の勤務継続率は5~7割2)であるのに対し,現在本学では9割以上を達成している。本人の特性に合った職場や業務の提供,およびトラブル発生時に係員とマネジャーとを橋渡しする現場の看護管理者の協力が,係員にとって「自分の居場所」となる職場の構築につながったのだろう。

 法定雇用率の達成を目的に障害者雇用に取り組み始めた本学であるが,現在掲げる最終目標は,係員を自主性,主体性のある人材に育成していくことである。「数の確保」から「人材育成」のステージへと変わっていかなければならないと感じている。現在は基本的には現場に支援員を配置せず,障害者だけのチームに任せている。また,実習生を受け入れる時も指導は係員に任せている。ほとんどの係員が,通常の業務を自分たちで準備から後片付けまで遂行できるレベルになった。

 さらに,院内で利用できる携帯電話を持たせて看護師長・主任・助手との「報・連・相」を徹底させており,組織で仕事をしているとの意識も醸成されてきた。とはいえ時には勝手な判断をすることもある,忘れることもある。障害者に対する理解や関心は医療者の中でも個人差があるのが実情だと思う。しかし現場で共に働く看護師には特に,障害者がうまくいかなかった時に非難するのではなく,できたことは認め,できなかったことはその理由を考えさせてもらえるとうれしい。そうすれば,次のステップアップにつながるはずである。

 誰しも他人から感謝されることに喜びを感じるものだ。就労の支援において最も大切な言葉は「ありがとう」である。任せた仕事をしっかり遂行できたら感謝の気持ちを伝えることが,次の仕事へのモチベーションにつながるはずである。一人の労働者として彼らと向き合いながら,医療従事者等とともに支援し,障害者雇用から看護補助へのスキルアップ,一般就労へつなげていきたいと考えている。


:障害者の就業が一般的に困難であると認められる業種について,雇用する労働者数を計算する際に,除外率に相当する労働者数を控除する制度。

1)奈良県立医大.係員の障害区分と担当業務.
2)障害者職業総合センター.調査研究報告書No.137――障害者の就業状況等に関する調査研究.2017.

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奈良県立医科大学法人企画部人事課 障害者雇用推進マネジャー

1983年奈良保育学院卒。民間保育園,重症心身障害児施設の療育部課長などを経て,2015年より現職。保育園の園長として障害者雇用保育補助業務を行った経験から,現在は障害者雇用推進係でジョブコーチとして支援を行う。