医学界新聞

書評

2021.11.01 週刊医学界新聞(通常号):第3443号より

《評者》 日本臨床徒手医学協会代表理事

 「手術と術後リハビリテーションは一体であるべき」との北の大地,北海道の強い意志を感じ取れる一冊です。

 本書の構成は総論と各論に分かれています。総論では手術後リハビリテーションで必要な各種評価法,画像の読影法,麻酔の詳細,臨床検査の診かた,そして生物心理社会的因子としての心因性にまで及ぶ内容が網羅されています。各論では,各専門領域の第一線で活躍中のセラピストの先生方が,部位ごとの疾患の特徴と手術の内容,そして術後リハビリテーションを行う際に必要な基礎知識から実践までをわかりやすく解説しています。部位に特化せず,全身にわたって,整形外科でなじみ深い疾患を取り扱った書籍は今まで,あまり目にしたことはありません。

 本書の特徴は,表題にもなっている「こんなときどうする!?」です。

 臨床で毎日行っていたカンファランスで自分が頻繁にスタッフに投げかけていたことを懐かしく思い出しました。今回提示されている内容は,臨床経験を重ねた臨床家ならではの内容となっています。クリニカルパスを活用されている場合,パスから逸脱して,難渋する「ネガティブ・バリアンス」は日常的に生じます。そして,臨床で一度は必ず問いかけられる不安に満ちた患者さまからの質問,あるいは遭遇するであろうセラピストの悩みを,経験豊富なセラピストが手術前,手術後の急性期から,退院時の日常生活指導まで時系列に沿って,豊富なフルカラーの写真を用いながら非常にわかりやすく解説してくれています。きっと,患者さまへの説明時に,活用できる内容だと確信します。

 本文の端々にちりばめられた「臨床MEMO」においても,いまさら聞けないような介護保険からバイオメカニクス,理学検査の診かた,手術方法に至るまで,普段の回診やカンファランスで飛び交う「文言」をピンポイントで押さえてあり,ここでもわかりやすい説明が施されています。

 整形外科の手術後リハビリテーションをひもとくために,ぜひとも手元に置いて,活用していただきたい一冊です。


《評者》 日大名誉教授/公益財団法人日本アイバンク協会理事長

 『角膜クリニック』は1990年に初版が上梓され,その後,増刷と改訂を重ね今回第3版が発刊され,角膜に関する金字塔と考えています。初版の序文にありますように難治性角膜疾患の治療の臨床をテーマとしての角膜専門外来が起点ですが,臨床医学は病態生理についての知見の集積と構築とがいずれの分野でも必須です。眼表面疾患は“Atlas der Spaltlampenmikroskopie des Lebenden Auges”(A. Vogt, 1842)にみられるように,1842年に角膜内皮像を含む角膜所見が得られていたと感じ入りました。一方で,角膜の透明性を含む病態生理はDM MauriceのLattice theoryなど1960年代の研究が現在の基盤になったと考えています。その後,本書初版にあるように細胞レベルでの病態研究,分子生物学,第2版では遺伝学的研究などの発展が加えられました。第3版の今回は角膜移植や再生医療に関する研究成果に関して改訂されました。

 本書の特筆すべきことは上記のごとく,水川孝教授,眞鍋禮三教授,大鳥利文教授らの阪大医学部眼科学講座では単なる角膜の臨床ではなく,その基本となる病態生理の重要性を後進の方々が深く理解,体得され,第3版では西田幸二教授を筆頭編集者として,51名の執筆者の内容をまとめられたことにあると思います。単著または2,3名での著作は全体を通しての整合を図ることは容易ですが,多岐にわたる病態,臨床にわたるため多くの方に執筆を依頼せざるを得ず,その分,内容の整合を図るのは大変であり,編集者のご苦労が多かったと思います。

 本書は「正常角膜」で病態生理,「異常角膜所見」でほとんどの角膜疾患が網羅されています。「検査編」では基本的な細隙灯顕微鏡から細菌,遺伝子検査などが記載されています。「治療編」では薬物とその薬理から再生医療まで記載されています。

 私自身は常に診療において,症状,所見,鑑別診断,確定診断と進め,患者には診断,原因(解明されていなければその旨,頻度),治療法(薬物,観血的,治療しない場合も含む),そしてそれら治療法の予後を説明することとしています。こうしたことで本書を拝読して,「正常角膜」と「検査編」は,日常診療を行う上でたとえ結膜炎を診察する場合でも,どういう病態,所見であるかを考えつつ診察を行う上で必読です。「異常角膜所見」と「治療編」は症例に対して診断以降のプロセスでその都度,項目を参考にするのが有益と思いました。

 本書の内容とのかかわりですとKeratitis superficialis diffusa(KSD)があります。以前,東大系はSuperficial punctate keratitis(keratopathy)(SPK),阪大系はKSDと記載しており,東大の三島済一教授からKSDは好ましくないとの指摘があり,2回にわたる角膜カンファランスにおいて海外の文献を基にSPKに統一するとなりました。その際,扱いに苦慮したのがAdenovirus後のThygeson’s SPKでした。これは欧米では確立された病態でしたので,SPKとは別にThygeson’s SPKと記載することになりました。近年,アデノウイルス角結膜炎の角膜所見に多発性角膜上皮下浸潤との用語が使用される旨の記載がありますが,私には馴染めません。

 角膜穿孔もしくは切迫穿孔に対する角膜移植手術療法の記載があります。日本アイバンク協会ではメーリングリストを介して全国のアイバンク(限定登録)の間でこうした緊急に角膜移植を必要とする症例に対する緊急あっせん要請システムを運用しています。緊急要請例の約7割以上に角膜の緊急あっせんが行えていることを追記させていただきます。こうした緊急例を生じましたら,地域のアイバンクに連絡をとっていただければと存じます。

 阪大医学部眼科学教室が眞鍋教授の薫陶のもと,西田教授にその連綿たる業績が本書に結実し,今後さらに継続されることを祈念申し上げます。


《評者》 常葉大准教授・理学療法学

 本書は整形外科的疾患,脳神経疾患,内部疾患,生活習慣病などのうち,理学療法士が臨床でよく担当する疾患や病態を厳選し,実際の臨床現場でのリハビリテーション医療に生かすための薬剤の知識の理解に焦点を絞って解説している。

 病態ごとに具体的な症例を提示し,その一般的な特徴から,理学療法を施行するに当たっての医師からのリクエスト,そして,理学療法を行うに当たっての薬剤の注意点と効果的な進め方を,医師と理学療法士のそれぞれの視点から説明しており,全ての理学療法士にとって参考になる。また,全項目に共通して,多職種間で行われる臨床上でのやりとりがイラストを交えて記載されており大変読みやすく,その内容も医師から理学療法士へのサイン,問い掛け,助言,心の声など多彩に表現されており臨場感が感じられる。また,処方された薬剤がいつまで使われるか,病期による病態や症状の変化による薬剤の調整,理学療法中の事故を防ぐための中止基準やリスクマネジメント,そして理学療法上のポイントがわかりやすく記載されている。定評のある薬剤の専門書は詳細な解説が魅力ではあるが,理学療法士にとっては難解なものもある。しかし,本書はあくまで理学療法士の視点に立った内容となっており,このような形態の本は今までなかったと思われ,楽しみながら学習することができるのも魅力である。

 全ての理学療法士において,症例の評価の一つとして薬剤のチェックをすると思うが,その際にはまずは本書を本棚から取り出し,ぜひ,病態と併せてその薬剤について調べてもらいたい。また,医師,看護師,薬剤師との円滑なチーム医療,そして情報交換のための基礎的な薬剤の知識を本書によって身につけてほしいと考える。本書に記載されていることが理学療法士の共通知識になれば,理学療法の水準が一段高くなり,今よりもリハビリテーションの現場が実りあるものになることは間違いない。


《評者》 済生会川口総合病院名誉院長

 約25年前に日本で用いられたクリニカルパスは,現在の医療現場(病院)においては,大中小の規模に関係なく必要不可欠となっている。

 2012年に『クリニカルパス実践テキスト』初版が,日本クリニカルパス学会の学術委員会から発刊された。以降,同学会の学術集会ではクリニカルパス教育セミナー(約6時間)が毎回開催され,ついに2021年にこの書『現場で使える クリニカルパス実践テキスト 第2版』が医学書院から上梓された。

 私は現在同学会の名誉会員であり,第9回の同学会学術集会の会長を務めさせていただいたことから本書についての書評を述べたいと思う。

 医療現場では,まさに「チーム医療」であり,医師,看護師,薬剤師,栄養士,理学療法士,臨床検査技師,作業療法士,放射線技師,介護福祉士,病院管理者,医療事務担当者などの医療側と,当事者である患者など全ての医療にかかわる人々がチーム一体として,PDCAサイクルを回して質の高い医療が提供されている。

 多くの医療機関である病院では,質向上のために日本医療機能評価機構やISO9001,JCIなどの第三者機構から評価を受けており,病院の医療の質改善,質向上に常に努力が傾注されてきている。

 内科系疾患や外科系疾患など,医療が必要とされる多くの疾患にはこのクリニカルパスが該当となっているし,近年では電子カルテの導入になってからもe-パスといわれる電子クリニカルパスが臨床現場では常態化し,信頼性,透明性からも有用性が高いものである。医療者と患者の間での情報の共有化においても,このクリニカルパスはその力を発揮している。

 今回出版された『現場で使える クリニカルパス実践テキスト 第2版』は,現在の同学会理事長を務めている山中英治先生をはじめ,同学会の学術・出版委員長である今田光一先生,副委員長の勝尾信一先生,同委員の岡本泰岳先生方の編集により,前述の先生方を含むベテラン先生方(22人)のup-dateな内容と,正に実践に即した内容の深い書籍になっている。「匠のコツ」「トピックス」で秘技や最新情報満載であり,ナースセンターのみならず,種々の検査室にぜひ一冊を置いて,常にパスを実践しながら,質の高い医療を提供していただきたい。

 1999年に済生会熊本病院の須古博信先生(初代理事長)が日本クリニカルパス学会の第1回学術集会を熊本市で開催され,当時はパスから逸脱するとバリアンス症例となり,パス終了になったが,現在ではPDCAサイクルを用いたクリニカルパスが医療の本質になっている。二代目理事長の副島秀久先生がクリニカルパスを学問的に発展させ,P→Dは当たり前で,C→Aになってバリアンスが発生してもオールバリアンス方式を採用してパス自身は「改善する手法」となり,Aで臨床・財務・患者満足度などのアウトカム向上,質の向上を導き出すこととした。

 2003年,入院医療にDPC包括支払い制度が導入され,2年ごとに行われている診療報酬改定によって,このDPC制度は進化し,精緻化されてきている。このDPC制度を導入している急性期病院には,クリニカルパスは切っても切れない関係にある。前述した財務の向上につながることによって,病院経営を有効にするにはこのクリニカルパスの導入は必須である。

 最後に,本書を出版した医学書院は,医学・医療に特化した出版社であり,緻密な編集能力を有した質の高い会社であり,この第2版の発信力を期待したい。また,同学会の理事・評議員の多くの先生が協力し,お互いに協議して本書が作成されたことと,同学会が2009年に発刊した『クリニカルパス用語解説集』を同学術委員会が基本にしていたことは想像に難くない。

 ぜひ,本書が臨床現場で活用され,質の高い医療が提供され,患者にとって満足度の高い医療になることを御祈念申し上げる。

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