2020年『胃と腸』賞授賞式
取材記事
2021.11.15 週刊医学界新聞(通常号):第3445号より
2020年『胃と腸』賞の授賞式が,2021年9月15日(水)に行われた。本賞は『胃と腸』誌に掲載された論文から,年間で最も優れた論文に贈られるもの。新型コロナウイルス感染症の影響で,授賞式は昨年に続きWeb上で行われた。
今回は対象論文202本の中から,入口陽介氏(東京都がん検診センター消化器内科)らによる「スキルス胃癌のX線診断-4型胃癌の年次推移,形態学的・病理組織学的検討」[胃と腸.2020;55(6):779-93.]が受賞した。入口氏には事前に賞状と盾が贈られ,当日は選考委員の松本主之氏(岩手医大)から,選考経過の説明とともに祝辞が述べられた。
◆4型胃癌のタイプ別に臨床病理学的特徴を検討
胃癌の主な原因となるH.pyloriの除菌治療が近年拡大したことにより,H.pylori陽性胃癌の発生は今後の減少が予想される。しかし「胃癌取扱い規約」での4型胃癌についてはそもそも発生率が低いことから,発生率の年次推移やH.pylori未感染および除菌後症例について不明な点が多く,考証が待たれていた。
そこで入口氏らは「消化器がん検診全国集計資料集」に基づく統計データの検証により,4型胃癌についても発生が減少傾向にあることを明らかにした。続けて1990~2019年の29年間に自施設で経験した4型胃癌93例について,原発巣の占居部位別に①胃底腺型,②腺境界型,③幽門腺型に分類。さらに除菌後胃癌が見られ始めた2007年を境に前期45例,後期48例に分けて考察した。
考察の結果,①では前後期ともに原発巣の大きさが25cm2以下で陥凹は深く,組織型は未分化型腺癌が多い点,②では前後期ともに原発巣の大きさが50cm2以上で陥凹は浅く,特に後期では組織混在型の割合が増加していた点,③では原発巣の大きさに比較して粘膜下層以深の面積は大きくなく,前後期ともに組織混在型が約30%に認められた点を明らかにした。加えてH.pyloriの感染状態も併せて検討し,未感染例および除菌後例の割合増加とスクリーニング時に観察すべき特徴を報告。4型進行胃癌の正確な診断には,原発巣の部位・背景粘膜の相違による形態学的・病理組織学的特徴を十分に理解した上で,スクリーニングや精密検査を行うことが重要であると結論付けた。
入口氏は「受賞は,早期胃癌研究会に継続して参加できた賜物」と受賞の喜びを語るとともに,早期胃癌研究会の運営委員や恩師,同僚への感謝を述べた。
授賞式の模様は『胃と腸』誌(第56巻12号)にも掲載されます。
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